前半戦が終わった頃、ベンチへとボロボロの体を引きずって行けば、葵と茜の心配そうな顔と水鳥の満面の笑みが来た。何なんだろうこの差は。

「もう…本っ当無茶ばっかするんだから!!」
「だってさ〜…」
「かっこ良かったぞ。後半も行け、天馬!!」
「水鳥さん!!煽る様な事言わないで下さい!!」
『(というか何故にポケモ○…)』

サ○シなのか?水鳥先輩はサト○なのか?考えもせずにポケ○ンを出すサトシなのか?
なんて水鳥の無鉄砲な言い方に悠那はタオルで汗を拭きながら思っていた。すると、暫く天馬の様子を見ていた茜が悠那に近付いて来た。

「悠那ちゃんも」
『え、私は…』
「……」

華やかな笑顔でそう言われたが、動けない程大した怪我もしていない。だから、大丈夫です、と言おうとした。だがその瞬間、茜が無言で悠那の背中を軽く触った。すると触れられた場所からジンジンと痛みが走って来て熱を帯びるのを感じられた。
あまりの痛さに声が出ない。茜の方を振り返って見れば、今度は真剣な顔をしており何も言い返せなくなってしまった。

『っ…!』
「痛いのは大丈夫じゃない証拠」
『そ、そんな!私はまだやれます!霧野先輩に比べたらこのくらい…!』
「でも…」

「…ったく、無理しすぎなんだよ、谷宮の奴」
「…これじゃあ、後半は無理か…すまない、霧野」
「気にするな、神童。お前の所為じゃない」
「……、」

霧野が茜と悠那のやり取りを苦笑しながら見ていれば神童からの謝罪の言葉。霧野は気にするなと言ってみせるが、神童にはやはりキャプテンとして責任を感じていたのか、顔を俯かせてしまう。
そんな彼もどことなく悠那に似ている。

「…それより、谷宮を頼む」
「…え?」
「アイツ…後半絶対無理するぜ」

俺の不注意の所為で余計負担をかけてしまったから。霧野がそう呟くように言えば、神童は悠那の方を向く。
背中の痛みを持っている悠那。背中はあまり使わないとはいえ、痛みの所為でプレイに集中出来なかったら大変だ。神童はそれを見た後にもう一度霧野を見て「あぁ…」と苦しそうに小さく呟いた。

折角、谷宮達と一緒に戦おうって決めたのに、俺が、変な着地すらしなければ…っ

「くそっ…」

自分でも分かる無力の自分。霧野は誰にも気付かれないよう、静かに自分の怪我した方の足をいつの間にか作られた拳で叩き付けた。

「神童っ」

すると、車田が自分を呼ぶ声が聞こえた。そちらの方を向いてみれば、そこには車田だけでなく天城、浜野、速水に倉間も居た。
皆の表情はかなり歪んでいる。速水みたいに不安そうにしている人もいれば、倉間みたいに不機嫌そうにする人も居る。きっと彼等は自分達にまだこんな事をやるのか、と聞いてくるに決まっている。

「後半もやるのか?」
「…っ、」

やはり聞いて来た。分かっていただけあって、それを直接聞くのはかなり自分にとって精神的にも来る。
前半戦の戦いにより体力がギリギリに近いにも関わらず、霧野は足を負傷してさまい、皆ボロボロ。唯一の救いが剣城だが、どうも信用出来ない。
ここで皆が協力してくれれば良いのだが、やはりそう簡単には行かない。

「やるなら勝手にやれ。ただし、俺達は一切試合に関わらない」
「「「っ…!?」」」
「っ!車田さん!」

神童は車田と目を合わせた。やはり車田の瞳は過去の自分と似ている瞳だった。過去の自分も、天馬や悠那に向かってこういう目を送っていたのか、と改めて感じさせて貰ったと同時に虚しさを感じた。

「今日の試合ではっきり分かったド。フィフスセクターに逆らったらどうなるか」
「やっぱ無理だったんだよねー、サッカー取り戻すとか…そーゆーの」

天城や浜野まで投げやりの言葉を言ってくる。
確かに万能坂に付けられた傷で本気という事が十分過ぎる程分かった。これ以上やり続けられたらもう怪我だけではなく、サッカー自体嫌いになってしまう。

