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簡単に言っちゃいけないよ

2012/05/28
死者と生者

死ぬ、なんて簡単に言っちゃいけないよ。後にも先にも、男が僕の事を叱ることはなかった。彼はもしかしたら、自分にそう言って欲しかったのかもしれない。僕が彼に、それを言う事は、ついになかった。だけど僕は知っている。死が綺麗なもので、ただ、静かに迎えらえる者ではないと言う事を、知っている。死にたい。と、言った僕を、男は自分の傍に置いた。今から思えば、既にその時に男は病に侵されていた。それでも最期の時まで、男にとっての日常を繰り返していた。最期は、自ら命を絶ったけど。『生きろ』笑いながらそう言った、彼の表情が瞼の裏に焼き付いて離れない。俺の目の前で自殺した男は、ちっとも綺麗ではなかった。静かでもなかった。ただ、その言葉は相当な覚悟を持った上で使うべきものだったのだと、思っただけであって。男は銃口を自分の頭部にあてる直前、僕に触れた。不思議と、いつものような吐き気はなかった。彼に触れられた瞬間、もう少し生きてみてもいいかもしれないと思ったのも間違いではない。だって、あの時は確かに、俺はちゃんと、人だった。
「なぁ、知ってたの」
後から知ったのは、男と僕の血が、半分だけ繋がっていると言う事だった。僕の事を傍に置いた男は、きっと、始めからすべてを知っていた。知っていた上で、僕の事を傍に置いた。僕はきっと、もうあの言葉を使わない。自ら命を絶つとしても、他者に命を奪われるとしても。それはきっと、あの男が最期の瞬間まで、望んでいた事だった。


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