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そうそうに諦めましょう

※王道嫌いの転入生


腐った兄貴がいるというのは、何とも面倒だ。と、僕は思う。
第一そんなにほいほい人が人を好きになることがあってたまるか。
一目惚れでもあるまいし。
こうしろ、ああしろ、と書かれている紙の内容を覚えてきたは良い、が、生憎そこに書かれている事をするはずもない。
とりあえずほんっとーに仕方なく、後が面倒だからヅラとメガネだけはかけている。
が。元から黒髪なのに、ヅラとかなくね?いらなくね?くそバカ兄貴覚えてろよ。
幾ら好きな人を手に入れたいからって、その道具に弟を使うなよ。

「あー…マジ、憂鬱」

でもってヅラは取れたら仕方ないものだ。と、言われていた。と、いう事は。だ。

「おし、それでいこう」

考えをまとめた僕は、学園の無駄にでかい門をのぼりはじめ、るわけもなく、普通に、至って普通に守衛さんに門を開けてもらった。
そんで中に入れば、黒い微笑を浮かべている美人さんがいた。

「はじめまして。君が相楽巧君?」
「そうです。時間に遅れてすみませんでした。兄が家からなかなか出発させてくれなかったもので」
「そう。じゃあ、いこうか」
「よろしくおねがいしまぁす」

嗚呼、かったるい。
兄貴からもらった紙には案内役の人の笑顔を指摘しろ、とかあったが、そんな七面倒なこと誰がやるか。
さて、問題は、いつ盛大にこけて、ヅラをとって、ついでにメガネを大破してしまうか、だ。

「ところで、相楽く―――――!?」

もういいや、と思い、ズサアアアアアッ!!!と、盛大に転ぶ。
うん、足元にあった小さな石に躓いたことにでもしよう。
顔いてェ。ていうか、体いてェ。でもどうやら、うまく行ったようだ。
うまい具合に外れているヅラ、勢いで飛んで割れたメガネを見て、僕は言った。

「うし、成功」

起き上がって、小さくガッツポーズ。
残念ながら兄貴の言う王道転入生のように、族に入ってるわけでも族潰しやってたわけでもない僕は、実は持っていたカバンから、眼鏡ケースを取り出し、赤いフレームのメガネをかける。一気に視界はクリアになった。
不思議なことに兄貴は僕の視力が本当に悪い事を知らない。伊達メガネなんかかけたところで世界がクリアになるわけないのに、度の入ってないメガネを渡された時には一瞬、本気でぶっ殺してやろうかと思った。
まぁでもいつもメガネかけてるわけじゃないしな。

「どうしました?」

何故か固まっている美人さん。名前知らないからそんな表現しかできない。

「………………君の事、気に入っちゃった」

なんだそれ。
さっきまで心底どうでもいい。って感じだったのに、なにそれ。
まぁ確かに僕の容姿は中性的でうんぬん言われるけど。黒髪にメガネ。平凡じゃね?割かし。あ、でも誰かお前はタチに狙われる顔してる!!とか、言ってたよう、な?

「………はぁ、それはどうも?近いですよ?えーと、」

急に近くなったソイツが顔を寄せてきた瞬間、唇をガードした。なんか残念そうな表情してるけど、そんなこと知るか。僕はノーマルです。アブノーマルではありません。

「天原純」
「天原さん」
「名前で呼んでもらえると嬉しいな、巧には」
「…………はぁ」

なんでさっきからにこにこしてんの。理解できない。嗚呼、僕が王道じゃなくても王道を嫌っていても学園は王道、だと。なんて七面倒な。

「…………………純さん、暑苦しいんでとりあえず離れてください。後、僕、他人の恋愛観をとやかく言うつもりはありませんが、限りなくノーマルなんで」
「敬語じゃなくていいよ?」
「それは困ります、とにかく、離れてください。」

あれ?天原って何処かで聞いた気がする。思い出せないけど、まぁいいか。
とりあえず天原、あー、視線が痛い。純さんに離れてもらい、理事長室に案内してもらった。
そんでもって僕は、此処から先の展開を知っているわけだ。食堂で一悶着、なんてことはあってはならない、何がどうあっても阻止しなければいけない。

「純さん。お願いがあるんですけど、きいてもらえます?」

それから僕はとりあえず、約束を取り付けた。だってさぁ、親衛隊があったら滅茶苦茶面倒じゃんか。僕の青春の学園生活をぶっ壊されたらたまんねーわけ。

「食堂に生徒会連中連れてこないでくださいね、間違っても、何があっても。メアド教えるんで何かあったらメールで連絡してください。後、最初に言っておきますけど、貴方のせいで僕に何か面倒なことが来たら、好きになるどころか嫌いになるんで、其れだけは覚えておいてくださいね」
「………………………知って、るの?」

後、敬語は要らないよ。と、にこやかに続けられたけど、そんなこと知るか。生徒会には敬語、美形にも敬語、誰に対しても一応敬語、初対面の奴には特に。あのバカ兄貴のメモに書かれていた『誰にあってもため口で下の名前呼び』なんてことは間違ってもしねぇぞ、僕は。

「何をですか?親衛隊のことですか?親衛隊も貴方がちゃんとしつけてあるなら僕は何も言いませんけど、しつけてないなら人のいるところでは近付いてこないでほしいですね」

だってあなた、副会長でしょう?
笑いながら言えば、何故か赤くなられた。えー、意味不明。ボッ、とか、なにそれどんなん。

「な、んで分かったの、副会長だって」
「あー、当たってたんですか。あのくそバカ兄貴の情報は確かか」
「…………兄貴?」
「気にしないでください。まぁ、ええと、そんだけです。ハイ、これ僕のアドレスなので。誰かに流したりは、しないでくださいね」

なにがなんでも、平穏な生活をしてやろう。と、心に決めたものの、そうそうに諦め始めていた。なんか、すっげームリそう。

2011.10.02


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