マリンブルーに濡れる嘘

「ただいま……」

 私よりも鈴音の帰宅が遅いのはいつものこと。それに、ちょっとくらい遅れたとしても、練習が長引いたと言えば何も言われない。こういう時、部活やってて良かったって思う。……まぁ、部活をしていなかったら、こんなことにもなっていないんだけれど。

 いつもは居間でくつろぎながら鈴音の帰宅を迎え入れるけれど、そこはやっぱりいつも通りには出来なくて。でも、もう大丈夫。鈴音と徹くんの為に、うんと強くならなくちゃ。

「よしっ」

 ゴミ箱に最後の一切れを放り、階段を上って来た鈴音を「おかえり!」と大きめの声で出迎えた。……あぁ、鈴音。目が赤い。鼻だってグズグズ言ってる。ごめんね、鈴音。不甲斐ないお姉ちゃんで、ずっとずっとごめんね。

「琴音……私……、」
「ちょっと来て」

 自室に招き入れようと思ったけど、すぐさまポップコーン状態のゴミ箱を思い出して鈴音の部屋へと方向転換。鈴音は成すすべなく私の後をついて来ている。……なんだか生まれて初めてお姉ちゃんっぽいこと出来てる気がする。

「さっきはごめん! 徹くんと鈴音があまりにも良い雰囲気だったから、邪魔しちゃいけないかなと思って!」
「えっ、で、でも……」
「タイミング悪いよねぇ。ちょうど睫毛が入って擦ってる時に見つかっちゃうんだもん」

 私ってドジだよねぇ〜! と努めて明るく言ってみても、鈴音の目線は戸惑ったまま。鈴音はずっと前から私の気持ちに気付いてる。だから今更こんな嘘吐いた所で、ただの猿芝居だ。

「ほんとはね、徹くんのこといいなぁって思ってた。でも、今はそうでもないの。……これは本当だよ? だから、本気で鈴音のこと応援してる!」
「琴音……、」
「てか! いつから徹くんのこと好きだったの? 私全然気付かなかった!」

 これからはアシスト頑張るから! とか部活中の徹くんってば――……とか。そういう言葉をワザと積極的に話す。今は下手くそでも、そのうち本心になってくれるハズだから。いつかきっと、心の底から2人のこと応援出来る時が来るハズだから。

 だから今だけは、潤みそうになる気持ちを許して。

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