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アヤメテ下サイ

※ヤンデレ不良*他殺志願者


仕方のない事だったんだと思う。自分でも自分の事を、平々凡々だと思う。転入生で憂さ晴らしできないなら、その対象が転入生の近くにいる僕にくる、という連鎖も頷ける。けど、哀しいかな。どんなに嫌なことがあっても、苦しい事があっても。退学は出来ないし自殺すら、僕には許されていない。願うことはただ、一つ。

「殺めてよ」
「え」

ああ、呆然としたその表情。たまらない。けど、もう時間はない。

「いい加減疲れたから、殺してもらえないかな、って思って」

シィン、と食堂中、静まり返る。僕は転入生を見たまま、視線は逸らさない。彼はそんな僕を見る。生徒会役員までもが、驚いたように僕を見ていた。さっきまで僕の足を踏んづけていた双子庶務の攻撃は止まっている。

「アイツが来たら、逃げられないから、さ。アイツが来る前に殺してもらえないかと思って」
「な、何言ってるんだよ!!なんで急に!!」
「急じゃないよ?ずっと思ってた。ずっと我慢してた。何に、とは言わない。気づかないふりしてただけで、君は気付いていたものね、だから言わない。けど、もうそろそろ僕が傷つくことに我慢できなくなった、アイツが来る」

此処に、来る。そうしたら君たちは消されちゃうよ。アイツに。だから、そうなる前に元凶であるこの僕を、殺してしまえば良い。そうすれば君たちは、見逃してもらえる。アイツは、動かない玩具に用はないから。
僕の言葉が理解できないのか、食堂中静まり返っている。

―――――――カツン。

嗚呼、失敗。少し、遅かったみたい。読み間違えた。

―――――――カツン。

なかなかどうして、人間というものは頑丈にできているもので、制裁されても、何をされても僕は死ねなかった。死ななかった。

―――――――カツン。

嗚呼、もうだめ。アイツが来ちゃった。着いちゃった。食堂の扉が、静かに開く。

「――――――――ヒカル」

アイツが僕の名前を呼ぶ。ずっとこの学園にいて、転入生に近付かず、僕の様子をずっと、伺っていた、アイツ。生徒会と風紀と同等の権力を持つ、アイツ。僕を所有している、アイツ。平凡を自負している僕を愛してくれている、アイツ。まあ、それは玩具として、だけど。
チリ、と、随分前にアイツに付けられた印が、痛んだ。

「もう、良いだろ。そいつ等じゃ無理だったんだ。諦めろ」
「―――――――――――、」
「そいつ等じゃ、お前を壊せない」

アイツが言う。どろどろと、嫌な感情が渦巻く。
あーあ。台風の目の近くにいたら、誰か、誰かが僕のコト壊してくれると思ったのに。殺してくれると、思ったのに。

「―――――――――はいはい。わかりました」

アイツに見つめられて、アイツのせいで凍った空気の中、僕だけはアイツの殺気に怖気付くことなく、居竦むことなく、答えて立ち上がる。ピィン、と、張りつめた空気はその瞬間、壊れた。

「なあなあおま「おいで、ヒカル」なんでそんながっ!!!!」
「「「「亜衣!!!!!!!」」」」

果敢にも、僕より先にアイツの傍に行った転入生は、アイツに蹴られ、飛ばされた。かわいそうに。アイツの蹴りは、結構重い。驚いて生徒会が彼の傍によってくのを感じながら、僕はゆっくり、アイツの傍に近付いていく。
嗚呼、イヤだなあ。死にたいのに、死ねないのに。

「いい加減、僕の事、殺してよ。雷」

今更コイツと僕の関係を明らかにしたところで、僕の置かれている状況は、変わらない。

「馬鹿か」
「……………そうかもね」

治りきっていないキズが、微かに痛んで顔を顰めれば、何故か噛み付くように口付けられた。これまでにないくらい、優しく抱きしめられる。こんなんじゃ、死ねない。死なないよ。

「――――――今日から、軟禁、な」
「いつまで?」
「片がつくまで」
「…………分かった」

喚いている転入生を冷めた目で見ているコイツが、酷く恐ろしい。けど、それ以上に優しいという事を、僕は知っている。全部片付いたら、他殺ごっこ、してくれるかな。なんてことを思いながら、やっぱ離さねぇ。という言葉を聞いた気がした。

2011.09.23


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