「だからそれは勝ち続けていけば…!!」
「お前は黙ってろ!」

天馬の必死の弁解に呆れながら怒鳴りつける倉馬。倉間の怒号に言葉を失ってしまう天馬。これで二回目となるだろう倉馬の怒り。

「…分かりました。先輩達を巻き込んでしまった事は、謝ります。でも、俺達は戦います…例え六人になっても!」
『…先輩、』

その言葉に車田は眉間に皺を寄せて神童を睨み付ける。自分達の行動が皆に迷惑を与えているんだとしても、一度決めた以上曲げる事は出来ない。暫く神童と車田が無言で睨み合っていた。

「…勝手にしろ」

沈黙を破ったのは車田。
そして車田の後ろに居る部員達も同意するように頷いた。

「(……)」

しかし速水は少しだけ悠那に目を写していた。特に意味は無い。ただ、自分の目がそちらに行っただけ。そして、ふいっとまた目を反らして、倉馬達の後を追って行った。

…………
………

「何だー?この雷門のフォーメーションは」

『……』

後半戦が今まさに始まろうとしている最中、雷門のフォーメーションは前半戦より変わっていた。浜野、車田、速水、浜野、天城はそれぞれサイドの線ギリギリに立っており、ゴールまでがガラガラになっていた。何かをしてくるとは分かっていたが、まさか自分達以外被害来ないようにされていた。
これでは自分達が越された瞬間、万能坂と三国の一対一になってしまう。いや、もしかしたら一対一だけでは済まないかもしれない。

「一体どういう事なのかー?」

「(こう来たのか…)」

足を負傷してしまった霧野は信助と交代をして、ベンチでその光景を見ていた。そして自然と自分の眉間に皺が寄るのが分かった。

「よし!やるぞ!」
『勿論…!』

天馬の声が聞こえ、悠那もまた同意するように小さく気合いを入れて呟いた。

「あんなに痛めつけたのに、まだ六人も残っていやがる」
「だったら別の方法で潰しゃあ良い」
「別の方法?」
「味合わせてやるのさ、本当の絶望をな」

何度も何度もボールで傷付けられて、何度も何度も倒れたり転んだりしてボロボロの彼等。それでも自分達にかかって来る根性は呆れる程にスゴい。勿論悪い意味でだが。そんな彼等を見て、まだ策があったのか磯崎、篠山、夜桜は不敵に笑った。

「(さっきはシュートを決めてくれたけど、本当に信用して良いのか?)」

先程は今のサッカーを潰す、つまりフィフスセクターのサッカーを潰すと言ってくれたが前半戦の試合開始の時のシュートが頭に焼き付いている。悠那が嬉しそうに抱き付いていたのはきっと信用している事だと思われる。が、それでもまだ拭いきれないのは事実。試合開始の長いホイッスルが鳴った。
天馬がボールを持って上がるが、剣城が「かせ!」と言って来て、無理矢理天馬からボールを取る。

「!」
『…?』

仲間の制止符を聞かず、剣城は一人で万能坂の陣地に突っ込んで行く。

「アイツ、一人で戦うつもりか?!」

神童の言葉を聞いた悠那は思わずバッ!!と神童の方を見る。そんなの幾ら京介でも無理だ、と悠那も急いで万能坂のゴールに向かって走り出した。悠那の心配して上がって来る中、剣城は華麗にDF達を交わして行く。

「スゴいや剣城!流石はシード!」
「あぁ!」
「これなら…いける…」

だと良いけど。
それを見る浜野達の表情は良い物ではない。戸惑いの表情を浮かばせていた。
悠那も剣城の強さは分かっている。が、少し不安だった。よく見れば磯崎は抜かれたと言うのに余裕同然の表情で剣城を横目で見ていた。

「…?」

あっという間にかゴールの前まで上がった剣城。
なのに余裕の表情を見せる万能坂の人達。どうして万能坂の奴等はあんなにも余裕なのか。疑問は生まれたが、答えは直ぐに分かった。

「さっきは油断したが、今度はそうは行かないぜ」
「ふんっ」

剣城はその言葉の意味を考えもせず、そのままゴールに向かって“デスソード”を放ってしまった。

「うおぉ―――っ!!!!」

万能坂のGK、篠山の体には黒い気が纏い、それを一気に力に変えだした。過去も何度か見た事のあるその靄。嫌な汗が頬を伝い顎を伝った。上がり出す脈。

『まさか…』

化身…!?

