03

 影山くんとそれなりに会話する事も増え、影山くんを見つめる事も多くなってきて思う事がある。

「爪、綺麗にしてるんだねぇ」

 そう。影山くんの爪はいつも長すぎず、短すぎず、そして形も綺麗に整っている。指も細くて長いから、“綺麗”という表現が合っていると思う。だけど、影山くんはそんな私の言葉に自分の手を広げながら首を捻ってみせる。

「バレーの為に一応は、な。でも綺麗とは思わねぇ。キレイ、っつーのはみょうじの手みてぇなのを言うんじゃねぇのか?」
「えっ私? 私の手はネイルもしてないし、綺麗なんかじゃないよっ」
「俺もネイルなんかしてねぇぞ? そんなの面倒くさそうだし」
「でも影山くんはきちんと爪のケアをしてるんだよね? そういう所がやっぱりバレーが好きなんだなぁって思う所だよ」

 影山くんの思う綺麗と私の思う綺麗が一致しなかったようなので、そこは分かり合う事が出来なかったけど、バレーの為に手のケアを欠かさない影山くんはやっぱり凄いと思う。そして、バレーが大好きなんだなって実感する。

「まぁ、最近はやっとやりがいも感じてきだしたな」

 バレーの話になると目が輝くのもそう。最近町内会チームの人たちと練習試合をした事、そのチームの人が難しいサーブを使いこなしてて凄いと思った事、エースと守護神が復帰して自分のチームの凄さも改めて実感した事、そして日向くんという子との連携がうまくいった事、そんな事を楽しそうに話す影山くんを見て私も楽しい気持ちになっていた時。

「影山ー! 今日昼東峰さんのとこ行くけどお前も来るかー?」

 廊下側の窓辺に手をついて、影山くんを呼ぶ男の子が現れる。その子はオレンジ色の髪の毛をぴょん、とはねさせ、クリッとした目を更に大きく開かせて影山くんの事を見つめる。
 元気一杯という言葉が似合うその子の登場に私の目も負けないくらい開いた状態でその子を見つめていると私に気がついて、「あっ悪い! 話し中だったか?」と眉を下げて謝ってくる。なんだかその姿が犬みたいで可愛いなぁ、とついつい思ってしまう。

「ううん、良いよ。もしかして、日向くん?」
「えっ! 俺の名前なんで……俺って有名人?」
「あはは、日向くん単純。影山くんがね、良く話題に出すから、知ってるんだ」
「あぁ、そういう事か! コイツ、俺の事褒めねぇからなー。どうせ悪い事ばっか吹き込まれてるんだろー?」
「ううん、そんな事ないよ。レシーブは下手だけど、スパイクは良いカンジになってきたとか。まぁ他の人に比べたらまだまだだけどな、とか。そんな所かな」
「……悪い所の方が多くねぇか?」
「あはは! 確かに!」
「かーげーやーまー!」
「んだよ」
「……事実だから言い返せねんだけども」

 悔しそうに目を細めて苦い声を出す日向くんにまた笑って、そんな私に日向くんがまたムッとしてそれにまた笑って……と短時間の間ですっかり打ち解けた私と日向くん。

「やべっ! 休憩時間終わるっ! みょうじさん、またねー!」

 手を振ってパタパタと教室に帰って行く日向くんを見送りながら、人知れず笑みが零れていた。日向くんって誰とでも仲良くなれるタイプだなぁ。人懐っこい。可愛いなぁ。

「みょうじ、日向と話す時楽しそうだったな」
「ん? あぁ、日向くんって明るくて、人懐っこくて良い子だよね! 確かに話すの、面白かったなぁ」
「ムカツク事も多いけどな」
「そうなの? 日向くんみたな子が部活に居ると楽しそうだけどなぁ」
「まぁ……な」

 ちょっとムスッとしたような顔を浮かべる影山くん。だけど、期待に胸弾ませている事も分かるから、影山くんと話すのも楽しい。

「ごめん、喋り過ぎたね。今日、お昼休み練習頑張ってね!」
「うス」

 あと少しでGW合宿も始まるらしい影山くんは隣の席で白目を剥く事は減った代わりにそわそわする事が増えた。その事もなんだか面白いし、そんな影山くんは日向くんと同じく、可愛いと思う。本人に伝えるとまたムスッとした表情をされそうだから、黙っておくけれど。
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