雷門に入学した時、悠那の心に浮かんだのは不安でも怯えでもなく、期待だった。
この学校に行けたら、早くセカンドからファーストに上がるんだと、幾度となく自分の理想をした事があった。

実際に入学してみたら、入学の前には最悪で嬉しい再開をしたし、セカンドの人達は次々辞めちゃうし、先輩達からは敵視されてでその幻想は儚く打ち破られたのだが、それでも悠那は何より嬉しかった。
仲間と分かり合える。この喜びと幸福感を知ったら、もう何も欲しいものなどない。

「ふん、多少人数が揃った所で何が出来る。格の違いを思い知らせてやれ」
「(格の違い、な…)」

「行けるか谷宮?」
『はいっ』

今悠那の行くべきポジションは霧野が居た場所。悠那はベンチを向き、霧野の方を見た。先程、自分の事を名前で呼んでくれた。

『(終わったら、交渉しに行こっかな…)』

霧野からの信頼を得た嬉しさ。思えば、自分は彼にかなり助けて貰っている気がする。忘れ物の時や、保健室の事や、先輩達の警戒心を解いてくれた事。自分もまた一番早く信頼した先輩の中の一人だ。
自分も名前で呼んでも良いですかと、聞いてみたい。呼びたいのだ。
暫く自分はベンチを見ていたのか、ベンチに座っていた霧野と目が合った。霧野の方は少し驚いた顔をしていたが、自分と目が合ったと分かった瞬間、真剣な顔で頷いてくれた。
それを見た悠那もまた嬉しそうに頷いた。

「よしっ!」

ボールを踏んでいた車田は皆の意気を見た瞬間に、ドリブルでボールを持ち込んで行った。

「松風!」

車田から天馬にボールが渡った。初めて仲間としてパスを貰った天馬。嬉しそうに貰った天馬はそのまま上がって行く。だが、そこで潮がマークをしに来た。

「行かせるか!」
「“そよかぜステップ”!」
『ナイス…!』
「浜野先輩!」

潮を抜いた天馬はそのまま浜野へとボールを渡した。今度はわざとパスミスをしないで、ちゃんと受け取って貰えた。

「倉ノ院!」

磯崎が倉ノ院にマークするよう指示を出すが、浜野は焦らずボールを踏み軽く潰し、そこから水が出た瞬間なその上に乗って走り出す。ボールと浜野の周りはまるで海が溢れて来たかのように水が現れていた。

「“なみのりピエロ”!よっ、ほっ、」

ボールに乗り、声をかけながら軽快なドリブルでいつの間にか倉ノ院を抜いていた。

『スゴい…』
「チィッ、調子に乗りやがって!」

仲間の失敗に苛立った磯崎は自らがボールを取りに向かう。浜野はボールを取られてしまった。万能坂陣では一進一退の激しい攻防が続く。悠那自身は上がらずに、ジッとその光景を見ていた。後半も残り僅か、という所で夜桜のボールが渡ってしまった。来た…そう思い、構え始めた。が、近くに居た天城の方が行動が早かった。夜桜がボールを持って上がる所に天城が立ち塞がる。走るのを止めた夜桜を見て、天城は直ぐに勢いよく地面に拳を打ち込んだ。すると、次の瞬間、打ち込まれた大地からは巨大な建物が現れた。

「“ビバ!万里の長城”!!だドォっ!!」

建物は夜桜の正面の進行を塞ぎ、その後四方を囲み、完全に進行方向を断った。

『うぇ〜い…』
「がっはははは!!」

建物の一番高い所で豪快に高笑いをしだす天城。夜桜は尻餅を付いて倒れてしまう程に圧巻しており、ボールを手放してしまった。

『(先輩って、こんなキャラだっけ…;)』

スゴいはスゴいんだが…;

「ナイスです!天城さん!」

ベンチでも盛り上がり始めた。夜桜が取り零したボールはボールは倉間の前に転がって行った。先程から全く、動こうとしない所を見てまだ自分達と戦ってくれないと見えた。そんな状態の彼にボールが回ったら完全に相手へとボールが渡ってしまう。

