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ナルシェ付近に停泊している飛空艇。
朝を迎え、マッシュが戻ってくるのを待っていると、船外から嬉しそうなセリスの声が響いてくる。もしかしたらと思いながら外へと出れば、そこには弟と一緒に戻ってきたユカの姿があった。

暫くぶりの再会に笑顔が咲き乱れる中、少し遅れて出てきたルノアがユカと言葉を交わす。改めて自己紹介をした2人と共に飛空艇へと乗り込みマランダを目指して出発していった。

目的の町に到着した俺達は奥に建っている家を目指して歩いていく。
マッシュの話によると、この家の住人の事をユカは知っているらしい。分かっているなら話が早いと、早速ドアをノックすれば中から出てきてのは1人の女性だった。

招き入れてもらった部屋には、所狭しと綺麗な花が飾られていた。今の世界でこんなにも植物が育つなど不可能ではないかと考えていたら、女性はその疑問に答えをくれた。

「よーく見て、手作りの造花よ。草木が花を咲かせなくなったこの時代に、彼が造ってくれた花」

見事な出来映えの花に関心しながらも、それがモブリズから送られてきた事に疑問を感じた。モブリズにいた大人は全員亡くなったはずだ、と確認するようにルノアの方を見れば、無言のまま首を横に振ってみせたのだから居ないというのは確かだろう。

その証拠に彼から送られてきたという手紙を確認してみれば、文中に“ござる”という表現を見て誰が書いたものなのかが一目瞭然となった。

「カイエンっぽいな…でも、どこから手紙を送っているのか?」

伝書鳥に手紙を届けて欲しいという女性の願いを受け入れて、外に停まっていた鳥の足に筒を括りつける。飛び立っていく姿を見つめながら、何処へ向かうのかをしっかりと見届けるとゾゾの方角なのが分かった。

「行ってみるとしよう」

全員に言葉を掛けて飛空艇まで戻ろうとするのだが、何故か足を止めて考え込んでいる様子のルノア。思う事でもあるのかと話を聞いてみれば、あの花はどうやって作っているのか気になっているようだった。

「本人に聞いてみるといい」
「そうしてみる。何だかとても楽しみになってきた」
「作るつもりなら紫はどうだ?」

彼女の瞳と同じ色を指定してみたが、青が最初だと言い切られてしまう。それならそれでいいかと思いながら、自分にも一輪欲しいと頼めば上手くできたらという前置きで了承してくれた。

「分かった。楽しみにしてる」

誰よりも先に戻っていくルノアの後に続いて、ゾゾを目指して飛空艇が空を飛ぶ。向かった町は以前と同様に雨が振り続ける薄暗い雰囲気を漂よわせていた。伝書鳥の後を追いかけて俺とルノア、それからマッシュはユカを引き連れてビルを登っていった。

聳える山を登り洞窟を抜けて到達した山頂には探していた仲間の姿があった。懐かしむように名前を呼べば、こちらに振り返ったカイエンもまた俺達との再会を喜んでくれる。

「皆!!無事であったか!!!」

これから共に世界を救う戦いに行くと言ってくれるカイエンだったが、ふとした時に俺達がどうしてここに来られたのかと聞いてきた。その理由を言ってもいいのかどうか迷っていると、気付いた相手は愕然とした顔をしてみせる。

「ま、まさかわしの書いた手紙を読んだでござるか!?」

恐ろしい速さで洞窟の中に消えていったカイエンを追っていくと、部屋に置かれた沢山の花束を懸命に隠している最中だった。残り一個が届かない様子を少し遠目から見守っていると、相手は狼狽しながら趣味の一つだと説明しはじめる。

カイエンの必死な嘘を優しい気持ちで受け止めながら、造花の出来を褒めると相手は机の上に立ち上がり大きな声をはりあげる。怒られるかと思っていたが、その反対にカイエンは笑顔を見せながら嬉しそうに俺たちに、こう聞いてきた。

「ほんとでござるか?」

互いに声を出して笑ったあと、カイエンはゆっくりとした口調で自分がここにいた理由を話してくれた。

マランダにいた女性がコーリンゲンの事実を知らずに毎日手紙を待ち続ける様子を見て手紙を出したそうだ。そして自分自身が手紙を書きながらあの娘と同じ事をしているのに気付いたと話す。

