important day for us.
「今日の放課後、木兎さんにプレゼント渡すんだよね?」
「うん。部活始める前に渡す予定だよ」

 ようやく巡ってきた本日、9月20日。お昼休みに屋上で練習をしていると尾長くんから尋ねられ、今日の予定を答える。「やっとか〜」と開放感を噛み締めるように吐き出すその言葉には尾長くんの苦労が詰まっていて、思わず苦笑してしまう。

「ここ最近の木兎先輩、凄かったもんね……」
「今週に入ってなんかは特に。帰り仕度してる時なんかソワソワした目でこっち見てくるし、今日なんて朝練終わりにみんなの鞄の中覗いてくるし。期待した目を向けられるの、心臓に悪かった……」
「男子はあんまりプレゼントとか贈りあわないもんね」
「うん。先輩達はスルースキル持ってるけど、俺後輩だし。心労半端なかったんだよね。だから、マネさん達がプレセント渡すの、俺の気持ちも救われるよ」
「そっかぁ。尾長くんって苦労人だね。いつもありがとう」
「……沁みるな〜。なんにしても木兎さん、喜んでくれると良いね」
「だね」

 なんだかんだ言ってもみんな木兎先輩のこと、ちゃんと慕ってるんだ。放課後、木兎先輩はどんな顔するかな。……楽しみ。



「おう! お疲れ! なまえちゃん!」

 終礼後急ぎ足で向かった体育館。何故か既に木兎先輩が居て、私を見るなり満面の笑みで出迎えをしてみせる。

「先輩、早いですね……!」
「おう! 誕生日だからな!」
「あっ、な、なるほど……?」

 しまった。木兎先輩よりも先に来て色々と仕込むつもりだったのに。誕生日だから早く来た! という謎の理由によって、その計画が阻まれてしまう。

「ん? どした? そんなに固まって。あ、てか聞いてくれよ! 俺、今日クラスのやつらから沢山お菓子貰っちまってさー! 食いきれるかな〜っ! って、既にもう何個か食ったんだけどな!」

 自らの宣伝効果もあるのか、先輩の顔の広さもあってか、今日の主役である先輩は既に色んな人からお祝いをしてもらって上機嫌だ。楽しそうな表情を浮かべる先輩に私もつられて楽しくなるけれど、内心、ここからどうしようかと頭をフル回転させていた。

「木兎さん。ちょっと良いですか」
「ん? どしたあかーし」

 そんな風に頭をグルグルとさせていると、入り口から顔を覗かせた赤葦先輩が木兎先輩を呼びつける。

「今度の練習試合について、監督が職員室に来て欲しいそうです」
「ん、そうか。分かった!」
「木兎さんだけじゃ心配なので、俺も一緒に行きます」
「うん! よろしく頼む! 俺、難しい話無理だから!」
「……でしょうね」

 赤葦先輩に呼ばれて、体育館を出て行く木兎先輩。良かった……。その間に準備出来る。そうして胸を撫で下ろしていると、赤葦先輩に目線で合図を送られ、そのまま木兎先輩と一緒に歩いてゆく。赤葦先輩って、ヒーローみたいだなぁ。私が困ってるとこうやって助けてくれる。どこまで格好良いんだろう。体育館を後にする先輩の後ろ姿、惚れ惚れしちゃうな。

「……えっ、」

 先輩の背中をうっとりとした表情で見つめていると、赤葦先輩のTシャツに目が留まり、思わず声が出る。

「お? あかーし! 新しいTシャツか? セッター犬? 可愛いのか、ソレ?」
「良いんです。俺に似てるんで」
「似てる? あー、確かに! 赤葦に似てるかも!」
「ほら、早く行きますよ」
「おう!」

 セッター犬Tシャツ、先輩買ったんだ……。やっぱりあの犬、先輩に似てる。

「ふふっ」

 先輩のフワフワした髪と、Tシャツに描かれた犬がリンクしてて、思わず笑みが零れてしまう。……さて、笑ってばっかりじゃいけない。先輩たちが行ってる間に準備を終わらせねば。



「せっかく職員室行ったのに、監督居なかったなー」
「急用でも出来たんですかね」
「そうかもな。んじゃ、気を取り直して今日も元気に、「ハッピーバースデー!!」うぉ!? な、なんだ??」

 赤葦先輩が木兎先輩をおびき寄せてくれている間に、後からやって来た先輩達と準備を終わらせ2人が戻ってくるのを待つ。そしてガッカリとした声から心機一転、閉じていた目をカッと開いて体育館へと1歩踏み入れた瞬間。木兎先輩をクラッカーが出迎えた。

