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サウスフィガロの港を出発し、大陸を西へ沿うように進んでいくと、ようやく見えてきた海岸。停泊できそうな場所に止めてもらい大陸に降りると、その先に砂漠があるのを確認できた。

規模としてはそれほど大きくないが今は俺一人しかいない。
無理をせずしっかりと確認を怠らずに進むことを念頭に置きながら城を探すことを始めていった。

だが、進めば進むほどに望みが薄くなるのを感じずにはいられない状況になっていく。
見通した先にあって欲しいと望む影は見当たらず、せめて手がかりが欲しいと思うのにそれすらも見つからない。
見落としているのかもしれないと何度も確認したが、探し出すことは出来なかった。

諦めきれない気持ちのまま砂漠周辺を歩いていると西の方角に森林があるのが確認出来る。僅かな期待を抱きながらその方角へ進んでいけば、北寄りの方角に見覚えのある村が残っていた。
きっとここで何かしらの新しい情報が聞けるはずだと、急ぐようにして足を進めたのだが、コーリンゲンの村は自分の想像以上に荒れ果てていた。
倒壊した家や朽ちた木々が目に付く状況に胸を痛めながらも、村の様子をきちんと目に映しておこうとしっかりと見つめた。

村の人たちを気に掛けながらフィガロについて色々と聞いて回ったが、誰一人としてあの日を境に城を目撃した者はいなかった。

宿屋の一室でソファーに腰掛けながら思案を巡らせるのだが、どちらの大陸にもフィガロが存在しないという不可思議な現象に溜息しか出てこなかった。

「攻撃を受けたか、地形の変動に飲み込まれたのか…もしくは」

フィガロの過去の歴史に記されている惨劇ともいえる事件。
俺の祖父にあたる国王がフィガロ城の初の潜航に失敗し甚大な被害を伴ったのだ。もしもそれと同じ事が起こったとなれば、俺は一体どんな手を打てばいいのだろうか。

溜息と同時にいつものように隣を見るが、話しかける相手はそこには居ない。口に出すことで整理していた情報が頭の中で巡り続けていた。

次の日も諦めずにフィガロ城が浮上してくることを願いながら改めて情報集めに奔走する。この大陸を全て確認して、僅かな可能性を見出そうと海岸近くの砂漠を歩いていく。
休憩と称して立ち止まり東の方角に目を向ければ、遥か遠くに見える僅かな大陸の影。少しの時間を眺めることに要した後、陸地を巡る続きをしなければと足を進めていった。

野宿をしながら長い期間をかけて歩き回ったが、やはり何処にも存在していないフィガロ。
ケフカの攻撃を受けたとしても残骸があるはずだろうし、それくらいの攻撃で全てが潰れるような弱い建物ではない筈だ。

そうなれば、推測できる結末は2つに絞られるだろう。
どう動くのが最善なのかを砂漠を見続けながら考える日々を過ごしていたが、打開策はみつけられないままサウスフィガロの船が迎えに来る日を迎えた。

揺れる船の上で、色々な事が浮かんでは消えてまた浮かんでは消えていく事を繰り返す。少しずつ失われていく緑に気付きながらも、何も出来ないことが歯痒くてならない。
それでも今はルノアに無事に会えることを一番に考えながら、逸る気持ちを押さえいた。

それから暫くして久しぶりに戻ってきたサウスフィガロの港を懐かしみながら、早々に船から下りて町を歩いていく。その間も相手の姿が何処かにないかと懸命に探しながら宿屋へと向かった。
ドアをノックして部屋に入ったのだが人の気配は何処にも無く、次にチョコボ屋に様子を見に行ったが彼女はそこにも居なかった。

「・・・もしかして何かあったのか…」

捨てきれない可能性に押されて自分のリボンが何処かに結ばれていないか辺りを必死になって見回した。もしかして部屋にあるかもしれないと宿屋に戻ろうとした俺の目の前に、突如割り込んできたのは大きな黄色い塊だった。

「――ぅッぐ…!?」

自分が埋もれた塊の正体がチョコボだと気付いた直後、誰かが俺の腕を強く掴んできた。
引っ張られるようにして後ろを振り返れば、そこにいたのは懸命に探していた彼女だった。

「ルノア…!」

「エドガー!!…ッ…良かった…」

言葉を掛けてくれる彼女の表情はどこかホッとしたようにも見えて、口元に浮かぶ微かな笑みがそれを助長させているように思う。
俺が出発した時に心配なんてしないと言っていた相手が、こんな表情を無自覚でしてくるから対処が遅れて言葉が詰まる。

思いもよらない動揺を感じながらも互いが無事だったことに安堵する。聞きたいことは色々あるが、まずは落ち着いて話を出来る場所に移動しようと2人で店に行く事にした。
以前にもよく座っていた席に腰を降ろし、注文の品が来るのを待っていると、ルノアが久しぶりに来たと話す。それを聞いて食事をきちんと食べていたのか確認すれば普段は部屋を使っていた事を教えてくれた。