前を向いていない現実から目を逸らす事無く未来に進むと決意を新たにするカイエンは、
マランダで再会したガウが獣ヶ原に向かったことを教えてくれた。

カイエンと合流を果たし次の目的地も決まった俺達は、全員で洞窟から撤収していく。大量の花を抱えたカイエンの様子を見たルノアは自分から相手に声をかけ、手伝いを買って出たようだ。

沢山の造花を両手に持ちながら歩く彼女は、彩が添えられたようにとても華やかで綺麗にみえた。やはり花と女性は似合うものだと実感しながら、カイエンと話をする彼女の様子を見つめていたのだった。

飛空艇に戻りセッツァーに仲間の場所を教えれば何の迷いもなく目的の場所へと向かってくれた。地理の把握と方位磁石も必要としない感覚に羨ましさを感じながら頼もしい仲間に操縦を任せることにする。


次の日、広大な土地が広がるフィールドへガウを探しにマッシュとユカとセッツァーが向かって行く。珍しい面子だと思いながら俺は自分用に工面してくれた部屋で1人机に向かい文字を書き記す作業をしていた。

暫くの間それに従事していたが、いつもの相手がいつまで経っても部屋に来ない事に違和感を感じ始める。集中力が途切れたのを機会に休憩がてら飲み物を持って来ようと船内を歩いていけば、同じく休憩をしていたセリスと遭遇した。

お疲れ様と声を掛けてくれる相手にお礼を言いながら、俺も同じように言葉を返す。互いに労いながら他愛のない話をしていると、セリスがそういえばとルノアについて聞いてきた。

「今の彼女だけど最初の印象と全然違って今はとても温かく感じるわ」

「そうか。ならば他の皆にも同じように伝わっていると願いたいよ」

「綺麗でミステリアスよね。魔導の感じが違うからかもしれないけど」

「魔道が?」

「エドガーはルノアに聞いた事は無いの?」

セリスは俺が知っているのを前提で話したのかもしれないが、俺はそれを知らないし彼女の出生を自分から聞こうとは思わなかった。隔てることはせずに接するというのが自分と彼女との間にある約束で、ルノアが存在しているならそれが全てだからだ。

「…名前を知っていればそれでいい」

「それは彼女の?」

「ルノアが俺の名を呼び、俺がルノアの名を呼ぶ。それで十分だ」

何かを考えながら話をする俺を見てセリスが突然クスクスと笑い始める。“別人みたい”と言ってくる相手に、俺は仲間に対して態度を変えたつもりは無かったのだが、女性の見る目というものがここまで鋭いことに改めて感心してしまう。

「エドガーが自分の事を“俺”っていうのを初めて聞いたわ」

「そう…だったかな?」

「あ、なる程ね!ルノアの事を思って話したから無意識に出たんでしょ?」

易々と頭の中を見透かされてしまいバツが悪くて仕方がない。だが、今更になって誤魔化すのは格好悪いだろうと素直に認めることにした。

「ばれてしまっては仕方がないな。ではさっきの要領で私が今何を考えているか分かるかい?」

「あ、いつものエドガーに戻したわね」

「それは触れてはいけない部分だよ、セリス」

「分かったわ。それから何を考えてるのかも分かった」

「じゃあ教えてもらおうかな」

「ルノアが何処で何をしてるのか知りたい。どう??」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一言一句違わず言い当てられてしまい、俺は言葉を失い自我を喪失しそうになる。セリスの手の中で転がされている気分を味わいながら、知っているなら教えてくれないかと頼めば、満面の笑みで答えてくれた。

「カイエンと一緒に簡易室に居たわ。花を作るんですって」

ルノアが姿を現さない理由を知って、先日のマランダでの会話を思い出す。造花が気なるなら本人に聞いてみたらどうだと俺が彼女に促したのだ。

納得のいく理由を手にした俺は、教えてくれたセリスにお礼を伝えた後、飲み物を片手に自室へと戻っていく。彼女自身で考えて行動を起こしたのだから、そこに無理やり入っていくのは止めておこう。
色々な事をきっかけに、ルノアが多方面に意識を向けて沢山の事を考えてくれるようになって欲しいと願いながら、俺は自分に課せられた作業を再開したのだった。 


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