東峰旭



「お疲れ」
「そっちこそ。予選一次突破おめでとう」
「おぉ。みょうじも応援ありがとな」

 対戦相手だった強面選手や長身の選手の話題で盛り上がりながら歩く帰宅路。バイト終わりのこの道、振り返ってみれば東峰と結構一緒だった気がする。背が高くて強面のクセに、背が丸まってるせいで全く怖いと思えない。――というか、東峰旭という人物を良く知っているからそう思うのかもしれない。

「澤村、格好良かったね」
「おう。大地の仲間を鼓舞する感じはかっけぇ……え!? カッコえっ?」
「ははっ。私、澤村のこと好きなんだ」
「……えっ? えっ、えぇっ!?」

 サラリと告げた告白を、受け止めきれず何度も絶叫する東峰。ちょっとウルサイので腕にパンチをお見舞いすればようやく黙ってくれた。潔子の時よりは自信持って言えるけど、それでも恥ずかしいモンは恥ずかしい。

「へぇ……そっか。そうかぁ」
「そのしみじみとしたカンジやめて」

 東峰と話してると、どうしてもおじいちゃんを思い出すんだよな。と思わずため息が漏れ出る。一応東峰も同い年の男子で、同じような青春を送る可能性を秘めた男子高校生なんですけども。

「大地かぁ。まぁでも好きになるの、分かるよ」
「うん」
「だってすげぇ格好良いし、頼りになるし」
「告白するかは迷ってるんだけどね」
「えっなんで?」

 目を見開いた東峰に「関係が壊れるのもやっぱ怖いじゃん」とありがちな悩みを告げれば「そっかぁ」とそれにも頷いてくれる。

「バレー部がおかしくなっちゃうんじゃないかって悩みもあったんだけど」
「それは大丈夫だ」
「ふふっ。潔子も言ってくれた」
「おう」
「ただ、今みたいにバレー部のみんなとワイワイするのも好きだから。誰か1人を好きって言っちゃったら、それが壊れる可能性だってあるでしょ?」
「そうだなぁ。それも有り得るなぁ」
「だから。ちょっと悩んでる」

 うーん、と顎髭に手を当て悩ませる東峰の隣を数歩あるいた時「まぁ大丈夫だべ?」とハテナを浮かべながら言われた。大丈夫だべ? とは? と顔だけでハテナを返せば、東峰はそのハテナを空を見上げて打ち上げた。

「みょうじの不安も分かるけど、最終的にはみょうじが決めることだし」
「まぁ、」
「それに俺はどっちに転んでもみょうじとも大地とも仲良くしたい」

 最後の言葉だけはしっかりと言い切ってみせる東峰。どう大丈夫なのかはイマイチ分からなかったけど、とにかく。東峰は私と友達を続けてくれるらしい。それは、なにをどう差し引いても嬉しいことだ。
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