…時は進み次の日の日曜。

『「行って来まーす!」』

今日は学生にとっては嬉しい日曜日。にも関わらず、悠那と天馬は相変わらずのジャージ姿で鞄を肩から吊る下げて木枯らし荘のドアから外で落ち葉集めをしている秋にそう告げていく。日曜日でもサッカーをやるのはこの二人にとっては日課だったが、少しだけ疑問を持った秋は疑問符を浮かばせてホウキを動かす手を止める。

「あら?日曜なのに朝練?」
「違うよ!信助の特訓だよ!」
「特訓?」
『うん、三人で必殺技作ってるの!』

友達の特訓の為に一肌脱ぐ天馬達は、やはりどこかお人好しなのかもしれない。二人の事情を聞いた秋は表情を緩めて懐かしそうに生き生きとした顔の天馬と悠那を見てきた。二人の姿が、どこか自分の知る人と被ってしまい、自分もまたその人達の中に混ざって応援をしていた。似ているのだ。どこか変わってしまった現在(いま)だが、昔も今も変わっていないその性格が。

「へえ、何か懐かしいな」

そっか、秋姉さん10年前の雷門イレブンの元マネージャーだったから。
悠那もまた、思い出したように脳裏をあさっていた。秋の他に、マネージャーだった春奈だってサッカー部が戻った事で今の秋みたいに懐かしさを思い出しているに違いない。だけど、昔の秋を知らなかった天馬は頭に疑問符を浮かばせながら「え?」と秋の言葉に耳を傾ける。だが、そんな天馬に秋は首を振った。

「ううん、何でも無いわ。頑張ってね!」
「うん!行って来る!」

必殺技完成はそう簡単に出来るものじゃない。天馬だって先輩を相手にしてやっと出来たものなのだ。だから、もしかしたら今日、お昼食べないかもしれない。悠那その事を河川敷に行く前に言えば、「じゃあ後で持って行くわね!」と返してきた。不思議な事に気分はピクニック気分だ。たまには河川敷で食べるのもいいかもしれない。

『ありがとう!じゃあ私も行って来るね!』
「行ってらっしゃーい!」

悠那はそう言うと秋に手を振りながら天馬の後を追って行った。秋もまた、その走って行く姿も懐かしそうに見て、再び落ち葉を集めていった。

…………
………

ー河川敷ー

「行くよー!!」
『OKー!!』
「来い!!」

河川敷に着いたら、もう信助はおり二人はジャージを脱いでユニフォームになった。因みにユニフォームはジャージの下に着ていたので問題はない。十分に体を解した天馬は二人の準備を見て、信助と悠那の頭上に向かってボールを上げる。それと同時に信助は助走を付けていき、その場で踏み込み悠那の両手を踏んで、悠那は力一杯に信助をボールに届くように上げた。

「はあぁぁ!!……あ、」

悠那の手を踏み台に跳んだは良いが少しだけ力が足りなかったのか、信助はボールに届かなかった。信助はそのままボールに掠りもせずに、地面へと落ちていく。流石にもう慣れたのか、地面とご挨拶せずに済みよろけながらも着地をする。ボールもまた先程まで頭上にあったものの勢いを無くし、そのまま落ちてくる。地面とご挨拶したボールは何回か跳ねて、悠那の所まで転がってきた。悠那はそれを片足を乗せて動きを止め、信助の方を見て難しい顔をする。

『高さが足りないなあ…もう少し高く上げようか?』

自分がもう少し上げる力を強くすれば、信助は今のボールに確実に届いていた筈だ。っあ、でもそれじゃあ信助の為にならないな。元々これは信助自身の必殺技の特訓であり、二人技の特訓ではない。信助自身があのボールに届かないとこの必殺技の意味が無いのだ。自分の言葉に甘えが見えた。前言撤回しようと、口を開こうとするがそれは首を横に振った信助が遮った。

