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※続き


―――悪夢は、オシマイ。
小さく小さく、誰かの声が、聴こえた気がした。

「良かった、世記」

転入生の言葉に、俺も会長も、周りの奴らも、意味が分からない。と思っているのか、全員が全員、彼を見る。

「ハッピーエンドで良かったと思って」

静かな声で、これまで浮かべたことのない笑みを浮かべながら言った彼を呆気にとられてみていたものの、いち早く復活したのは会長以外の生徒会役員だった。

「………キャラ、ちが、う」
「「どういうこと!?」」
「騙していたのですか?」

本格的に、意味が分からない。

「騙してたのはお前等の方だと思うんだけど。世記が傷ついてるって気付かなかった俺も俺だけど。俺は世記に制裁が行かないようにしてくれ、って頼んでたのに。信じてたのに、守ってくれてると思ってたのに、そうじゃなかったんだろ?」

転入生の、幸の言葉に、会長以外の奴等は顔を顰める。

「いい加減目を覚ませ」

お前等は、俺の事が好きなんじゃない、ただ、俺が珍しかっただけなんだよ。
そう言って、幸は俺達の方に歩いてきた。今までの事がある手前、ビクリ、と、体が震えてしまう。
否、違う。彼は何もしてない。同室者になった転入生は、ただ、俺と一緒に居ただけだった。本当に何もしていない。普通に、友達として生活していただけだった。

「ごめん、な。世記。気付いてたんだ、俺も」
「なに、に…」
「けど、俺は助けられない。俺じゃ、助けられないってわかってたから、」
「…………さ、ち」

何を信じたらいいのか分からず、混乱する思考の中で無意識のうちに会長に縋っていたのか、不意に、抱きしめられる力が強くなった気がした。

「あの悪夢、見せたのは俺だよ、世記」
「な、んで、幸、」
「世記が何回も、屋上から落ちたとこを、夢で見せた。何回も、何回も。俺だけが制裁を受けてないって、世記があの時、屋上から落ちて意識がなくなった時に気付いて、間に合わなかった俺は、考えた。けど、間に合わなかったのは変わらなかったから。だから、せめて他の奴等にも同じ目に会ってもらおうと思って、同じ日を、夢の中で繰り返してもらった」

何者なんだ。と、言う問いを口にすることは出来なかった。
やっと現実(ここ)で、また会えた。おかえり、世記。
そう言って笑った幸の顔が、泣きそうだったから。

「いつか、世記には話すよ、ちゃんと」

未だに呆然としている生徒会役員やその他、自分に付きまとっていた人を連れ、屋上を後にする直前、耳元で囁かれた言葉に頷けば、幸は笑った。

うわー、何この状況。
なぜ俺は助かっているんでしょうね。
しかもなにゆえ生徒会長の腕の中にいるんでしょうね。
確かに、自分から足踏み外して落ちたはずなのに。

「言っただろ、俺がその手を取って、助けると」
「意味、わかんね、」

は、と、出てきた声は、掠れていた。
ただ、一つだけ分かっていることがある。
俺はもう、屋上から飛び降りなくていい。
きっと、飛び降りる必要はなくなる。

「けど、さんきゅ」

そう言って、笑った俺の耳に、どこからともなく、良かった、世記。という声が聴こえてきた。


end.
2011.10.02
加筆修正 2012.10.04


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