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しんしんと降る縁

 試合会場から出た先、私たちを待ち構えていたのは空から降り続ける雪。このまま降り続けたら朝には積もるかもしれないなぁと空を見上げ思う。はぁっと吐く息は黒く染まった夜空に微かな白を滲ませる。

「みょうじさんのこともふりたい」
「えっ!?」
「その服、あったかそう」
「あ、あぁ……服か、」

 昼神先生の言葉に目を見開いていれば、言葉の種を明かされ胸を撫でおろす。昼神先生の言葉のおかげで体も温まったし、ちょうど良かったと思おう。そんな風にぐっと冷え込んだ気温に対して自分を励ましていると「帰り、なんか食べて帰ろっか」という言葉が降って来た。

「いんですか!? やった!」
「何が食べたい?」
「んー、昼神先生は何が好きですか?」
「俺? 俺じゃなくてみょうじさんが好きな物食べに行こうよ」
「私は昼神先生が食べたい物が食べたいです!」
「そう? それって――」

 それって、と言った後目線を私と同じくらいの高さまで下ろし「俺のことが好きってことで良い?」とぶっ込まれた。……まさかこんな確信めいた言葉を放たれるだなんて。予想していなかった爆弾は私の思考を容易く真っ白に染め上げる。

「な、なっ……」
「あはは! ごめん、言葉が変だった。“俺の好きな物が好き”ってことで良い?」
「〜っ! 前から思ってましたけど昼神先生ってめちゃくちゃ意地悪いですよね!?」
「そう? そんなこと誰からも言われたことないけどな」
「嘘だ! 絶対嘘だ!!」

 からかわれたのだと知り、途端に上昇する血圧。悔しくて悔しくて、堪らず先生の腕を叩けば「ごめんって!」と笑いながらその手を掴まれてしまった。しかもその手をいつまで経っても離してくれないし、そのまま「何がいっかなぁ。俺が好きなのは具が大きいシュウマイなんだけど、ここら辺に良いお店あるかなぁ」なんて会話を進めてみせる。抵抗の意味を込めて手を振っても、昼神先生の手が離れることはない。むしろ振れば振るほど力が強くなってゆく。

「ひ、昼神先生……」
「あれ、みょうじさん顔赤いよ? 大丈夫?」
「せ、先生が手を離してくれないからでしょ!」
「ごめん、反応が可愛くてつい」
「か、かわっ……先生、やっぱりチャラい」
「チャラいとは心外だなぁ。一途だってこと証明する為にも、もう1回手でも繋いでみる?」

 パッと離された手を胸元に手繰り寄せ、キャパオーバーの出来事に半分泣きそうになっていれば昼神先生は怒涛の攻撃を仕掛けてくる。もう1度掴まれそうになった手を体ごと捩り「意味が分かりませんっ」と言い返せば「そんな風に拒否られるとちょっとショックだなぁ」と萎んだ声で呟かれてしまう。

「ごめん、そんなに嫌だったとは思わなくて」
「ち、違いますっ! 嫌じゃないです!」
「ほんと? じゃあ手繋ぐ?」
「それは……嫌じゃないけどだめです……」

 あはは、なにそれ――そんな風に笑う昼神先生の顔に曇りなんて一切なく。さっきの萎んだ声はどこから出たんだと思うけれど、そんなこと言いでもしたら何倍にもして返されそうなのでぎゅっと唇を引き結ぶ。

「それにしてもだいぶ寒くなったね」
「……そうですね。これからもっともっと寒くなるんですかね」
「雪の中でユキのこと散歩させたら見えなくなりそうだね」
「あはは! 私も同じこと思いました」
「……まじで?」

 ちょっと。なんでそんな嫌そうなんですか――そんな気持ちを込めてジト目を向ければ昼神先生も声をあげて笑う。雪の降る中こうして笑い声をあげる私たちは、周りから見たら仲睦まじいカップルに見えてるのだろうか。……手、繋いだままだったらきっとそんなカップルに見えていたんだろうな。

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