「ユナ、だけじゃない!」

悠那のその言葉に、天馬もまた、そう大声を出しながら立ち上がり出した。そんな天馬を見た悠那は嬉しそうに笑った。だが、ボロボロでも立ち上がった天馬に磯崎はまるで幽霊でも見たかのように目を見開かせていた。

「っ、何なんだこいつ等は」

だが、磯崎は直ぐに平然を保ちだし、毒島と一緒に天馬と悠那へとボールをぶつける。悠那と天馬は傷だらけになりながらも体を動かし、あまり痛くないよう受け流す事しか出来ない。それでも、サンドバックのようにボールをぶつけられていく。が、やはり二人は立ち上がり続けた。

「勝たなきゃ、いけないんだ…!!」
『負けたくない…!』

こんな人達に、フィフスセクターに…!
勝たなきゃ意味が無い。本気の勝負じゃなきゃ、意味が無い。
打たれても打たれても、それでも立ち上がる二人。ボールは当たっているのに、倒れてダメージを受けている筈なのに何故立ち上がれるんだ。
あまりの必死さに剣城の頭には血が上がっていた。

「退けっ!!」

目の前の光景に、苛立たさで頭に血が上がった剣城は毒島を強く押し退けた。あまりの事に毒島は大袈裟に退いてしまい、磯崎もまた剣城のその行動に目を見開かせていた。

「手緩いんだよ!お前等のやり方は!!」

毒島を退かした剣城はボールを奪い、それを空高く上げだした。何をするかなんて、説明されなくても頭で理解出来ていた。
でも、だからって自分はそれから逃げる訳には行かない。それが剣城の想いなら、自分はそれを受け入れる義理がある。

「潰すってのはこうやるんだ!」
「Σ剣城!」

それでも悠那は剣城を真っ直ぐ見つめる。それを見ていた剣城は更に感情が高ぶり、神童の声を無視して手加減なく二人に向かってボールを蹴った。
向かって行ったのは真ん中の方、だが少しだけ天馬の方に行っていた。しかし、悠那はまたしても天馬を庇うと天馬の前に立ち塞がろうとした。が…

「――!」

だが、それに気付いた天馬は今度は自分が悠那を庇うかのように悠那を肩で力強く押し退けた。

『――…え、』

いきなり自分の肩を強く押され、目を丸く見開く。あまりにもそれが力が強くって、勢いよく自分は天馬の隣から離れてしまった。
その時だけ、まるで自分が見ている世界がスローモーションに見えて、自分が倒れるのすらゆっくりに見えてしまった。気付けば、剣城から放たれたボール、そのボールは今自分の隣で天馬の顔面へと当たってしまった。

「うわあっ!!」

自分を弾き飛ばした天馬は案の定、ボールの勢いでまた吹き飛ばされてしまい、再び倒れて込んでしまった。自分もそのタイミングで尻餅を付いたみたいに、お尻から段々と痛みを感じとれた。それでも、自分の目は天馬の方を見ていた。

『な…んで、』

悠那は地面へと尻餅を付いた後、改めて予想外な事に驚くしか出来なかった。理由なんて分かっている。まさか逆に庇われるとは思っていなかった、って事。その行動もそうだが、周りに目をやれば剣城の余りの容赦の無さに万能坂中の皆も驚いていた。

『(京介…)』

転んでしまった天馬と、尻餅を付いた悠那を見た剣城は、特に表情を崩す事なくそのまま自分達に背を向けてきた。そしてそのまま歩き始める剣城。
背を向けた時の剣城の背中は、気のせいか少し寂しそうに見えた。

「勝たなきゃ、いけないんだ…!」
『天馬!』

剣城のボールに当たり、倒れてしまった天馬は、諦めずに再び立ち上がった。そんな天馬を見て無事では無さそうだが、立ち上がった事に少しだけ安心出来た自分がここに居た。

「!何故だ、何故立ち上がる!?」

ボールに、サッカーに痛めつけられているのに、仲間もそのサッカーに今まで苦しめられているのに、それでも立ち上がる天馬。それを見た剣城は訳が分からないとでも言うような顔をして眉間に皺を寄せた。

『…ははは、単純なんだ天馬も、私も…』

だって、

「俺、」
『私は、』

『「サッカーが好きだから!!」』

どちらもサッカーを好きになった理由は違う。どちらもサッカーを想う気持ちは違う。だけど、どちらも同じような目をしている。同じ目つき。
そして、この二人を見て皆は口を揃えてこう言うんだ。

――鏡みたい、だって

「っ……」

悔しい訳じゃない。でもだからって良い感じはしない。訳の分からない感情が、自分の中で疼いており今にでも何かを吐きたいぐらいだった。

『ほら、天馬』
「あ、ありがと…」

悠那は天馬に手を差し出す。それが自分を立たせてくれるものだと分かった天馬は、はにかみながら手を取り、立ち上がった。
とは言っても悠那に負担がかからないように天馬は出来るだけ自分の体にも力を入れて立ち上がった。

