重なりあう時間 | ナノ
終章





最終話
 長いようで短い全ての旅路に祝福を






全てが終わった。

そう感じたのは、荼吉尼天を倒した後。

すっかり雨も上がり、夕日が辺りを照らしている。

時代も、世界も違うこの場所に再び立てたことは嬉しかった。

十年振りのこの世界は、やはり懐かしい。

故郷に、ようやく帰ってこれたような、そんな感じ。

けれど、私の故郷はもう一つある。

この時空ではない、別の時空にある世界。



その世界の、熊野。



十年も住んでいれば、愛着だってあるし、大切な人だって出来る。

婆様がどこまで私の未来を先読みしていたかは知らない。

その涙の意味も、わからない。

けど、もし婆様が生きていたらなら。

私は婆様に「泣かないで」と言っていただろう。

この十年、いろいろなことがあった。

婆様の話してくれた、あの世界のことと私の役割は、とてもとても重要で。

けれど、それがあったから、私は頑張ってこれた。





生きることが出来た。





でも、私が再びこの地に立つことは、予想もしてなかった。

だって、私は熊野で土に帰ると思っていたのだから。

みんながあちらの世界へ帰るとき、私はどうするのだろう?





このまま、生を受けた地に残るのか。



それとも、大切な人のいる世界へ行くのか。





やっと、あの人と同じ時間を生きられると思ったのに。

ねぇ、あなたは私にどうして欲しい?

なんて、愚問よね。

答えなんか、聞かなくてもわかっているようなものだわ。



あぁ、けれど。



久し振りのこの世界で、僅かな時間でもあなたと共に過ごせるのなら。

それはそれで嬉しいかもしれない。

だって本来なら、あなたは私と同じ時間を過ごすことは出来ないのだから。



「さぁ、オレの姫君。お手をどうぞ?」



そう言って手を差し伸ばしてくるあなた。

私はその手を取って、彼の胸に飛び込む。

ヒノエと一緒なら、私は何も恐れる物などないと思う。



せっかく重なった二つの時間。



それをなかったことにするには、少しだけ、あちらに長くいすぎたみたいだわ。





ねぇ、婆様。

私、あなたがいなければヒノエに──彼らに会えなかったと思う。

そう思うと、凄く怖い。

だからね、私は婆様に感謝するわ。

有川家で引き取ってくれたこと。

あちらの世界について教えてくれたこと。

そして、





私の未来を視てくれたこと。





だって、婆様さえいなければ、二つの時間が重なることはなかったのだもの。



先のことはまだわからない。



だから、



やがてくるその日までは、



この時間を大切にしよう。







重なりあう時間 第一部・完
2007/8/8

 あとがき

 
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