「三国さん!」

繰り返される攻防もなんとか止み、倒れてしまった三国を見た霧野はたまらず足の痛みも忘れて勢いよく立ち上がった。

「っ!!うっ、く…っ、」

だが、痛みがそれを許さなかでたのか右足に力を入れれた瞬間、忘れていた酷い激痛が走り出した。それを見た葵はすぐさま霧野を止める。

「ダメですよ!そんな足で試合に出たら!本当にサッカー、出来なくなっちゃいますよ!?」
「そんな事は分かってる!でも…このままじゃ…」

本当に潰されてしまう。
サッカーも、皆も…
谷宮も…

「くそっ!」

何が付き合ってやるだ!!
俺が神童達の足引っ張ってどうすんだよ!!
悔しい…
谷宮と一緒に本気のサッカーをやりたいと思ったのが間違い、だったのか…?霧野の頭の中が自分への怒りやら何やらでごちゃごちゃしており、何が正しいかを中断させていく。フィールドに立っている浜野達は相変わらず動こうとしない。まるで飾りみたいだ。そんな時、水鳥が静かにベンチから立ち上がった。
そして何も言わず、白い線まで歩んで来た。小さく息を吸った瞬間、目を見開いた。次の瞬間だった。

「お前等!!アイツ等のサッカー見て何も感じないのかよ!!」
「…!」

水鳥がフィールドで立ち尽くしている選手達にへと向かって叫び出した。お前等、という所で彼女は浜野達に向かって言った事がこちらからでも分かった。

「フィフスセクターがどうのって、色々あるのは分かるけど…それでも、アイツ等は同じサッカー部の仲間じゃなかったのかよ!!」

その言葉で先輩達が肩を小さく揺らして動揺していた。三国は悠那と天馬、神童に手伝って貰い、立ち上がる事が出来た。

「一緒に部活して、飯食って…一緒にやって来たんだろ!?その仲間が必死で雷門サッカー守ろうとしてんだぞ!?なのにテメー等何も感じないのかよ!!」

『水鳥先輩かっけ〜…』

三国を支えながら水鳥の声を聞いていた悠那。疲れから来ているのだろう、その声は先程より小さくなっていた。その声を聞いていたのか、天馬もまた苦笑しながら「そうだね、」と言ってきた。水鳥もきっと自分と同じ事を考えていたんだ。それを思うと自分も、何かを言わなきゃいけない。ちゃんと、自分の言葉を先輩達に真っ直ぐと伝えなきゃいけないんだ。
そこで悠那は、小さく息を吸って目を立ち尽くしているであろう先輩達にやった。

『動いて下さい先輩達!!』
「「「!?」」」
「ユナ…?」

急に大声を出した悠那。気付いた時には、悠那は頭を下げていた。思わず、その場に居た選手達全員は悠那に目をやっては固まってしまった。

『…私は、先輩達が言っていた通り…確かに弱い奴だ!先輩達の事、何にも分かっていなかった!先輩達の事を分かろうともしない、誰かを守る事も出来ない腰抜け野郎だ!
こんな奴に、先輩達がとやかく言われたくないかもしれない。自業自得だと思っているかもしれない。
…でも、』

そこで、がばりと顔を上げた悠那。初めてこんな人数と目が合ったかもしれない。

『…でもっ、だからといって、サッカーが大好きな人達が傷付いていい筈がない!!』

近所の子供達が楽しそうにボールを追いかけて行く姿。師弟関係となっていつも自分とサッカーをやって来たフィディオとの思い出。初めて自分と似ている存在を見つけられた天馬との練習。円堂達が築いて来たサッカーの歴史。
そして、自分と一緒に遅くまでボールを必死に追いかけていた優一と京介。
全てが全て、自分の思い出。そんな思い出が、フィフスセクターにより罅が入って行く。
そんなのは絶対に嫌だ。

『お願いです!私達と一緒に戦って下さい!私達の為なんかに戦わなくてもいい!――ただ、』

先輩達に、皆に届けと、声を張って。

『――どこかで私達を信じてる人達を救う為の力を貸してよ!!』

「……」

今までこちらを見ようとしなかった倉間。いつの間にか、彼の目は悠那へと向かっており、睨む訳でもなく特に表情を崩す事も無く、ただ黙って悠那を見ているだけだった。勿論、倉間からの返答は無かった。そこで、一陣の風が吹き、悠那の髪を揺らした。別に悠那に言われて、何かが変わったとかじゃない。
悠那はうなだれた。これで先輩達が協力をしてくれるとは思っていなかった。そんな都合のいい話しなどある筈がない。
それでもいい。ちゃんと、自分の口で伝えられたのだ。悔いはない。例え自分がどれだけ腰抜けであろうとも、これはやらなくてはいけないのだ。

…………
………

試合再開。
ボールは万能坂中から。
攻めあがってくる万能坂中。毒島は雷門陣に上がって行くが、それでも相変わらず車田達は動こうとはしなかった。水鳥と悠那の言葉ま虚しく試合は進んでいった。神童と夜桜が睨み合う様に攻防を繰り広げている。どちらも動かなかった…が、夜桜は一瞬の素早いフェイントの後に神童を抜き去った。

「こっちだ毒島!」
『…させない!』

夜桜にパスを回させないと悠那は素早く夜桜の前に出てきた。自分がカバーされているにも関わらず、夜桜は余裕そうに笑みを浮かべながら悠那を見ていた。

「さっきは感動する演説をありがとう。だけど良いのか?そんなに俺に近づいて」
『あ』

しまった…この人達…潰すのだったら手段、選ばないんだった。
だが、気付いた時にはもう遅かったらしく、審判の視界を蒲石が覆った瞬間に、チャンスだと思った夜桜は悠那の足に自分の足をかけてきた。

