だって愛だからさ

 徹くんの元気がない。どれだけ苦しいことがあっても、教室内に持ち込むことは絶対にしない徹くんが。明らかにどんよりと表情を曇らせている。

「大丈夫?」
「ん? ヘーキ……じゃないな」
「徹くん……」

 大丈夫? と問いかけて、大丈夫じゃないなんて返事、徹くんは絶対にしてこなかった。そんな徹くんが繕うことすら出来ないなんて。……鈴音のことだと分かってしまう心をまだ素直に褒めてあげられない。

「俺のせいで鈴音が部活で孤立しちゃうかも……」
「そういえば鈴音、口にはしないけど、部活のこと悩んでるみたいだった」
「ハァ……どうしよう……俺が原因だ……」

 机に突っ伏す徹くんは本当に弱り切っている。そういう姿を見て、放っておけないって思ってしまうのは、徹くんが大切な人だから。それと、もう1つ。

「徹くん、鈴音は誰かのせいになんてしないよ」
「琴音、」
「徹くんだって知ってるでしょ?」

 鈴音が強い人であることは、誰がなんといおうと胸を張って言える。たとえ鈴音が違うと言ったとしても、私はそこだけは曲げない。だって、それが私の誇りだから。

「……似てるね」
「ん?」
「……んーん。これはどっちにも失礼だ」
「なんのこと?」
「ううん、なんでもない。ありがとう、琴音」

 ねぇ、徹くん。徹くんは私の気持ち、知ってるよね? そして、その気持ちを振ったんだよね? だったらお願い。こうして簡単に頭を撫でるなんてこと、しないで。やっぱり好きだって簡単に言えそうになってしまう。

「徹くん、これからはこういうことするの、やめて?」
「こういうこと?」
「これ。こういうの、勘違いしちゃうから。お願い」
「……あ。ごめんなさい」
「ううん。私こそ勝手言ってごめん」

 気持ちを振り絞って告げた言葉を素直に受け止め、眉を下げる徹くんはなんだか幼い少年のようだ。普段あれだけ捻くれた性格でコートを管理しているというのに、こういうことだけは素直なんだなぁ。……なんだか可愛いな。

「初めて付き合った彼女にもそういうこと言われたっけな」
「へっ?」
「“勘違いさせるようなことばかりするな”って。いやぁアレは徹少年には響いたね」
「な、なんかゴメンね……?」
「ううん。おかげで気分転換出来たよ。ありがとう、琴音」
「……うん!」

 色んな感情をまだ整理出来てないけど、徹くんが笑ってくれるなら、それで良いやって思えるよ。

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