『ねー待ってよー!!』
「早く早く!!」
『天馬ー会話というキャッチボールを私としないかーい』

早朝、桜も入学式の時とは違い散ってしまった今日この頃。昨日あった万能坂中との試合にも勝てて、京介とも何とか和解出来た。そんな事が嬉しくて仕方がないが、私以上に嬉しそうにしていた。それが、自分の目の前で走っている天馬。落ち着くように声をかけてみるけど、そんな事言ったって今の天馬は止められないけどね。てか今の逆ナンみたい。
と、そんなどうでもいい事を思いながら、朝から走り込みをするのは悠那。自分の数歩前には軽快に走る天馬。天馬が朝からこんなテンション高いなんて知らなかったな、なんて思っていると、急に目の前が暗くなった。

『…ん?……うわっ!!』
「っと…大丈夫?ユナ」
『いったた…』

目の前が暗くなった原因はどこか余所を見ていた天馬だったらしく、悠那は走るのを止めてしまった天馬とぶつかってしまい、体勢を崩してしまった。天馬にはそれほどダメージが無かったのか、直ぐに悠那の腕を掴んで悠那を心配そうに見てきた。

『急に止まんない…で、よ…

……Σ!?』
「ごめん、ユナ」
『ち…』

近い…!!
痛そうにぶつかった鼻を手で抑えながら天馬を見上げてみれば、自分の直ぐ目の前には天馬の顔が。それが分かった瞬間、徐々に顔が赤くなる悠那に対して天馬は悠那の無事を見て、何事もなかったかのように河川敷の土手の下を見下げていた。

『天馬…?』
「はあぁぁー!!」
『この声…』

そこで天馬を見上げるのを止め、声が聞こえた方を見る事に。そこを見れば、木に吊してあるサッカーボールに目掛けて必死にジャンプをしているユニフォームを着た信助の姿があった。

『信助?』
「何やってるのー?」
「うわーっと…うわあ!?」

天馬がボールに向かって走って行く信助に話しかける…が、いきなり話しかけられた事により、信助はその声にビックリしてしまい、誤って転んでしまった。

『し、信助?!』
「あ、ごめーん!!」

それを見た天馬は悠那の手を離し、信助の元に駆け寄って行った。悠那もまた天馬の後を追い、階段を転ばないように降りて行く。

「っっ…」
「大丈夫?」
『思いっ切り転んだけど怪我ない?』

土手を下りた天馬は急いで信助に手を貸し、立たせてあげる。手を借りて立ち上がった信助に悠那もまた、心配そうに声をかけた。

「ありがとう。うん、大丈夫だよ!」
『良かったあ…』
「…あれ何なの?」

信助の顔やユニフォームには泥が付いただけであり、外傷は全く目立たない。天馬は信助が怪我が無いのを確認して、さっきまで信助が何かの練習をしていただろう木に吊してあるボールを指差して聞いた。

「必殺技の…特訓…」
「え?」

信助は自分に付いた砂埃を払い、天馬の問いに頭を掻きながら照れたように答えた。

「僕も自分だけの必殺技を身に付けようと思ってさっ」
「へえ〜!」
『スゴいね!』
「もっと頑張らなきゃ…天馬や悠那みたいに…」
『あ…』

そういえば、昨日の信助もこんな思い詰めた顔をしていた。試合の話しをしても、どこか寂しそうな、悔しそうな顔をしていた。もしかしたら、彼は自分だけ必殺技が無いと、気にしていたのかもしれない。事実、私もあの時化身が出せなかったら、試合に勝てなかったし信助と同じように必殺技持ってなかった。信助の気持ち、スゴく分かる気がした。

「昨日の試合、僕は万能坂中の攻撃を止められなかった…」
『…誰にでも失敗はあるよ…?』
「それじゃダメなんだ…!…必殺技があれば、もっとチームの役に立てると思うんだ…!」

頭の中には昨日の試合。先輩達が活躍するなか信助は止められなかった事を悔いた。自分にも必殺技があれば、そう思って今特訓をしているのだろう。それに、唯一自分と同じ立場だった悠那に越されてしまったのだ。信助は両手を拳にし、強くなりたいという思いを自分達に伝えてきた。

『…うん!私、手伝うよ!!』
「本当?!」
『もちろん!私も、化身が使えなかったら信助と同じ立場だったしね』

強くなりたい気持ちは痛い程分かるよ。悠那が信助の目を見ながらそう言えば、信助は嬉しそうに悠那の手を握ってきた。身長的に悠那の方が背が高かった為、信助は小さくジャンプをして悠那の手を握ってきたのだが。それは、ずっと自分の立場だった彼女の応援にありがとうと言いたかったのだろう。それを見ていた天馬もまた小さく微笑み、首を縦に振った。

「それじゃあ、俺も手伝うよ!」
「へ?」
「一緒に編み出そう!信助の必殺技を!!」
『私達は友達だからね!!』
「ありがとう!天馬、悠那!」

その言葉を聞いた信助は友達である天馬と悠那の手を握り、嬉しそうに笑った。持つべきものは友というのはこの事に違いない。

「それで、どんな技を考えてるの?」
「ふぅん♪“ぶっとびジャンプ”だよ!!」
「…ぶっとび、」
『ジャンプ…』

信助の言った単語に若干どう反応をすれば良いか分からなかった為、天馬と悠那は顔を見合わせながら苦笑をしていた。なんというか、信助にしては大胆な名前を付けたな。

「僕の得意技はジャンプとヘディングだもん!!それを生かして相手のシュートを弾き返せたら良いなって!!」
「そうか!うん!良いよそれ!」
『うんうん!』

ネーミングが何であれ、凄そうな必殺技になりそうだ。天馬と悠那の言葉に信助は自信満々に胸を張って嬉しそうに頷いた。

…………
………

「いっくよー!」

天馬は制服のまま、ボールを蹴り上げた。それに向かって信助が一回小さくジャンプし、ボールに向かって大きくジャンプをする。これが信助が自分で考えた自分なりの特訓。因みに悠那は制服なので大人しくベンチで見学。自分が特訓に付き合う時になるのは部活とかだろう。

