『「「すみませーん!!」」』

既に着替えていた信助は天馬と悠那を待っていたのだろうか、一緒に走って来ていた。グラウンドに向かい、土手からグラウンドを見下げてみればやはりそこには2、3年生の先輩達がおり、既に練習を始めていた。つまり、完全に遅刻だ。

「遅いぞ!」

土手で暫く見ていて神童はかなりピリピリとしていた。昨日の試合でかなりやる気があるように見える。グラウンドへと入ってきた一年生達にキャプテンとして神童は、遅れて部活に来た後輩には厳しく叱かった。息切れをしながら天馬、悠那、信助はボールを片足乗せている神童に近付いて行く。完全に怒っている神童に申し訳なさに、悠那は頭を上げられない。せっかく皆と分かり合えたのに、自分がそれを乱してどうする。本当に、申し訳ない。すると、天馬と自分の間から信助が神童に向かって歩いてきた。
俯かせていた顔も神童の前にきた瞬間、申し訳無さそうにも上げた。

「僕の所為なんです!必殺技の特訓をしてて…」
「必殺技?」
「はい!僕も先輩達みたいに出来たら良いなって!!」
「へえ、どんな技なんだ?」

信助のその言葉を聞いた瞬間、神童の他に信助の話を聞いていた三年生達が食い付くように神童の周りに集まってきた。それを見た信助は少し恥ずかしそうに頭を掻きながら躊躇う。

「あー、えっとお…“ぶっとびジャンプ”っていうDF技で!」
「“ぶっとびジャンプ”?」
「何だそりゃ;」

三年生一同もどう応えればいいのやら。反応に戸惑っていた。あの神童ですらだ。その様子を見た悠那はまた乾いた笑いを漏らした。

「えっとお、とにかくジャンプ力を生かした技なんです!」

すっかり自分達に置かれた立場を忘れている信助。そんな熱くなってきている信助を見て、悠那は少しずつだが信助も天馬や円堂と似てきたなと思い始めていた。

「やる気は認めるが、時間は守れ」
『「「はい!」」』

なんだか私も、必殺技欲しくなってきたかも。
信助のそのやる気を見て、密かに思い始める悠那。だが、今は信助の必殺技を完成させるのが優先だ。それに今は化身の力を手に入れたのだからそんなに欲張り出来ない。

「昨日ちょっと良いとこ見せたからって、気い抜いて遅刻してんじゃねーよ」
『なんか倉間先輩の僻みも可愛く聞こえてきたよね』
「…おいコラ谷宮!!誰が僻んでんだ誰が!!」
『げっ、聞こえてた』
「テメッ…!」
『あふいっ』

自分達から少し離れて呟いていた倉間の言葉を一文字も残さずに聞いていた悠那は横に居た天馬に小さく呟けば、天馬は苦笑しながら返答に困っていた。そしてそれは、神童達どころか倉間にも聞こえていたらしく、若干顔を赤くしながら悠那にと突っ込んで来た。それを見た悠那は、ヤバッと言わんばかりに言っていたが、表情からしてあまり焦っている様子が見えなかった。寧ろ今の様子を楽しんでいるように見えて仕方がない。
倉間の怒りのゲージが上がって行く中、悠那は変な声を上げながら笑みを浮かばせる。

「…そういえばお前、昨日先輩に向かってタメ口をきいてたな?!」
『あ』

倉間が思い出したように言えば悠那からの間抜けな声。そんな悠那に、倉間の怒りのゲージが限界に近付いていった。そして次の瞬間には、倉間と悠那の追いかけっこ(鬼ごっこ)が始まってしまった。

「良いとこ見せたって言えば剣城もだけど、来ないね〜」
「……」

悠那はその浜野の言葉を聞いた瞬間、走るのを止めてしまう。すると、後ろで追いかけてきた倉間も走るのを止めて、浜野を見た後に悠那を見てきた。倉間の位置からでも見える悠那の表情。いや、倉間の位置だからこそ見えた悠那の表情。先程人をバカにするような顔でもないその顔に、倉間は腑に落ちなさそうに目線を外した。
京介、大丈夫なのかな…

『…京介』
「ユナ…」
「もしかして、フィフスセクターを裏切ったから罰を受けたのかも…」
「え!?」

落ち込む悠那。やっと自分達は剣城と分かり合えそうなのに、この仕打ちはかなり辛い筈。そんな彼女を心配そうに見る天馬。だが、追い討ちが来るように速水の一言が。その速水の言葉に全員速水の方へと視線を送ってきた。
確かに剣城はフィフスセクターから送られてきたシード。もちろん兄の為に、したくもない忠誠を誓ってこちらにきたのだ。そんな彼がフィフスセクターを裏切るような真似をしたら、なんらかの罰だってある筈だ。

『…罰、』
「剣城だけじゃありません!俺達だってどうなるか…」

過去に無いそんな罰。雷門がまだ残っているのが珍しいくらいだ。サッカー部の廃部がいつきてもおかしくないのに、フィフスセクターはまだ何も言って来ないのだ。それがどれだけ精神的に来るのか。周りの皆に比べて、まだオドオドしている速水。そんな速水の背中が皆とは違って小さく見えたのは気のせいだろうか。

「覚悟は、してるド!」
「俺達は自分の意思で、第5条に逆らうと決めたんだからな」

それでも三年生達は自分達の意思をちゃんと決めてあり、以前のような死んだ目をしていなかった。今は生き生きとしている。だが、ここで一年生達に疑問が生まれた。

「皆さんはそうでしょうけど…」
「第5条?」
『何ですかそれ?』

まだ不安そうな表情を浮かばせる速水に、何の事だか分からない単語を聞いた一年生一同はその単語に首を傾げた。そして、悠那の言葉の意味を聞き、速水は先輩達に向けていた視線を一年生一同に戻してきた。うむ、相変わらずの不安そうな表情をしている。

「知らないんですか?」
「はい…」

知らないのが信じられないのか、ありえないとでも言いそうな声を出してきた。寧ろ知っていて当たり前の事なのだろうか。

「少年サッカー法第5条“サッカーは皆、平等に愛されるべきである。その価値ある勝利も、平等に分け与えられるべきである”」
「少年サッカー法…」
「それを守る為にフィフスセクターが作られたんだ」
『……』
「試合の勝敗を管理し、勝利を分配する…

そんなサッカーはもういらない!俺達は間違ってはいない。勝ち続けて、取り戻すんだ。本当のサッカーを、俺達の手に!!」

フィフスセクターが作られた意味。サッカーはみな平等。その言葉に、自分は情けなくもいいと思ってしまった。皆平等になれば、自分はもう、孤独にならなくていいと。だけど、それじゃあダメなんだ。皆平等じゃないから、人はいくらでも強くなろうと努力をしようとするんだ。皆平等じゃないから、色んな強さがあるんだ。神童のその熱い思いに三年生達も力強く頷いた。

「勝ち続ける、かあ…」
「指示通りに試合するより難しいド…」
「ああ、だがやるしかない」

皆平等じゃないから、サッカーの楽しさがたくさんあるんだ。そんな三年生達の様子を見て、悠那は改めてそう感じられた。
だったら、足を動かせない優一さんの為にも、動かせるようになった時に楽しくサッカーが出来るように、自由に動けない京介の為にも、私が頑張って自由に動けるように…強くならなきゃ…!

『私達も頑張ろう』
「「うんっ」」

作った拳を固く握り締め、近くに居た天馬と信助に悠那はそう言った。二人はそんな悠那に気付かず、ただ純粋に頷いた。

…………
………



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