05

―今日は悪かった

 お風呂から上がって濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻るとメールが1通届いてて、差出人は初期設定のままのアドレスの影山くんからで。ドキリと高鳴る心臓を撫でながらメールと開くと今日の事を謝る内容で、慌てて返信ボタンを押して文字をタップする。

―こっちこそ、言い過ぎた。ごめんね

 そんな言葉を送って暫くするとメールの受信にしては長いバイブ音がスマホから鳴り響き、電話の着信である事を知らせる。そのスマホが知らせる着信相手にはメールと同じ人物の名前が書いてあって、慌てて電話に出る。

「も、もしもしっ、」
「……みょうじか?」
「うん、そだよ。……どうしたの、電話なんて」
「悪い。今、大丈夫か?」
「うん」

 電話だと影山くんの声が低く聞こえる。どうしよう、なんか、左耳が熱い。

「その……本当はメールで伝えようと思ったけど、うまく文章にできねぇから。言葉で伝えたほうが良いかと思って。その……今日の事、本当に悪かった」
「い、いやっ! 私の方こそ、あんなキツイ言い方しちゃって本当にごめん」
「みょうじは悪くねぇ。俺がみょうじに甘えすぎてた。俺、みょうじくらいにしかこんな事頼めねぇから」
「ううん、私、影山くんに頼ってもらえるの、嫌じゃないんだよ。ただ……」
「……?」

 ただ、周りと打ち解けていく影山くんが遠くに行っちゃいそうな気がしてたの。その言葉は口には出来なかった。だって、これは私の我が儘なんだから。

「ごめん……。ただ、体調が悪くてそれを影山くんに八つ当たりしちゃったんだ。だから、影山くんは悪くない。本当にごめんね」
「風邪か!? 今は体調大丈夫か? 悪い、電話なんかしてる場合じゃねぇよな。今、切るから……っ、」
「ぷっ、あはは!」
「……みょうじ?」
「ごめん、ごめん。影山くんは素直だよね」
「……そんな事言われた事ねぇけど」
「そうなの? 私、影山くんの事、素直で可愛い男の子だなぁ、って思う事多いよ?」
「可愛いかよ」
「あっ、ごめん。可愛いは失礼か」
「どうせなら、格好良いの方が良い」
「そだね、ごめん」
「男の子ってのも、なんか嫌だ」
「えっ、何で?」
「……なんとなく、だ」
「何ソレ! 影山くんって面白いよね! あははっ!」
「なっ……お前は笑い過ぎだ!」
「えぇ? そぉかな。影山くんと話してるとおかしくて。つい」
「……俺、何の電話してたんだ?」

 そう言われて我に帰る。私は何で影山くんから電話されてたんだろうと。……あっ、謝る為に電話くれたんだった!

「ごめん! 謝る為に電話くれてたのに! 長話しちゃった!」
「いや、俺も目的忘れてた」
「あははっ! お互い様って事で私の事も許してくれないかな?」
「許すもなにも……謝るのは俺だ」
「良いんだよ、私は本当に怒ってないから。私の方がごめん」
「なんでみょうじが謝るんだよ」
「んー、意味は分からない方がありがたいからさ、とにかくごめん!」
「意味分かんねぇ」
「あははっ! ごめんごめん」
「あっみょうじ」
「ん?」
「……明日の時間割、なんだ?」

 利用なんてされてない。だって、こうやって私の事気にかけて電話してきてくれてるんだもん。影山くんは優しい。そんな影山くんに頼ってもらえてる事が私はやっぱり嬉しい。あの時は嫉妬してただけで、本当はこうやって、これからも時間割を聞いてくれたら良いなって思う。

「明日はね、」

 だから、影山くん。私の事これからも頼りにしてね。
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