『うわっ!!』
「悠那!」

視界が一気に逆転し、いつの間にか自分は地面へと再び倒れていた。足に痛みは無い。あるとしたら地面と衝突した部分だけ。元々疲労であまり力が入っていなかった足。倒すのには全く力が要らなかった。
これは足を壊すものではなく、ただ転倒させるものだったので、大事には至らなかったらしい。

「フォローに回った谷宮が転倒!ボールは光良に通ったぞお!!」

『あっちゃー…』

と、悠那は直ぐ立ち上がろうとするが、立ち眩みの所為か、立つ事に手間取っていた。足が震えてる所を見てまるで生まれたての子馬の気分だ。

「光良!化身シュートだ!」
「!!」

磯崎のその言葉に車田は一瞬だが、ハッとした顔になった。いよいよ万能坂は雷門を潰すらしい。

「三国さん!」

そこで神童がフォローしに行こうとすると目の前を毒島がマークし、天馬は潮、信助は逆崎、悠那には蒲石がそれぞれ付いてしまった。誰も三国の助けに行ける状態ではない。

「(ここで点を入れられたら3ー1…)」

勝負が決まってしまう。
三国はそんな不安や恐怖を無理矢理拭い去る様に両拳を叩き、気合いを入れ直した。

「っ!止めてやる!例えこの身体がぶっ壊れても!!」

その言葉は、車田の耳に十分響いていた。
それを知ってか知らずか、目の前の光景は一行に止まってはくれない。今の三国では光良の化身シュートはどう考えても止められない。ただ一時的に威力を抑えるだけ。まさに、今の雷門に手足は出せない状態になってしまった。

『(もうダメなのかな…)』

そんな不安が不意に悠那の頭の中に過ぎってきた。そんな事を考えちゃいけないと分かっている、分かっているのだ。だが、自分も天馬も信助も神童も霧野も、動けない。頭の中には“絶望”と“敗北”の言葉しか無かった。

「……」

一方車田は、先程の悠那の言葉を思い出していた。

――だからといって、サッカーが大好きな人達が傷ついていい筈がない!!

「……っ!」

そこで、車田は拳をぐっと握った。
そして、

「ふんっ…“ダッシュトレイン”おおぉぉぉ―――っ!!」

迫って来る敵を見て、車田がいきなり動き出し、追い付いた。

『え…?』
「なあっ!?」

一瞬何の音か分からず、悠那は不安げになりながら顔を上げた。さっきまでフィールドの端っこに居た筈の車田が居ない事に気付く。最初は、このフィールドから出て行ったのかと思った。だがそれは間違っていた。
車田はまるで全速力の機関車のような勢いで、化身を出そうとする夜桜に突っ込んで行ったのだ。――そう、
夜桜を止める為に。

「う、うわぁぁぁ―――っ!!」

避けきれなかった夜桜はそのまま吹き飛ばされる、というより、機関車に轢かれた感じだ。

「「「!!!!」」」
「何だと!?」

自分が呆然としている間に、気付いた時には車田の足元にはしっかりとボールがあった。

「く、車田がボールを奪ったぁー!!」

ベンチで立っていた葵と水鳥は目をパチパチさせていた。誰もが状況が把握出来なくて、思わず動きを止めてしまった。

「今のが車田先輩の、必殺技…」
「すげー…」

シードの夜桜をいとも簡単に吹き飛ばした(轢いた)のがどれほど凄いのか。流石、名前に車が入ってるだけ無い。いきなりの事で、悠那も目を丸くする。

『く、車田先輩…』
「車田先輩!」
「車田さん!」

三人の呼び掛けに車田は黙ったまま力強く頷き、三国の呼び掛けにも頷いた。そして、フラフラになって立ち上がる夜桜に、

「これ以上お前達の好きにはさせない!相手が誰だろうと構わない!俺達は、俺達のサッカーを守ってみせる!」
『あ…』
「浜野!俺達も行くド!」

車田達の言葉に賛同の天城。いきなり名前を呼ばれた浜野は頭の後ろを掻き始めた。

「やっぱ行かなきゃマズいっスよねーこの展開。それに、後輩が頑張ってんのに俺達が見てるだけってのも何かねー」
「え!?い、行くの…?っじゃ俺も」
『天城先輩、浜野先輩、速水先輩…』

自然と顔が綻んだ気がした。目頭も段々と熱くなって来るのを感じた。その時、誰かの手が伸びて来た。

『あ、浜野先輩…』
「大丈夫かー谷宮っ」

冗談で浜野が言えば、悠那はニカッと笑い、浜野の手を取り、立ち上がった。

『…ありがとうございます…!』

そう笑って言えば、浜野は照れたようにおうっ!と言ってくれた。

「天城さん、速水、浜野っ!」
「先輩っ!」

神童と天馬もフィールドに入って来る先輩達の姿を見て表情が明るくなって行った。

「行くぞ!これからが本当の勝負だ!」
「「「おうっ!!」」」

―ドクンッ

『…!』

悠那の中の物がまた跳ね上がった。

『(もしかして…)』

いや、違うかもしれない…だけど…
今まで化身が出せなかったのは、仲間と一体しなかったから…?

そう自問していると、そうだと言う様にまた跳ね上がった。

「俺達雷門サッカーを見せてやるド!」
『あ、はいっ!』
「……」

悠那は少しだけ心が軽くなれた気がした。

「わあっ!何かチームって感じ!」
「やりましたね円堂さん!三国君達の想いが皆に通じたんですね!」
「あぁ!」

だが、後一人。倉間はまだそっぽを向いたままだった。


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