人生何回目?

 ハロウィンが終わって、街はもう既にクリスマス一色。気が早いというか、なんというか。もうそんな季節なんだなぁ。切り替えが早い。まぁ私も他人の事いえないんだけど。そんな事をクリスマスカラーに差し替わった雑貨屋さんを見渡しながら思っていた。

「こういう所1人じゃ入りたくねぇから、助かる」
「確かに、松川くんってこういう所とは縁遠そう」
「言いますねぇ、みょうじサン」
「あっ、ごめん。ついうっかり」
「事実だから言い返せないのがこれまた辛い」
「はは、そんなに落ち込まないで? てかここには何か買いに来たの? 誰かへのプレゼント?」

 思った事を口にして、ハッとしてしまう。クリスマス、プレゼント。……雑貨屋さん。これだけのワードを並べられて思い浮かぶのは、好きな人、とか彼女とか、そういう類のモノだ。
 松川くんの話だと彼女は居ないっぽいし、そうなると……千絵さん。……良いなぁ、千絵さん。山田からも松川くんからも好意を寄せられるなんて。やっぱり可愛いは正義だ。
 そう考えると今こうやって松川くんとここに居る事に虚しさを感じてしまう。私はいつでも誰かの引き立て役なんだな。

「プレゼントっちゃ、プレゼントかな」
「それって……やっぱり千絵さん?」
「え? 田所? 違う違う。バレー部」
「へっ? バレー部? あ、マネージャーさんとか?」

 ちょっとだけ安心する。良かった、日ごろの感謝を込めてとか、そういうヤツか。

「いや、俺等の部活、マネージャー居ねぇんだ」
「え? ごめん、どういうこと?」
「前に言った残念イケメンがさ、クリスマスを前に彼女に振られたらしく、“そんな可哀想な及川さんを慰めて会”を開催するんだとよ」
「えぇ!? なにソレ? あっはは、おっかしい!」
「だろ? 何だソレって感じだよな。俺等もスルーする流れだったのにアイツ日に日にうるさくなってくから、こっちが根負け。で、今度その会が開催されちまうって訳。なんで俺等が誕生日でもないアイツに貢がねぇといけねんだろうな」

 ここに来た経緯を知らされて、さっきまでモヤモヤしていた自分がバカらしくなってしまった。だって、可笑しすぎる。及川くんって人、最高。

「あー、おっかしい。私、及川くんに1回で良いから会いたいなぁ」
「え。ダメダメ」
「え、どうして?」
「アイツ、恋愛脳だから」
「?」
「そういう訳で何か買わないといけないんだけど、どういうのが良いと思う?」

 松川くんから何が良いか尋ねられて一緒に店舗を見渡す。てか、相手が男の人なら、そこまでこだわらなくても良いんじゃ? そう思いはしたものの、松川くん曰く、「アイツの女子力半端ねぇから」だそうだ。その言葉にまた笑って、色々と見て、結局私達が選んだのはスキンケアのセット。
 女子力半端ないとは言ってたけど、これはもはや女子なのでは? そう思いはしたけれど、「アイツにピッタリだろ」らしい。そうなんだ? この化粧水と乳液とボディクリームが?? めっちゃボディクリーム良い匂いなんだけど。私が欲しいくらい。

「今日はありがとな」
「いえいえ。私も色んなの見れて楽しかった。及川くん、傷癒えると良いね」
「はは、だと良いけど」

 そう言って笑う松川くんの顔は、歳相応の顔つきをしてて、なんだか新鮮だった。



「あ、私この駅で降りるから。小説、読み終わったら連絡するね」
「おう。俺も帰って早速読むわ」

 電車に乗って私の最寄り駅の方が先に来る。松川くんとはここでお別れだ。そう思って、席を立つと松川くんが私を見上げる。松川くんを見下ろすなんて、なんか不思議。髪の毛、くるんくるんだなぁ。そんな事を思っていると、松川くんがおもむろに立ち上がる。あ、一気に抜かされちゃった。せっかく優越感に浸ってたのに。てかなんで立ち上がるの? 不思議そうな顔をする私の背中を押しながら出入り口へと向かう松川くん。ん? どうして? 訳が分からないまま松川くんに背中を押され、そのまま2人して私の最寄駅に降り立つ。えぇ、電車行っちゃったよ。

「松川くん?」
「あら。切れちゃった」
「え?」
「あぁ、ごめん。今噂の及川から電話来てたからさ、出ようと思って。そしたら切れた」
「なるほど。急に松川くんも降りるからビックリしたよ」
「悪い悪い」
「次の電車まで待つ?」
「んー、どうせなら歩こうかな。最近体動かしてないし」
「まじか。凄いねぇ。寒いのに」
「だろ? これでも元スポーツマンなもんで」
「あれ? スマートマンじゃなかった?」
「いやそのあだ名はナシでしょ」
「えぇ? 結構気に入ってるんだけどなぁ」
「それならまだ“まっかわ”のがマシだわ」
「松川くんって皆からそう呼ばれてるの?」
「いや、松川呼びが多いな。“まっつん”って及川が言うくらいか」
「へぇ、そうなんだ?」
「なに? みょうじさん、俺の事新しいあだ名で呼んでくれんの?」
「じゃあ、スマートマン?」
「はい却下〜」
「えぇ〜、なんで?」

 歩く、と言った松川くんの言葉通り、私達は改札を抜けて会話を交わしながら駅から遠ざかっていく。そこではたと気が付いた。話に夢中で忘れていたけれど、私、自分の家に向かってる。

「松川くん!」
「ん?」
「このままだと、松川くんまで私の家に連れて行っちゃう!」
「あぁ、そうなるな」
「ここで! バイバイしよ!」
「なんで?」
「なんでって……。松川くん、私の家まで来ちゃったらそっから自分の家まで帰んなきゃじゃん」
「うん。でも歩きたい気分だし。丁度良いよ」
「いやでも、」
「みょうじさんが俺に家知られるのが嫌とかなら、このまま帰るけど」
「別にそういうんじゃないけどっ、」
「じゃあ俺にとっても丁度良いし、このまま歩こう」
「うぅ……、」
「大丈夫だって。みょうじさんの家が分かった所でストーカーみたいな事しないし、自分の家にも帰れるよ。だから安心して?」
「……やっぱりあだ名、スマートマンじゃダメ?」
「ダメ」

 君って本当は人生何回かやってきてるでしょ?




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