「はあぁぁー!!…っあ、うわあっ!」

ジャンプの高さはボール一個分程足りなく、信助の頭上を超えてしまった。ボールに掠るどころか、触る事も出来なかった信助はそのまま重力に従って落ちてしまい、地面へと尻餅を付いてしまった。

「信助?!」
『だ、大丈夫?』

悠那が近付いて信助を立たせれば、信助は平気平気!と笑って言ってきた。そして、顔を天馬に向けてきた。

「どんどんボールを上げてよ!」
「う、うん!」
『ストップ!』
「「へ?」」

勢いが止むどころか、かなり熱くなってきている信助。失敗をすればする程熱くなるものと誰かに聞いた事があるが、その勢いに天馬は思わずどもって返事をしてしまった。そしてそのまま特訓を開始しようとする彼等に、悠那は制止符をかけた。疑問符を浮かばせながら悠那の方に顔を向ければ、彼女は悪戯をするような笑みを浮かばせていた。更に疑問符が浮かぶ。

『まずは、高さに慣れないと』
「「?」」

人差し指を立てながら言う悠那は次に信助に耳打ちをしてきた。それを聞いた信助は一度目を見開くも、力強く頷いた。それはやってみようという合図なのだろう。それを見た悠那は再び天馬にボールを上げて貰うようお願いをした。

「次!行くよ!」
『こっちもOK!』
「来い!」

信助の承知の言葉を聞いて、天馬はボールを蹴り上げてきた。それを見た信助はボールをちゃんと見ながら自分の目の前でしゃがんでいる悠那に向かって走り出した。
そして…

「はぁぁああ!」
『行くよ!』

悠那の組まれている両手に信助は飛び乗り、悠那は腕に力を入れて信助の勢いが止まないよう思いっ切り信助をボール目掛けて上げた。
すると、

「はぁぁ!…って、あれ…うわー!」
『あ、危なっ!?』

ジャンプの高さは充分にボールへと届いていたが、逆に高すぎたのか、今度はボールを越してしまい、そのまま先程と同じように落ちてしまう信助。だが、先程とは違い、その真下には悠那がおり、驚くしかなかった悠那はそのまま落ちてきた信助とぶつかってしまい、下敷きに。

「ご、ごめん…悠那…」
『だ、大丈夫…信助に怪我がなくて良かったよ…』
「二人共大丈夫?!」
『「大丈夫ー…」』
「;;」

悠那の上で横たわる信助が悠那に謝れば、下からは大丈夫と言う悠那の力無い声が聞こえてきた。そんな二人に天馬が心配そうに声をかけるが、やはり二人からは力無い声が。どうやら本当に大丈夫らしい。自分の上から退いた信助を見た悠那は、改めて信助の体型がこれで良かったと思った。小さな体型がなんであれ、上から落ちて来られたらかなり痛い。そんな事を考えながらも悠那も立ち上がり、信助と顔を合わせる。そして、ニッと笑いあった。

「次、来い!」
『私も何だか燃えて来た!』

両手を拳にして、盛り上がる二人。そんな二人を見た天馬は若干苦笑するも、悠那の手元を見た。
悠那の手は若干だが、信助の体重を受け止めた所為で、泥で汚れており少しだけ赤くなっていた。

「ユナ手、大丈夫?俺のジャージで良かったら下履いて俺の代わりに蹴り上げなよ」

今の信助はスパイクを履いていて、只でさえ痛い筈。しかも信助の体重も支える事になる。だが、悠那はそんな天馬を見上げ、微笑んできた。

『私がやるより天馬が蹴り上げた方が良いよ。それに私、信助のジャンプ力確かめたいし』
「どういう意味?」
『人が支えてる時はその手の力+自分のジャンプ力で上がるでしょ?だけど、その支えがなくなると、ジャンプ力は空気により段々と弱まるからどの位のジャンプ力が必要なのか確かめたいの』

悠那はなるべく分かり易くジェスチャーをしながら信助と天馬に説明をする。だが、それでもあまり分からなかったらしく、二人は顔を見合わせて首を傾げていた。

「ん〜…よく分かんないけどありがとう悠那!そこまで考えてくれてたなんて…」
『あー…信助の気持ちは私もよく分かるんだよね;』

一人だけ必殺技が無かった今までの自分。師匠も居るというのに、教えてくれなかった意味。チームの皆に置いてけぼりされた孤独さ。今の信助は過去の自分とよく似ていたのだ。だから、自分は彼に協力をしたい。すると、信助は照れくさそうに頬を掻いてまたありがとうと言ってきた。
だが、ヘディングはかなり難しい。余程高度なテクニックが必要だと思う。

「よーっし!何かそれ聞いてたら益々練習したくなってきた!!天馬!悠那!次お願い!」

再び闘士を熱く燃やす信助。その熱さが天馬にも移ったのか、おおーっ!と拳を空に向かって突き上げていた。いいねえ、青春だねえ。と自分も若干熱くなりそうだったが、ここでようやく気付いた。

『私は良いけど、部活でやらない?もう時間だよ?』
「「…え゙;」」

ほら、と近くにあった時計を差して言えば天馬と信助の顔はどんどん真っ青になっていき、ヤバいと急いで鞄を持ち、雷門中へと走って行った。

…………
………


prevnext


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -