重なりあう時間 | ナノ
運命の上書き編 壱
百肆話
輪郭がぼやける恍惚ここはどこなんだろう?
ぼんやりとした頭でそう思う。
どうして自分がここにいるのかを思い出そうとしても、まるで霞がかかったように記憶が曖昧で。
四肢の全てが周囲と同一化しているような、そんな感覚。
母親の母胎の中、とは言えるはずもない。
それよりも、例えるのなら海だ。
まるで大きな流れに乗るように、ただその流れに身をゆだねる。
ゆらゆら
ゆらゆら
このまま自分はどこまで行くのだろうか。
そもそも、自分とは一体何なのか。
考えることすら億劫で。
そう思ってから、少しだけおかしくなった。
そして、おかしいと思う自分におかしいと思う。
だけど、何がおかしいのかがわからない。
自分?
自分って、何?
私は、ダレ?
わからない
何も
誰も。
考え始めたら、次から次へと疑問が浮かんでは消える。
なぜ?
どうして?
だが、考えてもそれは意味をなさない。
なぜなら、思う先から忘れてしまうから。
意志って、何?
── 汝に、その覚悟があるか?何かが聞こえる。
これは、声?
「……お前を、あの月に帰したくない」どこかで聞いたことのある声。
「貴方はその胸に何を抱えているんですか」貴方は、貴方たちは一体誰?
「神子は貴方を心配しているよ?」神子?
神子って誰?
何を言っているの?
「 」誰かを呼んでいる?
それは、私の名前?
名前って、何?
「お前のためなら、なんだってしてやるよ」あと少しでわかりそうなのに。
わかりたいのに。
何か、
何かきっかけがあれば。
そう思った途端、一色だけが頭をよぎる。
それは、鮮やかな緋色。
この色を、私は知っている。
この色は、確か──
「ヒノエ……?」
その名を呟いた途端、光の洪水がやってくる。
まるで、光に灼かれるのではないかと思うような光量。
そして、途端に戻る四肢の感覚。
重い目蓋を押し上げれば、そこに広がるのは見覚えのある、白。
── ようやく目が覚めたか
── このまま目を覚まさぬのではと思ったが、どうやら杞憂ですんだようだな
── やれ、これで我らの面目は立つか
── 人の子よ、我らがわかるな?
そこにいるのは、確かに見覚えのある人たち。
だが、少なくともその姿を見た記憶は、一度たりとてない。
人間離れした容姿を持つ、四人の人物。
もし、自分の予想が当たっていれば、彼らはきっと──。
「四神?」
恐る恐る尋ねてみる。
── いかにも
返ってきた答えに、思わず叫び出さなかっただけ、自分を褒めてあげたかった。
ここで意識が浮上
2007/7/6