「よくもユナを!」
「そんな所に居たら危ないぜっ!」

先程まで地面にうつ伏せていた天馬は悠那が行ってしまった後、直ぐに立ち上がり毒島を追っていた。だが、悠那がダメージを食らった所を見てそう声を上げたが、そんなのはお構い無しに毒島はまた天馬にボールを蹴ってきた。

「しまっ…!」

追う事に集中していた為、反応出来なかった天馬はボールをまたもやぶつけられてしまう。だが、それでも攻撃は止まずに万能坂中は天城を吹き飛ばし、車田を弾き飛ばし、倉間の腹にボールをぶつけ、天河原中以上に卑劣なプレーを繰り出してきた。この容赦ない攻撃を見て、先程の潰すという言葉が本当になってきた。

「ぐあっ!」

万能坂は勢いを止めずにDFに来た浜野、神童、そして霧野を次々と弾き飛ばして行った。

「――っ!?」

しかし霧野は弾き飛ばされた反動で着地をする時に足を捻ってしまい、そのまま倒れてしまった。余りの痛みに顔を歪ませてしまい、膝をついてしまう。

「霧野君!」

ベンチにいるマネージャー達や信助も目を見開いた。これは万能坂中の所為ではない、とは言い切れないが変な着地をしてしまった霧野。足はまだ痛むのか、立ち上がろうとしていても直ぐに体制を崩してしまう。
それを見た信助は意を決したかのように円堂へ訴えかけた。

「円堂監督!交代をお願いします!このままじゃ霧野先輩が危ないです!」
「…信助、後半は頼む」

もう直ぐ前半が終わる。
今信助を入れても下手に傷付くだけになるかもしれない。本当は今すぐにでも霧野と信助を交代させてやりたいが、今は仕方がなかった。

「でも!」

納得がいかなかった信助はフィールドを見る。だが霧野はプレイを続行出来る位ではない。そして霧野もだが、一番危険なのは#name2#。打たれた背中も心配である。しかも、もう立っている人物は速水だけになっているのだ。これはかなりヤバい…

「これはスゴい展開になってきた!雷門イレブン!万能坂中のラフプレーに倒されている!」

会場中が騒然としていた。これを見てもまだ審判の笛が鳴らない。なんて卑怯で完璧な計算なのだろうか。審判もグルに見えて来そうだ。

「見てられないぜ…っ」

GKの三国は目の前の光景をこれ以上見てられないと言わんばかりにピッチに飛び出して行った。
既に1ー0。指示ではこれ以上点を入れられる事は無い。会場も少しの盛り上がりを見せる。
――だが、

「あんたは引っ込んでな!」
「ぐはあっ!」

ゴールから少し離れて取りに行こうとしたが、ボールを勢いよくぶつけられてしまい、無理矢理ゴールへと押し戻された三国。背中がゴールポストにぶつかり、一歩間違えれば大怪我をする所だった。

『三国、先輩…っ』

視界の隅に見えたその姿。ボールが転がって行く近くには力無く倒れた三国。悠那は膝に手をつきなが立ち上がり、三国に近寄ろうとする。だが、中々腕に力が入らなくて再び地に伏せてしまった。

「お、終わりだ…だからフィフスセクターに逆らうなんて、止めた方が良いって言ったんですよぉ…」

まだ立っていた速水の足がその光景に恐怖を感じだしたのか震えており、怯えた表情で周りを見る。自分以外立っている人物が殆ど居ない。彼等の標的が自分に来たと同時にぶつけられる自分にも来るというフラグが立った。トントンッと転がって来たボールを剣城は軽く上げた。そして速水を見て軽く口角を上げる。

「ほら」
「――え?」
「今度はお前の番だ」
「っ!?」

目の前に居た剣城に気を取られていた所為か、速水の背後にはいつの間にか毒島がいた。
今度こそ自分に来る。あの時のボールへの痛みは忘れられない程の恐怖。

『…だよ、』

ダメだよ…
これ以上、サッカーで人を傷付けちゃ…
これ以上、優一さんを悲しませちゃ…

『ダメだよ京介…っ!』

これ以上、自分を傷つけちゃ…!!

毒島からボールが蹴られた。それと同時に悠那は一気に右足の爪先に力を入れた。
ドンッ!!と衝撃は横からで、その反動で速水は突き飛ばされた。

「っえ、」

一瞬の浮遊感と、体にはボールの痛みとは違う別の痛み。そして、尻餅を付いた時のちょっとした痛み。あまりにも頭が混乱して状況は把握出来なかった。

『うっ…!』

だけど、自分の視界には明瞭されていく、鮮やかという言葉はあまりにも合わないが、目の前には気付けばボールは悠那の脇腹にぶつかっていた。恐らく今の苦しそうな声や鈍い音は自分が全てやる筈だった物だ。悠那はそのまま倒れ込んでしまい、片方の手で脇腹を抑える。

「何っ!?」
「……!」

意外な展開に、磯崎は思わず声を上げ、剣城もまた驚愕の表情を浮かばせていた。体が鈍くなっている所為か、当たったボールは重くのしかかって来るように感じられた。
そもそも体重がそこまで重くない悠那は勢いのあるボールをふつけられた為、少しだけ吹き飛んでしまい数回程地面を跳ねた。
ゴホッと咳き込めば、自分の唾まで出て来た。

