後半開始早々、雷門は2ー1と一点差だが突き放されてしまった。シュンッと役目を終えた夜桜のピューリムは具現化を解き、消えて行く。夜桜は呼吸を荒くしながらも、それでも勝ち誇った様な笑みを浮かべていた。

「そ、そんな…」
「三人もシードが居たのか…」

「これで決まったね。シードが三人も居る相手に勝てる筈無いし」

浜野の言葉に、倉間は自分の後ろに居る天馬を睨み付け「さっさと諦めるんだな」と言い捨ててきた。磯崎は剣城の方を見て鼻で笑ってきた。

「…くっ」

「負けるもんか!」

磯崎からの屈辱に、剣城は顔を歪めて悔しそうに磯崎を睨み付けた。一方天馬は二人の化身使いを見ても負けないようにと、気合いを入れた。
お互いがポジションに戻った後、直ぐに試合が開始された。先攻は相手がシュートを決めたから雷門のキックオフで試合が再開。そして、相変わらず車田達はサイドに寄ったまま。勿論動こうとはしない。

「(剣城は宛てに出来ない…)」

神童は先程のプレーを見て無理だと思ったのか、剣城は僅かな信頼を失ってしまった。

「天馬、信助、悠那離れるな!一つになって攻め込むぞ!!」
『「「はいっ!!」」』

剣城を横目で見た神童は後ろに付いていた三人に声を掛けて気合いを入れた。だが、四人で万能坂のDFを受け切れるとは思えないが。
審判の人が腕時計を見て、時間になった瞬間ピーッとホイッスルを鳴らした。試合開始。神童はボールを天馬へと渡し、そして直ぐに神童に戻した。相手が攻め込んでいるのが見え、神童は後ろを見ずに信助にパスを出した。

「雷門!パスを繋いで上がって行く!」

「うわっ!」
『京介…!?』

神童から受け取った信助は途中までは走っていたが、後ろから後を追っていた剣城がボールを半ば強引に奪って行った。

「ここで剣城が飛び出したあ!!」

『はあ…』

もしかしたら彼は自分で何とかしようと考えてあるに違いない。剣城のそんな姿を見た悠那はしょうがない、とでも言うようにその後ろに続いた。

「アイツ!また一人で攻める気か!?」

ベンチから見ていた霧野もまた剣城の行動に目を見開かせていた。
皆が目を見開いている中、剣城の脳内では磯崎の台詞がリピートされていた。

――だったらどうした。あんな奴、一生サッカーが出来ない体になれば良いんだよ!!

あれは自分の兄を否定するような言い方。そして、その言葉を聞いた時の悠那の一瞬恐怖を感じた顔。

「お前達の腐ったサッカーは、俺がこの手でぶっ潰す!!」

剣城のドリブルのスピードが上がって行く。自分と剣城の僅かに出来たスペース。神童もまた剣城よりも先に走り何とか連携を保とうとする。しかし、神童達を無視し、磯崎と夜桜は剣城に向かって走っていた。

「光良!」
『京介!』
「シード二人がかりでDFか…!」
「お前何かに潰されるかよ」
「……」

磯崎の言葉を無視し、剣城は一人で行こうとする。そんな彼を見た神童が焦りの表情をしながら「剣城!」と声を上げる。だが、剣城はやはり言う事を聞かずに、二人を交わそうとする。
だが、やはりこの二人は他の連中とは実力が違った。剣城が空中で交わそうとするも、二人は更にその上を跳んで来た。

『京介!』
「行かせるかよ!」
『…!』

悠那がボールを貰いに行こうとするが、毒島がマークしに来てしまった。それを見た剣城は直ぐに目を逸らし、次に神童、信助、天馬を見るが彼等にもマークが付いていた。しつこいDFに三人はマークを外す事が出来ず、剣城はパスの出しようが無い。勿論悠那も他人事では無い。フェイントをかけてもやはり相手には通じない。
必死にボールを守る剣城を見て悔しさで思わず顔が歪んだ気がした。そんな悠那を知ってか知らずか目の前に居た毒島がニヤリと口角を上げた。

「聞いてるぜ。お前、化身持ってるんだってな」
『!?』

何故それを…
と、言おうとしたが、直ぐに答えが出て来た。前戦った天河原中。
確か自分はあの時喜多と西野空、隼総に自分の中に化身が居ると言われた。確か隼総っていう化身遣いがチクったんだろう。

