『京介…!』

少しだけ、心配していた。剣城がまた自分一人だけ行ってしまうと。
だけど、剣城は神童にパスをした。状況が状況で本人としては苦しかっただけというのもあったかもしれないが、悠那はそれでも少しだけ心が温かくなれた気がしたのだ。こうなったら、自分も負けてはいられないと、悠那も上がって行く。

「勘違いするなよ。仲間になった訳じゃねえ」
「あぁ!」

剣城のその一言でも神童は自分にパスをしてくれた事に少しだけ剣城を信じられるようになれた。強く返事を返した神童は、そのままボールを持って上がって行く。悠那達に続いて天馬もマークを外しだした。

「悠那!」
『はいっ!』

剣城から貰った神童はそこで悠那へとパスを繋いだ。だが、

「行かせるか!」
『!?』

潮、毒島、倉ノ院が悠那の前に立ちはだかって来た。三人の表情からして相当苛立っているのが十分に分かった。何故かなんてもう十分に分かっている。自分達と同じだったシードの剣城の裏切りと諦めの悪い悠那達に向かっての怒り。
それを見て思わず直ぐに足を止めてしまい、ボールをちゃんと押さえ込んだ悠那だった。が、隣を走って来た天馬に向かって素早くパスを出した。

『天馬!』

完全に囲まれてしまう前にボールを天馬に回す悠那。案の定、相手にボールが回らずに済み、天馬はボールを受け取りそのまま走る速度を緩めずに上がって行っていた。それを見た毒島はッチ、と軽く舌打ちをしてそのまま上がって行く天馬を黙って見送る。天馬にボールを繋がれ、他のメンバー達が向かって行ったというのに悠那から離れないという事は念の為なのだろう。

「だが、」
『…?』

「「“エレファントプレス”!!」」

ゴール前に行く前に天馬は蒲石と大沢田の必殺技、エレファントプレスに狭まれてしまった。両サイドから肘で攻撃をされた天馬。象が見えなくさせなければ、本当にギリギリファールになるかならないかの危うい必殺技。それで跳ね返されてしまった天馬。地面に力無く倒れ、ボールは相手へと渡ってしまい審判にも気付かれずに上がって行く。

『天馬!』

地面に転がってしまった天馬に、急いで悠那は向かおうとしたが、どうしても目の前に居る敵は退いてはくれない。
嘲笑うその笑みはこの状況を楽しんでいる。腐っても万能にプレイをする万能坂中。一人一人の実力もレベルが高い。悠那は直ぐに切り返してボールを追う。一人相手なら抜くのはまだ問題ない。

「連携などした所で、所詮俺達の敵じゃない。絶望しろ、雷門」
「潮!」
「毒島!」
「逆崎!」

こちらもこちらで連携が上手い。流れるようなパスで潮に繋がっていた。あまりの素早いパスに、雷門は付いて行けず、攻められていた。

「追加点を取って点差を広げるつもりかっ!」

2ー1と得点はリードを許している。篠山が化身を使える以上、残り時間も考えてこれ以上点差を広げるのはまずい。

「何としてもゴールを守るんだ!!」
『「「はい!!」」』

神童の言葉に悠那はなるべくペースを上げて行く。雷門のゴール前に居た三国もまた動けないものの、気迫を纏って、「来い!」と声を上げていた。それを横目で見ていた磯崎は、相変わらず口角を上げて笑っていた。

「ふん、たった六人でゴールを守れるか。
手加減は無用だ!10点でも20点でも、奴等が絶望して立ち上がれなくなるまで、点を取りまくれ!」
『(そんな事させない…!)』

一足先に戻った悠那は潮の前に立ちはだかった。だが、前半あれだけ走り、背中も負傷もした悠那は息が上がっていた。それでも悠那は立ち向かう。潮は無闇に突っ込まず、逆崎にパスを回した。

『またパス〜…?』
「…?;」

もうヤダー…と若干疲れたと言わんばかりの声で言いながらパスされたボールを目で追いながら、それを止めようと向かって行く悠那。そんな悠那を見た潮は緊張感を無くしてしまい、マイペースな奴…と呆れるように小さく呟いた。

「そんな事させるもんかっ!」

逆崎のマークに向かう信助。しかし逆崎は、踵を軽くボールに叩きつけ、ブーメランのようにボールをカーブさせた。

「“ブーメランフェイント”!!」

ブーメランの形をしたボールは信助を抜いた後に逆崎の足元まで行き、ワンバウンドで元のボールの形に戻った。
その後、天馬が奪いに来たが、ヒールリフトで難なく抜かれてしまった。そして天馬を抜いた逆崎は光良へとボールをパスを回して行く。