『…私こそ、ありがと』

庇ってくれて、
天馬にお礼を言われた悠那はそう助けてくれた事にお礼を言ってニコッと笑えば、天馬は照れたように頬を軽く染めて、

「当たり前な事したまでだよ!」

そう笑って言ってくれた。
磯崎はベンチに居る監督に目を向ける。監督とのアイコンタクト。次の瞬間にその監督から「やれ」の一言。それを見た磯崎は怪しい笑みを浮かばせて誰にも気付かれないように頷いた。

「良いだろう、だったら…」

視線を戻した磯崎は悠那にボールを軽く蹴り渡した。今のが何の意味か分からなかった悠那は少しだけ警戒をしながら磯崎を見た。見れば磯崎の表情は自分達を挑発するような表情をしており、一瞬だけ自分の中で怯んだ気がした。だが、それと同時にその挑発に乗り出す自分が居た。まるで二重人格を持った感じだ。そんなのにはなった事は無いけど。

「守ってみろよ、俺達を倒して、お前等の好きなサッカーを」
『天馬、やってみる?』
「…勿論!」

やはりあの表情は自分達を試すかのような挑発。それを聞いた悠那は傍に来た天馬にやるかどうかを聞いた。勿論、天馬はやる気。
大丈夫、ヘマはしない。
お互いがお互いに守りたいモノがあるから。

『絶対、守ってみせるよ』
「…!」

ボールをしっかりと踏みつけ、真っ直ぐと剣城を見て泥が付いた顔でも誇らしげに勇ましい顔で笑っていた。だが、そこで天馬は分かった気がした。
もしかして、ユナは何かを守りたかったのかな…?わざとあの時ミスしたのも、何かを守りたかったからなんじゃないか。
何を考えてああいう事をしたのなら、それ以外には考えられない。
だって自分はユナの一番の理解者なのだから。

『行くよ天馬!』
「うんっ!」

天馬はそう思った瞬間、何故か心が温かくなったのを感じられた。
ボールを万能坂中から貰い、悠那は天馬にパスを出した。それと同時に前に走り出した。

「ふんっ!」

その時、逆崎はボールではなく脚を狙ってスライディングをしてきた。

『!!天馬!』
「うわっ!」

「天馬!」
「っな!?狙った?!」

天馬の足元を狙ったかのようなスライディングをしてきた逆崎。しかしタイミングがズレたのか、天馬は少しよろけただけで済んだ。何はともあれ、あのスライディングが当たっていたら今ここで天馬は選手交代となってしまっていた。

「(今のは…まさかこいつ等、アイツ等の脚を…)」

今のは完全に剣城も油断をしていたかのように驚いていた。そして不意に剣城の脳裏に蘇るのは自分の兄である優一。優一は自分の所為で足を使えなくしてしまい、自分の所為でサッカーを出来なくさせてしまった。何故、今優一が出てきたのか、自分でも分からなかった。

『天馬!』

何とか危機を回避した天馬。兎に角、ボールを動かさないとどちらかが確実に狙われる。悠那は天馬からパスを受け取った。

「読めてるんだよ!」

しかしパスを読んでいた夜桜は悠那に素早くスライディングをしてきた。

『っ!』
「何!?」

それを見た悠那は焦りを見せたが直ぐに両足でボールを挟み、両手を地面に付け前転倒立並みに跳んで見せた。その姿はまるで蝶みたいに綺麗で鳥みたいに高く飛んでいた。だが、それが正しい選択かは分からないが。

「この時を待ってたんだよ!!」

『――…あ』

悠那は空中で体制を変える事は出来ても、流石に更にそこから高く跳ぶ事は出来ない。これ以上跳ぶにはもう一度地に足を着く必要がある。磯崎はまさに絶好なタイミングで悠那の足を天馬にしたように狙ってきた。
この目といい、このスライディングの勢いといい、恐らく手加減は、絶対無い。確かに自分はスライディングを避ける事だけは考えていたが、こんな着地する事は…

『(考えて、なかった…)』

まさか、自分の足を壊そうなんて…まさか、フィフスセクターがここまでするなんて、思ってもみなかった。勿論着地の仕方なんて分かっていた。だが、今ここで着地をしてしまったら自分の足は壊れてしまうであろう。だけど、こうなれば覚悟だ。これが最後の試合。例え私の足が壊れたとしても、このボールは繋げなければならない。
なら、絶対自分はヘマしてはいけない。
そう思って、私は後に来るであろう痛みを待つように固く目を閉じたんだ。


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