「や、やったっ!!やったねユナ!!」
「スゴい!スゴいよ!!」
『…あ、うん…』

天馬と信助が試合に勝った事と、悠那の化身について大はしゃぎしながら悠那にそう言出して来たが、悠那は曖昧に返事を返すだけでそれ以上何も言わなくなってしまった。すると、足の力が抜けてしまったのか、ヘタッとその場へとヘタり込んでしまった。息も少しだけ切れており、額には汗が滲み出ていた。
自分でも信じられない。
私が、化身を出した…?

「悠那…勝ったんだ、お前達のお陰で」

悠那は疲労の所為で意識がもうろうとする中でも、神童の言葉を聞こうとしていた。そして、電光展示版を見上げた。
2ー3…確かに、試合には雷門には勝っていた。

「ユナが化身使えるなんて知らなかったよ!!」
「うんうん!!」

天馬と信助はまだ悠那の化身を見た所為か、スゴいスゴいと興奮気味に言っていた。だが、悠那には未だに反応がない。

「ユナ…?」

天馬が不思議そうに悠那の近くで呼びかけるがやはり反応がない。悠那の目線は電光掲示板。口はあんぐりと間抜けながら小さく開けていた。そんな悠那の傍にへと剣城が歩いて来た。

「おい、ユナ」
『京介…』
「……」

剣城の呼びかけには答えた悠那。そんな彼女の様子を見た天馬は少しだけ不可解な気持ちになり、それが自分でも分からなかった。そんな事を感じていれば剣城は悠那の前に立ったと思ったら、いきなりしゃがみ込んだ。そして、右手を悠那に伸ばして来た。

「ん…」
『……』

…え、何これお手?
と悠那が暫くその剣城の右手を間抜けながら見ていれば、それに痺れを切らしたのか剣城はどんどんと顔を赤くしていった。肌が白い以上、スゴく分かり易い。直ぐに照れてるんだ、と確信出来た。だが、そこからが問題だ。何故彼は自分に向かって手を差し出して来ているのだろう。そんな事を考えながら、黙って剣城の手と顔を見比べていると、剣城はついに顔を伏せてしまい、体中を震わせる。まさか、怒ったのだろうか…?そんな時だった、剣城はいきなり顔を上げて自分を見てきた。

「手え貸してやるからさっさと立ち上がれ!!」

剣城の顔が先程よりも赤くなっていった。きっと、人に手を貸すなど、何年もやっていないからだろう。一瞬だけだが、その姿が小さい頃の剣城と被った気がした。そんな事を考えていれば、突き出されていた手がズイッとさっきよりも突き出されて強調された。

『…!…ありがと、』

悠那は呆気に捕らわれながらも、少し照れたように自分の右手をそっと剣城の右手と重ねた。重ねた瞬間、右手を強く掴まれてやっと掴めた、と思ったら直ぐに自分の見ていた視界の景色が一気に変わった。

『正直、無理だと思ったよ』

手を引っ張られ、少しだけフラッと体が傾いたが剣城が手を握ってくれたお陰で倒れる事はなかった。悠那がちゃんと立った所を見て、剣城は直ぐに手を離してしまい悠那の手も元の位置に戻って来た。そして苦笑を交わらせながら言えば、剣城は不意を突かれたように間抜けな顔をしてきた。それが悟られぬように剣城は体を横にさせた。
そして――…

「…バーカ」

そう言い返してやった。
だが、それを聞いた瞬間悠那は間抜けな顔をさせて、段々に不機嫌そうな表情を浮かばせていく。それを見た剣城は何事かと、悠那に目線を移す。悠那とはいうと、顔に小さく怒りマークを浮かばせており、剣城に睨み付けるように見上げて来た。

『…京介、キミは何回私にバカと言ったら気が済むのかなあ…!』
「俺はバカにしかバカとは言わない」
『Σ!!ケチ!京介の意地悪!少し位褒めてくれたって良いんじゃないの?!」