「シュートは打たせない!!」

神童もまた滑り込む様にして光良の前に立ちはだかった。

「行かすものか!」
「キャプテン!」

天馬がフォローをしようと走って向かおうとするが、万能坂の2人がマークに付いてしまった。信助には逆崎、悠那には潮がそれぞれ付かれてしまった。これでは神童の所へと行き難い。

「光良!こっちだ!」

磯崎が前に出るがそれを素早く察した剣城がマーク。誰にもパスが出来ない状態。だが、そこへフリーな白都が上がって来た。それを見た光良は一度フェイクをかけた後、素早く白都にパスを出した。パスを貰った白都はそのままシュート体制に入った。

「“バウンドフレイム”!!」

ボールが地面に食い込む程に踏みつけた途端、炎を纏いながら回転しだし、それが地面から徐々に上がって来る。十分に上がって来たボールは白都が蹴り上げたと同時に大きく弧を描き、バウンドしながらゴールに向かって行った。

「三国さん!」

「ゴールは割らせない!はぁあ――っ!!

“バーニングキャッチ”!!」

拳に炎を宿し、体を回転させボールを入れさせないと押さえ込むが、渾身の一撃。散っていく火の粉とフィールドの草達。バウンドフレイムの威力が強かったのか、三国は完全に押さえ込む事が出来ずにボールは弾け飛び、ゴールポストへと当たった。

「三国弾いた!だがまだ万能坂の攻撃は止まらない!!」

ボールが跳ね返ったと同時に三国も起き上がり、直ぐに立ち上がる。ポストに当たったのは運が良かったが、運が悪かったのは跳ね返った場所が万能坂の連中に届いてしまった事。

「はあっ!」
「っ!」
「それっ!」

次々とボールを蹴ってくれば、三国は跳ね返す事しか出来ずにいた。跳ね返すは良いが、跳ね返った場所には必ず万能坂の人達が居る。だからボールの嵐は止んではくれなかった。ボールを複数跳ね返しているみたいだ。その時だった、白都のシュートを弾いた時、三国は一瞬の間ゴールを空けてしまった。ボールはまだ生きているが、万能坂の方にまだ渡っていない為、三国は素早く体制を立て直した。
神童達も助けに行きたいが、マークがかなり強いのか外せれない。剣城も今、磯崎から目を離せば確実にシュートを入れられる。そうこうしている間にも時間は過ぎて行く。そして、何よりも三国の体力は疲労を増して行くばかり。

「三国さん!」
『(辛いなあ…)』

気のせいだろうか、疲労の所為か、目の前が少しだけ霞んで見えてくる。視力落ちたかな、なんて呑気な事を考えまで出てきていた悠那。今目の前に起きている光景を黙って見ている事しか出来ない自分に腹が立ってきて仕方がない。だがそれと同時にGKの辛さが分かる気がした。一人でどこに来るか分からないボールをこのゴールから守るGKのたくましさ。三国にしか出来ないポジションだと、改めて分かった。

「こ、こんなの見てられないですよお…」

一方的な攻防戦に速水は体を震わせる。しかし速水も車田も浜野も倉間も天城も見ているだけで動こうとさない。マークされている神童達も向かいたいのに向かえない。ベンチで座っていたマネージャーや霧野は声援を出す事も忘れ、息を飲んで見守った。

「…!」

ダァンッと、一際強いシュートがこちらへと迫って来る。それにいち早く反応したのは紛れも無い三国。流石GK。ゴールを守る事が役目の三国だからこその取れたボールだった。

「ぐあぁぁぁっ!!」
『三国先輩!』

だが、ここであまりにも強力なボールだったが為、三国は受け止める事が出来ずに、勢いよくシュートに当たってしまった。だが、運良く三国に当たったボールはゴールポストに当たり、ボールの跡を付けてそのまま力無く落ちてきた。それを見逃さなかった三国は素早くボールを受け取り、誰にも渡さないと言わんばかりに地面へと転がった。試合の動きとシュートの嵐が今、止んだ。

「ぐっ」

『三国先輩…っ』

その姿が見ているこちらにとってはかなり辛く感じる物と同時に、よく頑張ったと声をかけたかった。なのに、後ろを振り返れば自分は関係ないと言わんばかりに顔を背ける浜野達。仲間がこんな姿になっているのに、冷たすぎる。
もう先輩後輩とか、上下関係とか、今は本当などうでもよく感じてくる。人間として、仲間として、あの態度は酷過ぎるのだ。自分達が無事ならそれで良いという神経が、物凄く腹が立った。


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