「ううん、感覚は何となく掴めたから大丈夫!」
「じゃあ、もっと低く蹴ろうか?」

信助が自分から自分のしたいように選んだ。悠那がそれを見て小さく微笑めば、今度は天馬からの声。確かにボールを低い位置から段々と高い位置に変えていけば何とかなるかもしれない。だけど、信助はその意見にも首を縦に振らずに横へと振った。

「ううん、もうちょっとで出来そうなんだ。思いっ切り蹴ってよ!」
「うん!じゃあ次行くよ!!」

信助の意見は変わらない。強い意志を持った信助は、自分達が考えている以上に悔しくて、強くなりたいと思っているに違いない。そんな小さくも大きい姿をした信助を見た天馬もまた小さく微笑んだ。信助がそう決めたなら自分達もそうしよう。そう言って天馬はボールを蹴り上げて、信助も悠那に手伝って貰い、勢いよくボールへ向かって飛び上がった。

…………
………

あの後も何度も何度も信助は休みを取らずに挑戦し続けた。そして、何度も跳んでは失敗している。悠那の手もいつの間にか真っ赤になっていた。だがそれでも、悠那信助の為になりたいと思い、黙って信助を手伝った。

「届け…届けえ!!」

そして、遂にジャンプをして、何度目かの正直。信助はヘディングでボールに触れる事が出来た。

『触った!』
「やったあ、これだ!!このタイミングだ!!」
「良い感じじゃない?今の良かったよ!!」

ボールをちゃんと頭に当ててフィールド外に出した信助。着地も無事に出来た所で天馬も悠那もスゴいスゴいと言った。形もやっと必殺技らしくなってきた。これが信助の目指したい必殺技の形。早く完成したものが見てみたいものだ。

『これなら私の台はいらないかもねっ』
「じゃあ、次から無しでやってみる!」
『頑張ってね!』

今度は悠那の踏み台無しで特訓をやってみる事に。今の特訓の仕方で上手く行ったなら、次の特訓の仕方だってきっと上手くいく。

「うん!天馬、もっとどんどん蹴ってよ!!」
「じゃあ行くよ!」

悠那に向けて笑顔で頷き、天馬と向き合う信助。悠那は直ぐに手を背中に隠し信助と天馬から離れ、ベンチへと向かって歩いていった。そして、再び練習が開始され天馬がボールを蹴り上げた。それと同時に信助も高く飛び上がってヘディングでボールを弾いた。悠那の台のお陰かは分からないが、かなり良い線まで行っていた。

「やったあ、やったあ!」
『支え無しでここまで行くなんて凄いよ!!』
「やったね信助!!凄いや!!」
「うん!!僕の“ぶっとびジャンプ”が出来たよ!!」

天馬、悠那、信助の三人は信助がボールに届いた事に喜び合っていた。だが、信助の跳ね返したボールは意外にも威力が無く、地面にバウンドする時もあまり力が無かった。ゆっくりと転がっていくボールはそのまま誰かの足の下へと収まった。

「いや、ダメだ」
『「「え?」」』

声の聞こえた方を見ればそこにはジャージ姿の三国、車田、天城の三年生一同が居た。三国の足の下には先程信助が頭で跳ね返したボール。それを手で拾い上げた三国は直ぐにこちらを向いていつもと変わらない笑顔を向けてきた。

『「「先輩!!」」』
「それじゃあまだ完成とは言えない」

何故ここに、と疑問符を浮かばせる前に三国がそう言ってきた。だが、代わりに何故今のが完成じゃないのかが疑問符となって現れた。それを一番気になっていた信助が真っ先に三国達に聞いてきた。

「まだ完成じゃないって、どういう事ですか?」
「ジャンプもヘディングも最高のタイミングだったと思いますけど…」

三国の言葉に信助と天馬は分からないというように首を傾げる。二人の言葉に耳を貸し、三国の言う完成じゃないという意味に悠那は先程の信助の事を思い出す。確かに天馬の言う通り、ジャンプもヘディングのタイミングはバッチリだった。だけど、バッチリだった割には威力があまり無かったように見えた。

「何が…どこが悪いんですか?」
「試合なら、ゴール前はもっと混戦になる筈だド」
「周りに他の選手が居る中でも使えるようにならなきゃ、完成とは言えないだろう」

天城と車田がそう指摘した。今は特訓中でここは河川敷。試合だったら周りは殆ど敵だらけになるだろう。それに味方もどこに居るかを把握しなきゃボールはカット出来てもパスが出来ない。信助みたいに体が小さいと、余計そこに神経が使うに違いない。一年生三人はそれに納得したのか、「そうか!」と声を上げた。

『じゃあ、さっきのは第一段落クリアって所ですか?』
「まあ、そんなとこだ。そういえば悠那、手は大丈夫なのか?」
「「え?」」

悠那の言葉に三国はそう頷いた。すると、三国の視線は悠那の手元へといき、大丈夫かと聞いてきた。それを聞いていた天馬と信助は疑問符を浮かばせながら悠那へと視線を移してきた。先程の目の輝きはどうしたと言いたい所だが、悠那はその視線に気付いてから、少しずつ冷や汗をかいていき手を後ろに回した。

『な、何の事で…しょうかー…』
「惚けるな。真っ赤だったぞ」
『っう…』

やはりお見通しだった。悠那は三国の言葉に直ぐに惚けるのを止めて、背中に隠していた手をお腹まで持って来た。そして、改めて悠那の手元へと視線を移して見てみれば、悠那の手は普段の色より真っ赤になっており、泥が付いていたり、豆も出来ていた。

「その手!?」
「…もしかして、僕の所為…?」
『ち、違うよ!?ちょっと寒くて…!』
「今日は温かい日だド」
『あー…あははは…そういえば、そうでしたねえ…』

天馬や信助の焦る顔が手に取るように分かった。特に信助がかなり。だからこそ、悠那は笑って誤魔化そうとするが、天城に指摘されてしまい仕舞いには信助にもそんな言い訳は通じずに、逆効果を招いてしまった。信助は暫く悠那の赤くなった手を見た後に顔を俯かせる。

「痛かったら言ってくれれば良かったのに…」
『…あ、ごめんね…別に痛くは…

………いだっ!?』
「痛いんじゃん…」

天馬に軽く手を触れられただけで涙目になる悠那。その様子からして痛い事が発覚した。くそう天馬め。黙って大人しくしてれば良いものを。そう言いたい所だが、流石に自分から墓穴を掘りたくないのでとりあえず黙って天馬を睨み付けといた。あまり怯んでる様子が見れないが図星なので仕方ない。もう逃げ道は無い。そう確信した悠那は、苦笑を浮かばせて信助を見た。

『…信助。私は信助の気持ちが分かるから手が赤くなっても続けられるんだよ』
「悠那…」

元々お互いに必殺技を持っていなく、チームの足手まといとなっていた。悠那は化身をもった事にそんな不安は無くなったが、信助にはまだあるのだ。これから、自分達はフィフスセクターを倒す為、強くならなければならない。信助は悠那の思いやりに、素直にお礼を言った。それを見た三国はふうっと一息吐いて視線を一年生達に移した。

「俺達も手伝う。俺達三年にはこのホーリーロードが最後の大会になる」

三国はそう言うと、車田にボールを渡してきた。

「絶対優勝したいんだ。自分達の力で」
「ああ、万能坂との試合で分かったド。自由にサッカーやるのは楽しいド!」
「それに信助の必殺技が出来ればチームの強化にもなるからな。一緒に完成させよう!!」

三国は車田に渡したボールに再び手を置いて一年生達にそう言った。自然と自分達の頬が緩んでいく気がした。

『「「先輩…ありがとう御座います!!」」』

天馬、悠那、信助が頭を下げて改めてお礼を言った。三年生が手伝ってくれるだけでどれだけ心強いだろうか。そうと決まれば、先輩達もジャージの下に着ていたユニフォーム姿になり、練習が始まった。


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