『…倉間先輩、』

倉間は動こうとしない。一瞬の不安が一同に走った。磯崎はそれを見て笑い光良に上がれと指示を出して、走り出した。悠那は走ろうとしたが、走る事を止めた。

…仲間を信じたい、

「磯崎、ボールに向かう!だが倉間は全く動かない!?」

「こっちだ!」

剣城が大声で自分にパスをしろと言うが、倉間は他の先輩とは違いやはり動かない。

「倉間!」
「倉間先輩!」
『倉間先輩!』

三人が倉間の名前を呼ぶ。磯崎は徐々に近付いて来る。世界が、ここだけ少しだけゆっくりに見えた。
後少し、という所で倉間はキッと磯崎を睨み付け、初めてボールを蹴り上げた。磯崎に、では無い。

「何っ!?」
『京介!』

倉間が蹴ったボールは大きく弧を描き、剣城の胸元へと渡った。倉間の行動に剣城若干驚いた。プライドがかなり高そうな彼からのパス。今はもうそっぽを向いてしまったが、今自分の足元にはボール。剣城はそのまま上がって行った。

『いっけえ!京介!』
「…ふん、」

上がって行けば、悠那からの応援の声。
今までの自分が在りながらも、余程自分は悠那からの信頼があるらしい。
少しだけ、心が軽くなった気がした。そして剣城と篠山が向かい合った。

「篠山!」

磯崎が焦ったような声で篠山を呼ぶが、篠山は完全に剣城を舐めている。「止められない筈がない」と。

「任せておけ!あんな奴にゴールを割らせるか!」

そう言った篠山は高らかに背後から藍色の靄を出し、「機械兵ガレウス!」と叫んだ。篠山が自信あったのは化身を使えるから。だが、剣城も化身を持っている。右手を横に振り払い、自分の化身、ランスロットを出した。

「“剣聖ランスロット”!」

「剣聖も化身を出して来た!化身対化身だあぁーーっ!!」

剣城は左手を振り、今まで見た事のない動きを見せた。

『…!』

―ドクンッ…

「“ロストエンジェル”!」

中は黒く、外は明るい光の色。その一撃は正に剣士の一撃。ランスロットの剣は同じような気を纏い、ゴールに向かって行った。

「“ガーディアンシールド”!!」

対して篠山は両手を交差し飛び上がった。そして両拳をがっちりと合わせ、強固な一枚の鋼の盾の様に立ち塞がる。化身と化身の激しいぶつかり合いが始まった。その光景には誰もが足を止めて両者の戦いを見守っていた。

「はあぁぁぁっ!!」
「うおぉぉぉっ!!」

剣と盾。FWとGK。
対照的な二つがぶつかり合って砂埃が起こり、かなりの風圧が巻き起こってしまい目を開きずらくなった。

『……』

それを眺めれば眺めている程、自分の鼓動は早くなって行く。そのたびに苦しくなると共に吐き気も襲って来るみたいだ。
もしかして、私の化身は…サッカーは11人…いや、正確には11人ではなく部員全員…仲間全員でするスポーツだと、教えたかったのではないか…?
だから、今まで…何も…

『そうなんだね…』

確信が持てた悠那はにかみながら心臓部分に手を当てて、そう呟いた。私達には頼れる先輩が、仲間がいる。
ランスロットとガレウス。どちらも全く引きは無い。勿論、仲間を素直に応援出来る仲間今は沢山いるんだ。

「剣城…」
「……」

誰もが二人の戦いを見ていた。信じている。剣城が勝つ事を。

『大丈夫、京介は負けないよ』

一番、彼の事を知っている悠那がそう呟くように言った。目に迷いはなかった。それだけ悠那も剣城を信用しているのだ。

「うおぉぉぉっ!!」

剣城の叫びと共にランスロットがガレウスを押し始める。その瞬間、ランスロットは遂にガレウスの盾を弾き飛ばした。

「何ぃっ?!」
「行けっランスロット!!」

剣城の言葉と共にランスロットの目の部分が更に赤く光った。剣士の剣は、機械兵の強固な盾を破った。
そのままボールは篠山ごとゴールに突き刺さるように入って行った。

「ゴォォォ――ルッ!!」

角馬の叫び声とホイッスルの長い音で、共に会場全体も盛り上がって行った。
試合の矛先は、まだ分からない。


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