「木兎のお望み通りパーティー! とまではいかないけど。お祝い!」
「えっ、俺さっきここ居た時、こんな飾りつけなかったぞ?」
「だって〜、木兎来るの早過ぎるんだもん。赤葦が木兎連れ出してるって聞いたから、慌てて飾りつけしたんだから〜」
「そうだったのか……!」
「あの木兎先輩、これ」

 ラッピングされた袋を差し出すと、「開けても良いか!?」とキラキラ輝きだす木兎先輩の瞳。「もちろんです!」と返事をすれば木兎先輩が意外にも丁寧にラッピングを剥がしてゆく。木兎先輩、喜んでくれるかな。

「わっ! サポーター! それにタオルも! 全部俺が好きなブランドじゃん! えっ! しかも全部今使ってるのがダメになりそうなヤツばっかだ! これ……なまえちゃんが?」
「赤葦先輩にも選ぶの手伝ってもらったんですけど。マネージャー3人からです!」
「うっわ……すっげぇ嬉しい! まじで! 本当にありがとうな! 俺、大事に使うから!」
「言ったからな、木兎。お前、サポーターとかすぐダメにすんだから」
「いいや! これはマネちゃんずの愛があるんだから、今まで以上に大切に扱うぞ! 見てろ小見やん!」
「へいへい」
「あっ、でも大切に扱うんだったら、使わない方が良いのか? ……いや、でも貰ったからには使いたいな……。そしたら消耗しちまうしな……。ん……? どうすんのが正解なんだ……?」
「おうおう、まーた木兎がバカみたいな考えことしてらぁ」
「なんだと! 俺にとっては一大事なんだぞ! 木葉も貰ってみろ! ぜってぇ悩むんだからな!」
「否定出来ねぇのがなんか悔しいわ」
「ほんと単細胞〜」
「こういう所で全力で悩むの、マジで“ザ・木兎”って感じだよね」
「雀田、それは俺のこと褒めてるのか……?」
「さぁ? どうだろう?」

 みんなから口々に決して素直ではないお祝いの言葉をもらって少しばかり混乱気味の木兎先輩。だけど、こういう楽しい時間はいつか、この瞬間を遠い昔のこととして思い返すようになった時、“楽しかった”と言える時間となるに違いない。

「先輩、壊れるまで使って下さい。もし壊れてしまっても、私達がまた先輩にプレゼントするので」
「ほんとか! じゃあ! 大切に、使えなくなるまで、ずっと使わせてもらうな! みんなも飾りつけとか、色々本当にありがとう! 俺、これだけで春高優勝出来そうな気がする! ってことで今日も元気に部活始めるぞ〜っ!!」

 シャア! 俺、最強〜!!
 そんな言葉を発しながらコートへと向かう木兎先輩にみんなが笑ってあとを追う。梟谷バレー部。1番新人の私が言うのも変かもだけど、“良いチームだ”って胸を張って言える。

「喜んでくれて良かったね」
「赤葦先輩。さっき、木兎先輩を連れ出してくれてありがとうございました。あの時はどうなることかと思いました」
「誕生日だから浮かれて早く来そうな予感がして。まさかあんなに早くから居るとは思わなかったけど」
「私もビックリしました……」
「木兎さんは読めない人だけど、あの底なしの元気の良さがこのチームには必要だからね」
「はい! 私もそう思います! ……あ、先輩」
「ん?」
「セッター犬Tシャツ、似合ってます」
「そう。良かった」

 私の言葉に笑みを返してコートへと向かって行く赤葦先輩。私は梟谷バレー部が大好きだ。それは、赤葦先輩が居るからって理由も大きいけど、何より。このメンバーで過ごす時間が今となっては手放したくない、大切なモノだから。

「なまえちゃーん! どう? 貰ったサポーター! 早速履いてみた!」
「似合ってます!」
「だろー? 俺、格好良いだろ!?」

 赤葦先輩を探して尋ねてきた私を入部希望者だと木兎先輩が勘違いしたことで、私は今ここに居る。だけどあの時、木兎先輩によって入部したことを後悔したことは1度もない。むしろ、木兎先輩の勘違いには感謝している。

「はい! とっても、格好良いです!」

 そんな感謝の気持ちを込めてその声に答えると、木兎先輩は二カッとはにかんでみせる。木兎先輩、誕生日おめでとうございます。
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