こっち向けコラァー!!と悠那は自分から目を逸らした剣城の立っている襟首を引っ張り、自分の方へと目を向かせようとする。とうの剣城はこっちを向いて、うっせーな!!と悠那の頭を片手で抑えながら悠那が持つ襟首を離そうとする。その姿からはあの冷徹でクールな自分達が見て来た剣城とはまた違う姿であり、かなり唖然とするものだった。

「…な、何だ?」
「さっきまでの和やかな雰囲気はどこに行ったんだ…?;」

剣城と悠那のやり取りを見ていた先輩達。そんな二人に三国と車田は唖然とする皆を代表して何とか声を漏らした。喧嘩をしだした二人を見て、少し戸惑っているようだ。
一方、悠那達二人はまだ言い争いをしていた。悠那の手は剣城の襟首を離しており、ただギャーギャーと騒いでいた。悠那ならまだ騒いでいて問題ないが、剣城に関してはかなりのキャラ崩壊に近いだろう。

「大体お前は…」
『京介』
「…何だよ、」

怒りにか、それとも悠那のしつこさにかは分からないが、剣城が何か言い返そうとした瞬間、悠那がそれを遮った。それを剣城は不機嫌そうにしながら悠那の方を見る。すると、悠那は今日一番の笑みを浮かばせ

『やっと一緒にサッカー出来たね』
「!」

右手で拳を作り、剣城の前に出しながらにかっと笑った。それを見た剣城は一瞬だけ呆気に捕らわれながら数回瞬きをした。

「(バカかよ、コイツ…)」

剣城の脳裏には不意に、昔悠那と約束した事を思い出した気がした。

「…でも、アイツ等らしいド」

これがアイツ等なりの幼馴染の絆なんだド…天城がそう唖然としながらそんな事を呟けば、他の先輩もさっきまで呆気に捕らわれていたが、その二人の光景を見た瞬間直ぐに頷いた。

「…っ、」

だがただ一人、天馬はその光景を見て何とも言えない程の表情を浮かばせていた。

「…悠那、剣城」
『あ、キャプテン…それに先輩達も…』

神童、速水、三国、車田が二人の元まで走って来た。それを見た剣城は、直ぐにどこかに行こうとしていたので、悠那は剣城のユニフォームの袖をしっかりと握ってそれを阻止した。

「…おい」
『いーから』

動けなくなった剣城に悠那は笑いながら袖を強く握った。完璧に動けない。そのやり取りを見た神童はいつもなら、気持ちが悪く感じてしまうのに、今だけはふっと微笑ましく感じられた。

「二人共、ありがとうな」
「別に、あれくらい何でもねえよ」
『……』

少し照れている自分の幼馴染を見て、悠那は小さく微笑んだ。それぞれが思い思いに喜んでいると、円堂がフィールドに入って来た。浜野達は直ぐに姿勢を正し、天馬と信助も正した。悠那と剣城もそれに目を向ける。それを見てから、円堂はニカッと相変わらずの笑みを向けて来た。

「よくやったぞ!この勝利、皆で掴み取った初めての勝利だ!力を合わせれば、出来ない事はない!

ホーリーロード優勝目指して、頑張るぞ!!」

円堂が拳を太陽に向かってかざして突き上げた。悠那達は威勢の良い返事を返した。

「いい加減放せ」
『…んー』

剣城からのいい加減にしろと言わんばかりの声を漏らすのが聞こえたので、悠那は渋々ユニフォームから手を放した。剣城は皺の付いたユニフォームを軽く払い、そのまま振り返らずに歩いて行く。

「…あ!剣城!」

こちらに背中を向けて再び歩き出した剣城に、今度は悠那ではなく天馬が剣城を思い出したように呼び止めてきた。

「ありがとう!剣城!ユナ!」

一体何に対してのありがとうなのか、殆ど全てに対してなのかは分からない。ただその言葉の意味で分かるのは、感謝仕切れない程だというのは確かだ。それを聞いた悠那は、嬉しそうな笑みを浮かべて天馬へと向き直った。

「…ふん」
『あ、京介…』

天馬にお礼を言われた剣城は直ぐに天馬から視線を外し、どこかへと歩き去って行ってしまった。


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