「だが、自分自身では出せない」
『……』

「…悠那、」

毒島にそれを言われ、悠那はマークされながら唇を悔しそうに再び噛んだ。それをマークされながらも足掻いていた神童が心配そうにそのやり取りを見ていた。
一方剣城の方は、殆どの人達に囲まれていた。どこにも逃げ場がない。後ろからも奪われないように警戒しながら剣城が少し目線を後ろにズラす。だが、それを夜桜は見逃す筈もなく剣城からボールを奪い取った。そして、素早く磯崎にパスを出した。

「これで分かっただろう、お前に俺達のサッカーが潰せない事が。こいつは俺達からのプレゼントだ!!」

膝の上でボールを跳ねさせていた。だが、そう言った瞬間、至近距離でボールを剣城に向かって蹴り出した。剣城は重力に従い、倒れそうになるが直ぐに体制を整えて片膝を付きながら、ボールに当てられた所を抑えていた。

『京介!』
「剣城!」
「剣城!」

嫌な予感はしてたんだ…
片膝を付けて痛みに耐える彼を見てるだけで見ていられない。

「食らえ!裏切り者!」
『…!!』

剣城から跳ね返って来たボールが夜桜の元へと転がって来る。それを見た夜桜はボールに片足を乗せて、剣城を見下すように嘲笑った。そして、次の瞬間剣城に向かってボールを蹴った。ボールを当てられた剣城はまた弾き跳んでしまった。

「くっ…」

しかし剣城は地面に倒れ込まずに済み、一回転をして何とか体制を整えようとする。

「アイツ等剣城を…!?」

フィフスセクター同士の潰し合い。フィフスセクターに使えるシード、とは言っても皆が皆、仲が良い訳じゃないらしい。見たくない。目の前に剣城が居るのに、マークが邪魔で行けない。
まあ、彼の事だから「来るな」とか「お前は足手まといだ」とか言われるに決まっているが。
それに、彼は負けず嫌いだ。だから、彼が負ける事は無い。

「さっさとくたばれ!フィフスセクターを裏切った事を後悔するんだなあっ!!」

万能坂中の監督もまた焦りの表情を見せてきた。早く剣城を潰さないと、という焦りが。磯崎もまた焦りとまでは行かないが、剣城に先程よりも力強くボールを蹴った。

「剣城!」
『京介!!』

あれが当たったら本当に危ない。天馬と悠那が心配そうに声を上げた時だった。剣城はそのボールに真っ正面から突っ込んで行く。そして左足と右足でボールを挟み、一回転してボールの勢いを殺した。

「なっ!?」

蹴った本人も万能坂の監督も、天馬も神童も驚きの表情を見せていた。

『ナイス!』

「ふん、この程度のボールで俺が潰せるか!」

悠那が安心したように、小さくガッツポーズを取って言えば、上手く着地をした剣城はそう一言言い、再びドリブルで抜き去った。

「…まだ分からないのか」

まるで自分にも言い聞かすように磯崎はDF陣に指示を出して行く。その指示を聞いた毒島は若干舌打ちをして悠那のDFを離れて、剣城を囲みに向かう。しかしこれで悠那に付くDFはいなくなった。

「っ、」

余りの数にドリブルを止める。流石の剣城も焦っているようで、顔を歪ませていた。それを見た神童はマークされているにも関わらず、素早く動き倉ノ院のマークを外し、一気に前に出た。

「こっちだ剣城!幾らシードのお前でも、一人で11人相手にするのは無理だ!!」
『……』

確かに、シードの剣城でも流石に全員相手は無理に違いない。その証拠にあの剣城のキツそうな表情。

「俺達だって思いは同じ!本当に勝ちたいのなら俺達と連携しろ!!」
「剣城!」
「剣城!」
『……』

だが、神童達も神童達なりに真剣なのだ。この試合を勝たなければいけない。それを理解出来ない程、剣城の頭だって固く出来ていない。天馬と信助に名前を呼ばれた後に、悠那も剣城に向かって作り笑顔では無い、本当の笑顔で頷いた。
大丈夫、もう一人で抱え込む必要は無いんだよ。久し振りに見た彼女の本当の笑顔。もう向けられないと思われたその笑顔が懐かしく感じられた。

「……」
「貰ったぁあ――っ!!」

それを横目で見ていた剣城。表情を崩す事無く黙って一人で考えていれば、夜桜はそれがチャンスだと思ったのか、剣城に向かって勢いよくスライディングをしてきた。

それに気付いた剣城。目を見開き高く跳んで交わし、そのまま神童にパスを繋げてきた。神童はそれを難なくトラップした。
剣城が一緒に戦う事を許した証だった。



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