04

「影山〜お前また白目剥いてたろ」
「なっ、いつ!」
「さっきまでずっと」
「っしてねぇ!」
「嘘吐け! ノート真っ白じゃねぇか!」
「う、うっせぇ」

 IHまで少しとなり、壮行式が行われ男子バレー部の混沌としつつも謎の一体感を生んだあの壮行会から影山くんの周りには色んな人が集まるようになった。恐らく、あの1件辺りから影山くんは見た目が怖いというだけで、本当は接しやすい人物なのだと皆が気付いたのだろう。それは良い事だと思うし、嬉しい気持ちもある。

「なんかさぁ、最近の影山って面白いよね」
「分かる! なんか刺々しく見えてただけで、本当は天然的な?」
「あっ、それ! まじそれだわ」
「そうなってくると、影山ってやっぱアリだよね」
「分かる! 狙っちゃおうかな」
「え、まじで? あんたこないだまで中村狙いだったじゃん!」
「だって隣のクラスの子といいカンジだし」
「えっ! まじで! 誰?」
「てかさ、なまえ影山と良く話してるじゃん。どんなカンジ?」
「ん? ん〜……バレーの話ばっかしてるかな?」
「……確かにバレーにしか興味無さそうだもんね〜」
「付き合っても楽しくないのかも」
「あー、言えてる。だとしたらやっぱ高橋かなー」

 ころころと変わる恋愛対象にイマドキだなぁと同い年ながらもどこか自分がその外側にいるような感想を抱いてしまう。
 前に比べて男子と話す事も増えた影山くんの邪魔をしてはいけないと、授業間の休憩時間は席を立って、違う席で影山くん以外の人と話す事が私自身も増えた。
 遠くから男子とやり取りを交わす影山くんを見つめて、女子が恋バナに花を咲かす――そういう休憩時間も終わりが近付いてきたので、みんなとの会話を切り上げて席に戻る。

「あ、みょうじ」
「あ。ここ、みょうじの席だったな。悪ぃ」
「ううん、ごめんね。ありがとう」

 私の席に座っていた男子にお礼を言いながら代わってもらい、次の教科の準備を始める。

「……最近授業終わる度に席立つな」
「えっ、そう?」
「なんとなく、そんな気がする」
「そんなつもりは無いけどなぁ」

 嘘。影山くんの為に意識してそうしてます。なんて押し付けがましいから言わない。けど、影山くんの為と思っている行為を影山くん自身はあまり嬉しいと思ってくれていないようだ。表情がそういっている気がする。

「……みょうじに席立たれると前の授業の内容が把握できねぇ」
「あっ、あぁ。……なるほどね。ノート、貸そうか?」
「ノート見ただけじゃ理解できねぇ」
「あー……じゃあ、授業中起きてたらいいんじゃ……?」
「ムリだ」
「……影山くん、それは我が儘だよ」
「っ!」

 ビックリだ、とでも言いたげな顔を向けてくるけれど、私の言ってる事は間違ってなんかない。だって実際そうじゃん。私の事を利用してるって事じゃん。私は影山くんの為を思ってやってるのに席を離れるなみたいな事言うし。それは自分の勉強の為だし。連絡先を聞いてきたのも結局は自分の勉強の為のような所もあるワケだし。そう考えるとなんか、私のしてる事ってバカみたいって思ってしまう。それでも良いって。影山くんに頼ってもらえて嬉しいって思ったのも事実なのに。なんで今はこんなにイラついてしまうんだろう。

「影山くんのそういう所、良くないと思う」

 あぁ、こんな事を言いたくて影山くんと仲良くなりたいワケじゃなかったのに。なんでこんな言葉が口から出ちゃうんだろう。影山くんの顔が見れない。
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