色々あってと濁す彼女は話題を逸らすかのように報告をし始めたのだが、残念そうな表情を浮かばせながら収穫は無かったと語る。そんな俺の方も何の成果が挙げられなかったばかりか、考えていた以外の状況になってしまったことを相手に告げた。

「コーリンゲンの大陸にも城が無かった…」

「それはどういう事?」

自分の中で考えうる事態を2つ挙げて説明すれば彼女は言葉を失い考え込む。痕跡も目撃情報もない存在をどうやって見つけるかなど、簡単に解決出来るような問題ではなかった。

地中に埋まっているとしても何処なのか。掘り出すとしてもどんな風に何を使うのか。考え付いたとしても崩壊した世界でそれを可能に出来る手段など無いに等しかった。

「…今のように大陸を探し続ける以外は無いのかもしれない」

「・・・・・・・・・・・・・」

無言になった彼女の前に店員が食事を置いていく。
折角の時間だというのに暗い気持ちにさせてしまったと思い、俺はコーリンゲンの土地で変わった建物が作られている話を持ち出した。

戦う事を目的とした大きな会場で、1人の男がそれを実現させるために奔走している事を説明すれば、彼女は多少ながら興味を持ってくれたようだ。

食事をしながら今までの事を話をした俺達は共に部屋へと戻っていくのだが、急にルノアの足取りが早くなった事に気付き、歩調を合わせながら小さな声で相手に訊ねた。

「どうした?」

「面倒事に合いたくなくて逃げてる…っ」

理由を聞いた直後、後方から大きな声でルノアの名前を呼びながら1人の男が駆け寄ってくる。
その男は彼女の前に回りこむと“やっと会えた”と嬉しそうに喋りながら、今日こそは助けてくれたお礼を受け取って欲しいと高価なアイテムを差し出していた。

受け取れないと断るルノアに何度も申し出る男は、しつこいぐらいに同じ言葉を繰り返し続ける。俺としては明確な状況が分からない事もあり、2人の話に割って入るつもりは無かったが、ルノアが恐れるように一歩後ずさるのを見た瞬間そうはいかなくなる。

男に自分のために使ってはどうだと勧めるが、こっちの言葉など聞く耳を持たない。そんな態度に呆れながらも、説得を試みようとあくまでも紳士的な態度で接することを決めた。

「彼女に対するお礼がしたいなら、善意の心で動いた彼女と同様に是非それを町に寄付してはどうだろうか?」

高ぶっている相手を触発しないように、高圧的ではなく諭すようにゆっくりと言葉を告げる。それと同時に自分の正体を明かせば、ようやく俺の方を向いた男は焦ったように喋った後、逃げるように立ち去っていった。

「これでもう大丈夫だろう」

災難を振り払い部屋に戻れば、帰ってきてすぐにルノアは迷惑をかけてしまったことを俺に謝っていた。どう考えても一方的な考えを持っていたのは向こうだと話せば、彼女は上手く断れず困っていたようだ。

「何度も説得したのに分かってはもらえなくて…」

「・・・何度も?」

引っかかる言葉を聞き返すと、さっきの男はルノアの姿を見つければ必ず声を掛けてきたそうだ。しかも昨日今日の話ではないらしく、モンスターに襲われて怪我をしたのを助けたのがキッカケで追いかけられていたらしい。

「エドガー…私はそんなに乏しく見えるだろうか?」

悩んだ表情で相談してくる彼女は、男の行動の理由を貧しさからの施しだと思っているらしいが、それは全くもって的外れだという事に気付いていないようだ。

「君の善良な行いと美しさに感銘を受けたんだろう」

「……エドガー…。一つ聞いてもいい?」

「どうした?」

「貴方は何故、時々不要な言葉を入れるの?」

「不要じゃなく事実だからな」

嘘は言っていないと真面目な態度をとるが彼女は納得していないのか眉間に皺を寄せながらこっちを見つめる。だが、本人が否定しても実際その通りだったからこそ、しつこく付きまとわれたのは事実だろう。

彼女のフードを奪うべきではなかったかもしれないと今更になって後悔しても遅く、多少の気苦労に見舞われながらも隣同士座りながら静かで落ち着いた時間を過ごしたのだった。


次の日の朝、まずは今までと同様に砂漠を確認するため、移動手段を借りようとチョコボ屋に向かう。
店の中に入ると店主は見慣れた俺達に気付きチョコボの檻を開けて準備をしてくれる。すると一頭のチョコボがクエッと鳴いてルノアの方へ近寄っていった。大きな体をすり寄せられて彼女はよろめきながらもそれを受け止め穏やかな表情でチョコボを撫でていた。

「随分懐かれてるな」

「この子にいつも乗っていたから」

話をしながらルノアに近寄っていくと、いきなりチョコボが俺の歩みを遮るように体の向きを変えてきた。しかもこっちに尾まで向けるのだから敵意の表れであり、知能が高いチョコボの明らかな嫌がらせじゃないだろうか…。
もしかすると昨日、俺に突っ込んできたのもそれが理由だったのかもしれないと気付き、
傍によるのを諦めて自分のチョコボに跨がり砂漠へと向かっていった。


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