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しあわせが絡まる

「昼神先生」
「こんにちは」
「こんにちは!」

 今日は今までで1番気合を入れた。潤ちゃんと拓海くんに相談しながら決めたコーディネートは白のニットに黒のロングスカート、それに大きめのもこもこしたアウターを合わせてみた。本当は大人っぽいワンピースも候補だったけれど、行く場所が行く場所なので今回はこっちを選択した。髪の毛はゆるりと巻いて、ピアスを揺らし駆け寄る先に待っているのは私の好きな人。

「ちゃんと約束して会うの、病院以外では初めてかな?」
「確かに。言われてみればそうですよね」

 そう。今日は事前に打ち合わせ済みのデ……いや、お出かけ。星海選手と先生のお兄さんが所属するバレーチーム、アドラーズがこっちで試合をするらしく、その試合に誘ってもらったのだ。
 お誘いをもらってからまず潤ちゃんの部屋のドアを叩き、次に潤ちゃんと2人して拓海くん部屋のドアを叩き。3人ではしゃいでいるとユキの鳴き声が聞こえたので、3人で縁側に向かい。
 ウメタケちゃんにも興奮しながらありのままを報告すれば「なまえちゃんに一足早い春が来たんだねぇ」と微笑まれ。

 そんな風にして迎えた今日。駅前で落ち合うことになっていたので10分早めに着けば、昼神先生は既にそこに居た。待たせてしまった――と駆け寄って詫びれば「みょうじさんなら早めに来るだろうと思って。正解だったね」と得意げな表情で笑われてしまう。

「わ、私だって昼神先生なら早く来るだろうって思いました」
「ははっ、じゃあ2人とも正解だ。じゃ、行こうか」
「はい!」

 昼神先生は大きめの黒いジャケットにモノクロのボーダーニット合わせ、ベージュのチノパンを履いている。“ジャージにアウターを羽織りました”みたいな服装も格好良かったけど、こういう服装もばっちり着こなしてみせるから、昼神先生はやっぱりずるい。というか、これはきっと“好きな人だから”っていう部分が大きく作用してるのだろう。……いやそれがなくても先生は格好良いんだけど。

「こんなこと言ったら潤ちゃんに笑われちゃう」
「ん? なんか言った?」
「あっな、なんでもないですっ。今日、誘ってくれてありがとうございます」
「こちらこそ。今度姉ちゃんの試合にも行けたら良いけど」
「レッドラビッツの昼神招子選手!」
「そうそう」

 昼神先生から“次”があることを示唆されて早くも浮き立つ気持ち。それを必死に抑えながら足を踏み出せば「高校生の時は聞かされる側だったからね」と言いながら微笑まれる。はてなんのことだ? と首を傾げ返すと、「こっちのハナシ」とはぐらかされてしまった。

「えっ気になります。教えてください」
「今度、良い子にしてたら」
「あっ、それ! 前も言われた!」

 私、いつまで良い子にしてたら良いんですか? なんて、むすくれてみても昼神先生はただ笑うだけ。……やっぱり昼神先生、はぐらかすの上手だな。



「楽しかった〜! 私、バレー初めて生観戦しました!」
「テレビも良いけど、躍動感は生で観る方が何倍も伝わるよね」

 昼神先生の言葉に大きく頷き、今しがた終わったばかりの試合を思い浮かべる。星海選手も、福郎選手も、他の選手も。全員めちゃくちゃ格好良かった。もっとたくさん観たいと思わせる試合だったので、きっと私はそう遠くない未来で再びバレー観戦に足を運ぶことになるだろうなと予測する。

「スパイダーハンズかぁ、格好良い別名だなぁ」
「兄ちゃんも言ってた。“モンジェネより格好良い”ってさ」
「あはは! 確かにそうかもしれません」

 先生の言葉に笑いながら同意を示せば、昼神先生は「そう?」と首を捻っていた。それにしても福郎選手、髪の毛ふわふわだったなぁ。昼神先生も髪の毛ふわふわだし、もしかして天パの家系なんだろうか。

「……私、先生の髪の毛もふりたいです」
「えっ、俺? 急にどうして」
「福郎選手も昼神先生も髪の毛ふわふわですよね」
「あー、でも母と姉は違うよ」
「そうなんだ?」
「羨ましいくらいの直毛」
「へぇ! 直毛な昼神先生……見てみたいかもです」
「そしたらもふれないよ? いいの?」

 それはちょっと、悩んじゃうなぁ。

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