白状

「お邪魔しまーす……」
「ドーゾ。ちょっと散らかってるけど」

 コンビニの袋がガサリと音を立てるのと同じタイミングで照明が部屋を照らす。…散らかってるって、どこが……? 一静の家、滅茶苦茶お洒落。これで散らかってるって言うんなら、私の部屋に来た時絶対呆れてたでしょ。

「予想通りのお洒落さ……」
「そう? 学生だし家具とかにあんまりこだわり持ててねーけど」
「ちぃちゃんがね、山田が洋服とか脱ぎっぱなしって怒ってた」
「あー、想像出来るわ」
「一静は全然そんなことないね? 本棚も綺麗に整理整頓されてるし」
「好きなだけ見ていいぞ。そこにエロ本はねーし」
「あっ、やっぱりデジタル派だ?」
「あー、そういうことね」

 家に上がってぐるりと一静の部屋を堪能し、台所に居る一静のもとへと戻り、一静の手伝いをする。そうして2人でテレビ前のソファに移動し、一静がDVDを探す。その背中に向かって、さっきまで抱えていたモヤモヤを打ち明ける。

「アダルトビデオとか見るの?」
「うわお、ストレート」
「いや別に見るのは自由だから良いんだけど、」
「あー……、まぁ……てか、彼女にこういうの打ち明けんの超恥ずいね」
「一静にもそういう欲ってあるんでしょ?」
「う、うん。まぁ俺も仏ではないからね」
「私も。私もそういう欲あるよ。でもね……、」

 1歩踏み出したいけど、その勇気がまだ出ない。こんな臆病な私と一緒に歩むのは、一静にとって苦痛なんじゃないか。そういう不安も押し寄せてきて、その先を言うのが怖い。

「なまえー」
「ふぐっ!」

 俯いていた顔の両頬を一静の指が摘まむ。そうして無理矢理合わせられた顔はさっきとは打って変わって拗ねた表情を浮かべている。

「さっきも言ったろ? 取って喰ったりしねぇって」
「で、でも……」
「彼女家に呼んだから事に及びますって、そこまで俺性欲魔人じゃねぇ」
「せ、せいよくまじん……」
「それにさ、」

 両頬を摘まんでいる手が離れ、私の背中にまわり、ぎゅっと包み込まれる。座った状態で抱き締められると一静のくるんくるんの髪の毛が頬に当たって気持ち良い。

「俺はこうやってなまえを抱き締めれるだけでも幸せだし、したい時はキスは出来るし」
「っん、」

 髪の毛が離れ、代わりに一静の唇が頬に当たる。ちらりと一静を見やると流れで軽く攫われる私の唇。

「俺は現状コレで満足出来んだわ」
「……で、も、今まで付き合ってきた人とはこれ以上のことだって、」
「関係ねーよ。俺が今付き合ってんのはなまえだし」
「い、一静はこれ以上のこと望んでないの?」
「望んでないって言ったら滅茶苦茶嘘になるけど。それは別に今じゃなくて良い」

 一静の体が私に傾き、ソファと一静の間で挟まれる。近すぎる距離感に心臓がバクバクと脈打つのが分かる。

「い、いっせい」
「これから先ずっと一緒に居るんだしさ。慌てずゆっくり行こう」
「ごめんなさい……。一静に我慢させることになるかも……」
「我慢は別にしてねぇよ」
「ふっ、んっ」

 暫く唇の自由を奪われ、呼吸の為に離れた顔を見上げるととても楽しそうな顔をした一静が居て、一静の言っている言葉もあながち嘘ではないのだと実感する。

 今日はまだ少し怖いけど、それでも、いつかは。

「っ!」
「お返し。……さ、DVD観よう」
「……なまえってそういう必殺技持ってるよな」
「うふふ。一静にとっては一撃必殺みたいだね?」
「……悔しいけど。敵いません」

 お返しというよりかは、お礼の意味を込めて私からいつも一静にしてもらってるようなキスを贈ると、一静の顔がだらしなく緩む。今、一静をそういう顔に出来るのは私だけなんだと思うと、得も言われぬ満足感が私を包む。

「エロ本とか見るの、頻繁には嫌だけど、たまになら許すから」
「……公認されると見にくいけどな」
「性欲魔人になられるよりかはムッツリスマートマンのが良いもん」
「おい、性欲魔人も使いまわすつもりだろ?」
「えー、どうだろ? 一静次第?」
「スマートマンが可愛く思えてきた」

 初めては一静にあげるから。それだけは決定事項。だから、もうちょっとだけ。待ってて欲しい。……さっき、確認したら上下揃ってなかったし。今日はごめんね、一静。

「一静のこと、大好き」
「俺も。色々と考えてくれるなまえちゃんが大好きだよ」

 甘い言葉を贈り合って眺める映画は今まで行ったどの映画デートよりもドキドキした。

「こんなグロいシーン、原作にあったっけ!?」
「さぁ?」
「ぎゃっ!? ちょ、聞いてないぃぃ〜!」

 それが思わぬ形で見せられるホラー映画だったとしても。いつもより近い距離に一静が居るから。これだけくっ付いていられるのなら、家でする映画鑑賞も悪くないかも。

「なまえちょっと力強い」
「あ、ごめっ、ぎゃー!」
「うぐっ」
「あ、い、一静!」

 家=そういう雰囲気と構えていた数十分前の私、安心して。相手は彼氏として不足ないくらいの一静だから。自分が怖がってるようなこと、一静はしないよ。

「これもう止めない!?」
「えー。なまえがこんだけ引っ付いてくれんのに?」
「だ、だって……!」
「あ、観て」
「え……あー! やっ、血が……!」
「ハハハ。なまえおもしれー」
「い、一静の意地悪っ!」

……しない、よ?




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