―ドクンッ

化身と、確信した瞬間脈が一気に上がった気がした。剣城は言っていた。化身はシードだけしか持てない筈だ、と。先程の様子を見ている限り、いつもの剣城だったら相手がシードで、化身使いだったら化身で対抗していく筈。だが、剣城は篠山がシードだと知らなかったようで、その表情からはかなり驚いていた。

「!」
「化身…?」

靄から具現化されたのは、硬そうな体を持った巨大な機械兵。

「“機械兵ガレウス”!!」

篠山の化身、機械兵ガレウス。その化身の所為で、剣城のデスソードをいとも簡単に止められてしまった。やはり普通の必殺シュートでは化身を相手だと無力に近いらしい。いくらキック力の強い剣城でも、だ。

「剣城の“デスソード”が止められたあ―――っ!!」

信じられない。だが、化身使いにとっては止めれて当たり前だったのだ。

「(アイツもシードだったのか…!)」

剣城は知らなかった事に顔を歪ませた。

「驚くのはまだ早い」
『…え?』

今の口調から言い、まだ化身が居る、という事が勘で分かった。ボールを止めた篠山は怪しく笑った瞬間、勢いよく夜桜にダイレクトパスを出してきた。

「!」
「今度は俺の番だ

あははははははははっ!!!!」

ボールを貰った夜桜は大きく高笑いをしだした。そして夜桜は背後に藍色の靄を出し、両手を交差させて上に上げた。

「何っ!?」

靄からどんどん形を表し、次に現れたのは腕を四本持った、意地の悪そうな顔をした奇術師。

「“奇術師ピューリム”!!」
「アイツも化身を?!」

―ドクンッ

『っあ…』

やはり、他の化身を見る度に脈を打つ。
その感覚が何とも言えない程の吐き気を覚え始めてしまい、思わず口元を抑え込んでしまう悠那。ピューリムは夜桜の高笑いと共にシルクハットを取り、片手でステッキを器用に回した。ポンッと叩くと中からは巨大な白とピンクの八角形の箱が現れた。

「“マジシャンズボックス”!」

夜桜は高く跳び、箱にボールをぶつけた。すると、箱は逆回転しボールを飲み込む。いや、正確には箱は光に包まれ、中のボールの威力を更に倍増させている。そしてそれを、三国のいるゴールに蹴り入れた。

「“バーニングキャッチ”!!」

化身から放たれた化身シュート。それを何とか止めようと自分の必殺技で対抗するが、余りにもその威力は強く、三国は耐えきれず体ごとゴールに叩き込まれてしまった。

『三国先輩!』

「そんな…」
「三人もシードが居たのか…!?」

ベンチに居る霧野達も驚きを隠せない。ギャラリーもかなり騒然としていた。

「さあ剣城。俺達を潰してみろ。お前の言う本当のサッカーで!!」

磯崎と篠山は嫌味の様に笑う。剣城は余りにも予想外の事態に唇を噛んだ。あっちには三人、こっちには二人。化身を持っている人数は負けている。いや、まだ目覚めていない化身が居た。
それは、自分を一番に信頼をしてくれた、自分を犠牲にしてまで自分を守ろうとしてくれた人物。

「くっ…(ユナに賭けたいが…)」

悠那の化身。剣城は気付いていたのだ。悠那の中に眠っている化身に。
だが、どう目覚めるのが本人も分かっていないらしい。剣城の顔が悔しそうに歪んだ。後半開始早々2ー1と万能坂に一点差だが突き放されてしまった。


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