イベントの多い夏は彼にとって好きな季節だった。
海にフェスにバーベキュー、中でも祭りの日は外に出るだけで気分が高揚する。
浴衣で着飾った女性達を眺めるのはいい目の保養だ。

あわよくば声を掛けちゃったりなんかして。

そんな邪な思いでクラスメイト達との待ち合わせに向かう彼であったが、混み合った電車で前方斜めに立つ女性にひとり運命を感じていた。
白基調で青系統の朝顔が上品に咲く浴衣を身に纏った、姿勢よく凛とした立ち姿。
長い髪を簡単に纏め上げているが、雑な印象はなく却ってアンニュイな雰囲気を醸し出している。
歳の頃は恐らく二つ、三つほど歳上。
普段同級生に目が慣れているぶん大人の女性の雰囲気を感じてどきどきと胸が高鳴った。

きっと同じ祭へ向かうに違いないことを予想しながら彼女を見つめていると、その双眸がこちらを向いて思わず息を飲む。

「…上鳴くん?」
「えっ」

これはもう運命だ。

そう思った所で、上鳴は自分が飛んでもない思い違いをしていたことに気がついた。

「みょうじ…!?」
「なんかすごいじろじろ見てくるから変な人かと思ったよ」

そう言ってふにゃりと笑った顔には先までの凛々しさは見る影もなく、けれど一人の時は別人と見紛うほど大人びた表情も出来るのだと新しい一面を発見してしまった。
隣でみょうじが話すが上鳴の心臓はばくばくと早鐘を打つようで何も頭に入らなかった。

「なにぼーっとしてるの?もう駅着いたよ」

途端に顔を近づけて小首を傾げる彼女の瞳が透き通っていて綺麗で、また見惚れてしまう。
咄嗟に小さな手が彼の手を掴んで、肌が触れ合ったところから熱が伝って行く。

降りたのは電車が閉まる直前で、文句を言いながらみょうじは浴衣の着崩れを心配する。
裾から伸びた素足が白く綺麗で、柄にもなく下駄になりたいなんて思った。

「どうしたの、行こ?」

そう言って上鳴を振り向いた瞬間、彼女の柔らかな笑顔を夕景が照らす。
彼の赤くなった頬もそれに紛れたが、正直もう祭りなんてどうでもよかった。

夕景ー上鳴電気

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