「悠那!?」
『…っ、』

ベンチで試合を見ていた葵はついベンチから立ち上がり、悠那を心配そうに見る。悠那はそんな葵の声を聞き「大丈夫」と口パクで伝えて、腹を少し抑えながら立ち上がった。
フラフラしている所を見て大丈夫そうではないが。

「な、何で…」

よく分からない人。
何故悠那は自分だけじゃなく、他の人まで守ろうとするのだろうか。さっきまでこの子も実はシードじゃないか、と疑った。理由は試合の始め。剣城のシュートを止めたが、その後軌道をわざと変えてゴールしたから。だけど今は自分を守ってくれた。もう訳が分からない。どれが悠那の本性で、どれが悠那の偽りなのか。
だけど彼女が自分を助けてくれたのは事実。

「ユナっ」
『…全然大丈夫、大丈夫…』

念を押して悠那は駆け寄って来た天馬に大丈夫を心配かけまいと二回言って笑っているが、やはり表情は晴れない。まだ腹の痛みが癒えないのか、抑えながらふらついていた。

「悠那っ!」

もしかしてこれは全部俺の所為なんじゃないのか…?俺が勝ちに行くなんて言ったばかりにっ…だから悠那が、皆がこうして狙われているんじゃ…!
何も出来ない自分が悔しくて憎い。誰か自分を殴ってくれと思った時だった。ふっ、と神童に影が差してきた。

『!』

神童の目の前には磯崎。
彼の足元には既にボールを神童に向かって蹴ろうと足を振り上げていた。また自分にフラグが立った。

「あばよ」

確かに自分は殴ってくれとは思った。だけど一つだけ言い訳を言わせて貰う。まさかこんな早くに来るなんて思ってもみなかった。
キャプテンの顔面にボールが蹴りつけられた。
ついにフィールドに立っている雷門選手は、剣城だけとなっていた。

「手応えの無い奴等だ。この程度なら態々俺達がやんなくても良かったのによ」
「待て…まだ、試合は…終わってない…!!」

自分の膝が笑っているのにも関わらず、天馬は必死になりながら立ち上がった。自分の姿はボロボロ、息もまだ前半なのに上がっている。全体的に疲労などでどっと体が重くなった気がする。それでもその体を引きずり、立ち上がる天馬。

『私も、天馬の意見と同意だよ』

天馬が立ち上がったのを見て、悠那も負けじと立ち上がった。ボロボロになっても立ち上がる。お互いに膝が笑っているのに、痛い所もあるのに、それでも二人は立ち上がるのだ。

「(またこいつ等だ…)」

どうして二人してここまで諦めが悪い?
それが自分の頭に浮かんだ。だが、それと同時に思ったのは、どうして二人してこんなに似ている。それだけがかなり頭に響き、自分の中に苛立ちともう一つ、不思議な感情を抱かせた。
そんな剣城の心中、磯崎は仕方無さそうに溜め息を吐いた。

「ふう、そういう事されると困るんだよね。キミ等も皆のように大人しく寝ててくれないとさあ!」

磯崎のボールを真っ正面から受け入れる天馬。ぐっと足に力を入れ目を反らさない。そこで一瞬、天馬が小さく動いた気がした。そこで悠那が小さく「あ」と声を漏らして気付いた時にはもう遅かった。

「うわあっ!」

小さく動いたは良いが、反応が遅れてしまった所為で天馬はボールを受けてしまった。

『天馬!』

天馬から跳ね返ったボールはちゃっかりと磯崎の方に戻って行く。
どうも自分は限界が近くなっているのか、自分には磯崎どころかボールまでもが自分を否定し嘲笑っているみたいに感じられた。

「っ、ぐ…」

それでも天馬は隣で自分はまだ諦めていないと言わんばかりにまだ立ち上がりだした。

『…うん、』

それでこそ天馬だよ。それでこそ、私の中の天馬なんだ。
守りたいモノがある人は強くなる。何度も何度も。

――私も、強くなれるかな…?

「アイツ、磯崎さんのボールを食らって、立ち上がりやがった…」
『当然ですよ、』
「…?」
『立ち上がらなきゃ、守れないから…』

立ち上がらなきゃ本当のサッカーに会えない。立ち上がらなきゃフィフスセクターに負けた事になる。
…立ち上がらなきゃ、皆を守れない。
だから私も立ち上がる。
例え骨が折れても、私は守りたいモノがある限り、いくらでも立ち上がろう。

「サッカーをっ…サッカーを守る…!!その為には、勝ち続けなくちゃいけないんだっ!」
「このっ、ガキがあっ…ぶっ潰してやる!」

今の天馬と悠那の様子に腹が立ったのか、磯崎は怒りの表情を見せており、もう一度渾身の蹴りでシュートを天馬に向けてきた。

「うわあっ!」

真っ直ぐ天馬へと向かって行くボール。ああ、これで終わったな、磯崎も隣にいた万能坂中の人も同じような事を思った。
しかし…

『まだ、終わってなんか無い…!』
「…!」

そこで悠那は天馬を庇うように前に立った。

「ッチ、次から次へと…しかも女かよ」
『女を舐めないでくれますか…?』
「お前一人でどうするつもりだ?」
『私だけだと思います?』

悠那はフラフラとしながらも悪戯をするように笑った。すると、後ろから誰かが動く音がした。



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