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猫は現に背を向ける

2013/06/09
新谷と水月のその後の話

彼がキレた。それはある意味、当然の事だとも思えた。

生徒会役員は泣く泣く、自分の仕事をするようになった。これ以上特権のみを使うつもりならば容赦はしないと言った時の彼は、それはそれは良い笑顔をしていた。いつも騒がしい転入生が静かになるほどに。もとより、狗憑きの彼が本気を出せば、大したモノが憑いていない彼等は従わざるを得ない。能力を誇示することは彼の本意ではない。ただ、彼は新谷へ向ける自分の気持ちを、自覚してしまったが為に早急に学園を立て直すことに決めたらしかった。結果として、あの日予想した通り、彼は学園を過ごしやすい場所へと変えた。少しどころかかなり、他の役員や学園の親衛隊持ちに言葉が厳しいのは、これまでの行いを振り返ってみれば彼等も納得するところだろう。

新谷はといえば相変わらず、少しばかり騒がしさを抑えることを覚えた転入生に未だ振り回される日々を過ごしている。しかしながら基本的に、死にたがりな彼の事だ。その根本が変わることはない。相も変わらず、電車に揺られれば昏敷に辿り着く。だからか、骨の車掌は今日もカタカタと新谷を嗤う。彼の前ではよく変わる表情も、他の人を前にしていたところで変わり映えはしない。物心ついてからというもの一緒にいた存在にすら、その表情を滅多なことがない限りは変えることがない。新谷の表情を変えることが出来る彼の事が少しばかり羨ましく思うものの、妬ましく思うことはない。

「くろ」

呼ばれ、新谷を見上げればどこか様子がおかしかった。どうしたのだろうかと思いながらそのまま見つめていれば、どうしよう。と、小さく呟く。その顔は、赤かった。

「みつけた、空海」
「――――――っ」

どうしよう、くろ。と、これまで見たことがない表情で言われたところで、することは決まっている。現実の者は現実の者同士。仲良くしてくれればいい。冷たいようだが、憑くモノと憑かれる者とでは、それなりに面倒な境界線が存在している。くあ、と、あくびが漏れ、身じろぎをすればチリン。と、生前新谷につけられた首輪の鈴が、鳴った。

「くろ?」

どうぞお気になさらず。新谷に愛をささやいて現世に留めてやってくれ。そんな意味を込めてにゃあ。と、啼き、彼等に背を向けた。同性だろうが何だろうが、特殊な新谷を幸せにしてくれるのならばそれでいい。猫は主の幸せだけを、願っているのだから。


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