フィールドでストレッチをしていれば、倉間が天馬の元まで歩いて来た。自分の所に足が止まったのに気付き、天馬は倉間を見上げた。倉間は相変わらず警戒するように睨んでおり、天馬も思わずストレッチを止めた。
「良いか、お前等が勝とうとしたら俺が止める。
俺は…俺のサッカーを守る」
「倉間先輩…」
『天馬…』
倉間は駆け寄って来た悠那をついでに言いかけるように睨んだ。それを見た悠那は特に何を言う訳でなく、その睨みを正面から受け止めた。倉間もまた悠那に何を言う訳でもなく立ち去り、悠那は立ち去る倉間の後ろ姿を見た。
『(倉間先輩の守りたいモノ…)』
「やるしかない…」
立ち去った倉間を見て、神童は通り際に、二人に向けてそう言った。
『「はい!」』
神童のその言葉に二人は同時に頷いた。やるしかない。悠那は返事をした後、DFのポジションへと向かった。そしてその場でストレッチをしていれば、視界に剣城と話している白髪の入った紺色の髪を右に結んでいる、磯崎が見えた。
『あの人もシードなのかな?』
「(倉間達の攻撃参加は期待出来ない…だが、それ以上に危険なのは剣城だ…)」
悠那がその光景を見ているその傍で霧野が頭で改めて分析をしていた。昨日までは自分達の敵側だったのに、今度はこちら側になった。それがどれだけ心強い事か。
何をしてくるか分からない…霧野も剣城には警戒していた。
「(アイツにだけはボールを渡してはいけないっ)」
『大丈夫…』
霧野がそう考えている中、悠那はそう呟きながら試合開始のホイッスルを待った。
ピ―――ッ!!
試合開始のホイッスルがフィールドに鳴り渡った。
先攻は万能坂から。磯崎が同じFWにパスを出してスタートする。話は磯崎から聞いていたらしく、そのFWは剣城を全く警戒せずにドリブルをした。
『!』
しかし擦れ違いざま、剣城は一瞬でそのFWからボールを奪いだした。あまりの速さにその人は追い付けず唖然としていた。
「Σ!?」
「っな?!」
いつのまに…二人の顔が、言わなくともこちらでも伝わった。
磯崎はすかさず剣城に肩でぶつかりチャージを喰らわせる。剣城はそれにしっかりと対抗していた。シード同士の激しいぶつかり合い。状況は万能坂の人達どころかこちらも意味が分からなかった。
「どういうつもりだっ!」
磯崎が若干声を荒げさせながら言うが、磯崎の言葉に剣城は何も答えずに軽やかにチャージを交わした。そして勢いをつけて後ろにパスを出す。つまり雷門側にパスらしきものを出してきたのだ。
バックパス。
いや、違う。そのボールの勢いはパスなんて言う生易しいレベルではなく、シュート同然のもの。
「なっ!?」
「え!?」
余りにも突然の事だったのでそのボールに誰も反応出来ずにいた。迫って来るボール。このまま行けば、そのボールはゴールに入ってしまう。
FWの人を抜いてMFを抜き始めた時だった。
『っ、!』
剣城達が居た場所から真っ直ぐこちらへとボールは来ている。その距離と悠那の距離ではあまり差が無く、数歩走った所でそのボールの前まで辿り着けた。そして、そのボールは悠那の右側面の足が捉えた。そこで、天馬と神童は何とか安心は出来ていた。が、
ズッ…とボールは悠那の足を滑り、はそのまま軌道を変えようとする。それを見かねた悠那は足を少しだけズラして更にそのボールに自分の力を加えた。踵で更に力を加え、軌道を変えたボールは三国の居るゴールに入ってしまった。
「Σな!?」
三国もた軌道が変わった所為か分からないが、体が反応しきれずにゴールに入れてしまった。
ピ―――ッ!!
ゴールにボールが入った瞬間、点数が入ったと言わんばかりにホイッスルが鳴りだした。その事に唖然とする万能坂と雷門。
「!」
会場も、誰もがその光景に目を見開くしかなかった。三国は力無く跳ねるボールを見た後に悠那を疑問符を浮かばせながら見てきた。
「ご、ゴオォォォ―――ルッ!!!?」
「…!?」
確かにゴールには入った。しかしそれは打った本人、剣城もまた同じく驚いていた。確かに悠那は自分に「今のサッカーを潰す」とは言って来たが、まさか今ここで行動に出るとは。しかも先程のは明らかに自分から動いていた。自分が蹴ったボールを一度受け止めて、更に自分の蹴りを入れてゴールした。敵ではない、自分達の守るゴールにだ。
「な、なんと先制点は谷宮のトラップミスでオウンゴール!!雷門!痛恨の失点だあー!!」
フィールドの誰もが呆然とする中、悠那だけは黙って自分の入れたボールを見ていた。
『…大丈夫』
試合はまだ始まったばかりなんだから。
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