全治2、3日

「千絵がさ、こないだのメンバーで遊ぶのすげぇ楽しかったって! また遊ぼうって言ってた!」
「そうなんだ。良かったね」
「おう! みょうじ、また次があったら行くだろ?」
「うん、まぁ。都合が合えば」
「?? どうした? 何かあったのか?」

 あれから4人で合流した後、松川くんの体調が悪いって事にしてたから、その日は解散って事になった。山田と千絵さんは地元が一緒だからそのまま2人で帰って、私と松川くんはそれぞれ別の電車に乗って。私と千絵さんはそんなに話していないのに、楽しかったのか。それは良かった。まぁ、私も楽しくないって訳じゃ無かったから、それは別に、良いんだけれど。

「山田ってさぁ、千絵さんの事。好きでしょ?」
「なっ!?!?!?」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする山田。いやいや、俺の心が読めるのか!? みたいな顔しないで。心は読めなくても顔が読めるんだよ。山田は。もしかして松川くんが見てた私の表情もこんな感じだったのかな。だとしたらやっぱり恥ずかしいな。

「な、なななんで?」
「いや分かり易いから、アンタ。あれでバレないって思ってる方が凄い」
「まじか……! なぁ、それって千絵にもバレてると思うか?」
「さぁ? どうだろう?」

 千絵さんはイマイチ読めない。というかそこまで千絵さんと触れ合ってないし。可愛いって事は確かだけど。

「もしバレてたとして、なんでアイツ、俺と遊ぶってなった時に友達連れてくるなんて言ったんだろ?」
「さぁ? そればっかりは、分かんないや」
「“男友達連れて行って良い?”とか言うから、俺も対抗するようにみょうじの事連れて行くって言っちまったけどさぁ……なぁ、あれってどういう人選だったんだ?」
「……私に、聞かないでよ」

 山田は松川くんと違って、全然スマートじゃない。人の気持ちに全然敏くない。そんな山田が好きだと思っていたんだけど。……なんか複雑な気持ちは残ってるんだけど、あの日、失恋が確定した日から数日経った今は山田が千絵さんの事を好きって事に、そこまで尾を引いていない自分が居て、結構意外だった。案外、そこまで山田の事を好きじゃなかったのかもしれない。それよりも今は早くこの小説を読み進めたい。

「千絵って松川くんの事好きなのかなぁ」
「……多分、違う、でしょ」
「かな? でもじゃあなんで松川くんの事誘ったんだ?」
「大体その理屈だと、何で山田は私の事誘ったのって話でしょ?」
「あぁ! 確かに! 俺とみょうじは友達だもんな! 千絵も松川くんの事、友達として誘ったってパターンも捨てきれねぇな!」

 山田の言葉に小さな針が刺さるのと、同じ、いやそれ以上にホっとする自分が居て、驚く。何で千絵さんが松川くんの事そういう対象として見てないって思いたくなるんだろう。松川くんにとってはそっちの方が嬉しい事だろうに。だって、松川くん、千絵さんの事結構良いって思ってるって言ってたし。そこまで考えて、心が暗くなる。不思議だ。なんで、この思考の方が心が重くなるんだろう。変なの。……あぁ、あれか。優しくしてくれた松川くんの事ちょっと良いなって思ってるんだ、私。はは、案外チョロイんだな。私って。

「てかみょうじ。お前何の本読んでんだ?」
「好きな作家さんの小説」
「へぇ? みょうじって本好きだったんだな!」
「……まぁね」

 私今まで結構山田の隣の席で本開いてたけど。まぁ、良いや。別に。

―俺後もうちょっとでこないだの小説読み終わる

 ポケットの中でスマホが振動し、画面を見ると松川くんからのラインで。まじか、読むの早いって言ってたけど、本当に早いんだ。

―私はあともう少し。多分今週中には読み終わると思うけど、読み終わったら連絡するね。私が松川くんの所に行くから

 そう文字を打つと直ぐに既読が付く。そして直ぐに後悔した。

―連絡くれたら俺が行くよ

 そう言ってくれることが分かっていたから。私が待たせる側なのにわざわざ来て貰うなんて、申し訳ない。私が行けば帰り道だし、丁度良いのに。松川くんに来て貰う事になると、松川くんの家と反対方向になっちゃう。“連絡するね”で終わらせれば良かった。

―ううん、私が行くよ
―俺時々バレー部に顔出してるからさ。もしみょうじさんに来て貰っても会えないかもだし。だから、俺が行って良い?

 私の食い下がりなんか簡単に躱す松川くん。まじでスマートマン。そしてこういう言い方をすれば引き下がるしか無い。さすが、松川くん。本当は何歳なんだろう。

―ごめんね、ありがとう
―いえいえ。じゃあ連絡待ってます

「なぁ、みょうじ」
「あ、ごめん。今忙しい」
「えぇ、さっきまで会話してたじゃんか」
「恋愛相談ならさっき乗った」
「なぁ、また今度4人で遊ぼうな?」
「うん。良いよ」
「やった! じゃあ千絵にも言っとくな!」
「うん」

 山田の弾む声が意識の向こうでしている。楽しそうで何よりだ。



「みょうじさん」
「松川くん! ごめんね、わざわざ来て貰って……!」
「いやいや。今回のも面白かったよ」
「ほんと? 楽しみだなぁ。あ、私のも。面白いから、オススメ」
「まじか。早速帰って読むわ」

 あれから休み時間や通学時間を使って読み進めた本はサクサクと進み、金曜日の今日には読破してしまった。早いペースだったのはこの本が面白いって事もあるけど、松川くんに読んでもらいたいって気持ちがあったからだろうな。

「みょうじさん、今日はこのまま帰るの?」
「うん。そのつもりだよ。どうかした?」
「もしこの後時間があるならさ、ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「うん、良いよ。今日は何も無いし」
「そう、良かった」

 そう言って歩き出す松川くんはあの日の様に左側を選んで歩く。

「今日も結構寒いね」
「だな」
「松川くんって、本当に高校生なんだね」
「なんで?」
「いやだって制服着てるから」
「まぁコスプレでは無いよね」
「あはは! ハロウィン終わったしね」
「てかハロウィンだったとしてもこんな似あわねぇ仮装はしねぇな」
「自分で言うのは反則でしょ?」
「笑うみょうじさんも反則でしょ」
「あはは、ごめんごめん!」

 松川くんの隣はすっごく楽しい。




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