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わらっちゃうね

※主従


ああ、やっぱり神様なんていない。雨に打たれながら、そんなことを思う。好きだった場所は嫌いな場所になってしまった。愛しかった場所は憎らしい場所になってしまった。だけどきっと、君は僕が死んだところで、何も考えない。だからきっと、君は僕がいなくなっても、何も思わない。無駄なことは一切、したくないんだ、僕は。そう、思っていたはずだったのに。泣き縋られてしまって、こんなに好かれる主ってのも珍しいんじゃないか。と、そんなことを考えてから数日。

「――――――――、いや、だったんだけど、なぁ」

嫌いだったことを、好きになってしまった。憎らしく思っていたことを、愛しく思う。

「ごめん、ね。正当防衛、だよ」

そう。これは、紛うことなく、正当防衛。その前に、過剰。とつくかもしれないが、正当防衛に変わりない。先程電話で連絡すれば、構わない。という返答が返ってきたから、僕に害はない。一切。僕の前にいる、気を失っている彼等は、別かもしれないけど。可愛い人もごつい人も、逞しい人も美人な人も。ねえ、君たちは踏みとどまろうと思えば、出来たはずなのに。そうしなかったんだ。だから、そうなってしまった。こうなってしまった。

「…………な、ん………」

なんで、か。なんで。うん、そうだね。答えよう。唯一目をさまして、泣きそうな表情をしているから。答えるだけ、答えてあげよう。

「謂れのない負の感情を向けられるのも、打算を含んだ好意を向けられるのも、限界だと思ったから。こんなこと、正当防衛にならない?でもね。理事長ぶっとばして理事会に提出したんだあ、今までの、すべて」

この学園で起こっていたコト、起ころうとしていたこと、起こっている、こと。

「大変だったんだよ。話の通じない転入生と、その周りに隠れてすべてをするってことは。常識を捨てたくなかったのに、捨てざるを得なかった。僕は――――――」
「ふゆ!」

バタバタと、音が聞こえる。大嫌いなあの子の声が、聴こえた。復讐なんて、馬鹿なことはやらない。けど、それなりの罰は受けてもらう。にこり、と嗤った僕に、いつもと様子の違う僕に、何を思ったのか、憎くてたまらないあの子の周りにいる、能無したちは、警戒するかのようにきつい視線を向けてきた。

「―――――――――、」

ああ、煩わしい。疎ましい。返事すらせず、彼等から背中を向ける。

「ふゆ!これ、ふゆがやったのか……?」

なんで、どうして。そんなことを繰り返す、頭があるのに考えようともしない、彼に向かって、一言だけ返そうと振り返った。

「笑っちゃうね」
「え………」

僕の事を信じてる。と言ってきたのは、誰だっただろうか。結局嘘っぱちの薄っぺらい感情論。だからそう。他に言う事なんて、無いよ。恋に恋して醜く堕ちた、君たちに、言うべき言葉なんてない。そろそろ行こうと思い、顔を戻せば、見知った姿が傍まで来ていた。

「冬治様」
「ああ、やっと来たんだ。春継」
「遅くなって申し訳ありませんでした」
「いいよ、別に。もう済んだし」
「然様でございますか」
「そっちも済んだんだよね?」
「滞りなく終えております」
「―――――それより、僕は高校だけは卒業させてもらえるんだろう?」
「えぇ、勿論でございます」
「なら、いい」
「なあ、お前ふゆのなんなんだ!?はるつぐっていうのか!?すげーきれいな髪の色だn「今、冬治様をなんと呼びました?」えっ「冬治様をふゆ、と呼びましたが、どういう経緯で?」え、あn「冬治様、どういう事か説明いただけますか?」ちょ、」

綺麗な人を見るとすぐに寄っていく僕の同室者は、春継に目をつけたらしい。でも、相手にされてない。仕方ないね、春継は僕がうまれた時から、僕のことしか見ていないんだもの。だから、なのか。僕も基本的に春継以外はどうでもいい。
彼が今回此処に来たのは、僕に会うため。ついでに、理事長に現実を突き付けるため、だ。本来は、そのついでの方がメインだったわけだけど。春継に言ったところで、否定されるのがオチだ。

「……名前を単純に読み間違えたんだと思うよ。僕は苗字しかこの子に教えていないから」

変な読み方でもしたんじゃないの。と、言えば、春継は然様でしたか。と、笑った。思い出した、とでも言うかのように、彼の周りで呆けている奴らに告げる。

「本日付で理事長は解雇、不本意ながら、私、葉木音春継が着任し、生徒会役員も解任。此処にいらっしゃる夛治見冬治様が生徒会長となられます」
「…………それ、きいてなかったんだけど?春継」

伝えようとしましたが、その前に通話を切られてしまいましたから。と、申し訳なさそうに言われる。そういえば何か言いかけていたのに切ってしまった気がする。

「夛治見……だと?」
「そう。夛治見。僕の苗字は、深見ではなく、夛治見」

今までだましててごめんね?笑いながら言えば、彼、以外は顔を青ざめさせていた。

2011.09.23


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