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こんなにも穏やかな感覚で眠りについたのは久しぶりで、それを与えてくれた相手がいてくれる事に感謝する。寝返りをうった時、窓の外から外灯の弱い光が差し込んでいるのに気付き時間の経過を理解する。

程なくして扉が開く音が響き、ランプの明かりが部屋の中を照らしだす。
彼女が帰ってきた事を理解するが、異様な程の睡魔に抗えず俺はもう一度眠りの中へと落ちていった。

その後、時間を気にする事無く眠っていた俺を目覚めさせたきっかけは何かが擦れるような音が聞こえた時だった。それが本のページを捲る動きだと分かったのは、椅子に腰掛けたルノアの姿が視界に映ったからだ。

相手に声を掛けたくて起き上がろうとした俺を見たルノアは、読んでいた本を放り投げるようにして置くと俺を支えるために手を貸してくれた。

渇きを癒そうとグラスに手を伸ばせば、行動を先読みするルノアがそれを取って渡しくれて、冷たい水を飲み終えれば彼女はグラスを俺から引き取ってテーブルに置いてくれた。当たり前のように動作する相手は、今度は俺の首元に触れながら病状を看てくれる。

「もう暫く安静にしていて」

まだ寝ていろと遠巻きに言われて大人しく頷くと、ルノアはそんな俺を見ながら今日の成果について短い言葉で報告してくれた。

「…駄目だった」

「そうか…」

こうなるとコーリンゲンに向かう以外、妥当な手段はないだろう。一刻も早く自分の状態を回復させてコーリンゲンに向かうことを改めて俺は決意する。
喉の痛みに苦慮しながらも食事をしっかり食べて薬を飲んで横になる。今の自分に出来ることはこれくらいだと強く言い聞かせ、ルノアに身の回りのことを任せることにした。

俺の近くに椅子を寄せて、額のタオルを何度も換えてくれる相手の動きをぼやけた視界の中で見つめながら、本当の彼女はこんなにも温かな心の持ち主なんだと改めて思う。

初めて会ったときの印象があまりに強く、苛烈さや冷厳な態度ばかりが映っていたがそれだけが全てではなくて。本来ならもっと穏やかで慈しみに溢れている人だったからこそ、ケフカに仲間を奪われたことで反転してしまったのではないかと。

「ルノア……」

本当の君は一体どんな笑い方をするんだろうか。
どんな表情で楽しんだり、どんな声音で喜びを表すんだろうか。

「どうかした?エドガー」

必要なものがあるのか聞いてくる彼女の表情は、いつもと同じように感情を表に出さない。それが今の俺とルノアとの間にある現実だ。

いつかそれが変化して欲しいと望むのは、きっと俺だけかもしれないがそれでもいつかと…。この数ヶ月、共にいるあいだに僅かでも君の事を知れた筈だと思いたい俺がそこに居た。


それから数日後。

ようやく調子が戻ってきたのだが、コーリンゲンに向かうなら病み上がりで無理はするなとルノアに釘を刺され部屋に閉じこもることを余儀なくされる。とはいうものの、ずっと寝ている事が出来なくなってきた俺は時間を持て余していた。

少しの間だけ外に出て町の様子を見た後、部屋に戻るのだが動けない自分にやることなど殆ど無かった。そんな時、ふとベッドサイドに置かれた小さなテーブルにルノアの読んでいた本が目に留まる。

気になってそれを手に取れば、サウスフィガロの町の歴史や土地の気候、人口などが色々と載っていた。ページを捲りながら自分の頭にある情報と照らし合わせるように読んでいくと、進んだ先にフィガロ城についての記載があった。
大まかな概要や歴史の他に、自分の事が記されているのに気付き俺はまるで何かを遮るように本を閉じてしまった。

時間の流れを遅く感じながら窓の縁に腰を掛け、沈んでいく夕日に目を向けながら彼女が戻ってくるのを待っている自分。
だったら無理をしてでも一緒に行けば良かったんじゃないかと思いながら、迷惑をかけない為にも大人しくしているのが懸命だと、どうしようもない2つの考えの間で揺れ動く。

無駄な議論を捨て去り、明日こそは出発できるようにと入念に準備をするのだが、窓を覗く回数ばかりが増えるだけで大して進みもしなかった。

それから数時間後、階段を上がってくる音に気付いて扉を開ければ、待っていた相手の姿を見たときに自分の肩から力が抜けるのが分かって、緊張していたんだと今になって気付く。

疲れているであろう相手を部屋に通すと、彼女はフィガロ城を見つけられなかった事を申し訳なさそうな表情で話すからそんな顔をする必要は無いと答えると相手は逆に困ったような顔をしてみせた。

「エドガーは吉報を期待して私を出迎えてくれた…なのに何故…」

「君が戻ってきてくれた事が何よりも重要な事だ」

「けれど……役割を果たせず戻ってくるのは心苦しい」

ここまでしてくれた相手を責めるなどありはしないのに、彼女は俺から目を逸らしてしまう。ルノアが無事でなければ何もかも上手くいかないんだと話せば、さらに相手が困惑しているのが分かり、俺は自分の思っている事を素直に伝えた。

「心配ぐらいさせてくれ」

「だけどそれは決していい事じゃない」

「俺はそうは思わない」

彼女は俺が病床に伏せている時、体の苦しさや気持ちの寂しさを理解してくれていた。ならば待っている時の不安も知っている筈だから、思うことで繋がるものがある筈だ。

「無事であって欲しいと願うから、心配するんだろうな」

俺が勝手にしている事だからルノアは気にしなくていいんだと話せば曖昧な頷きをされる。たとえ彼女にどんな風に伝わろうとも、相手を心配する気持ちを消すことは出来ないだろうし、物事に優先順位をつけるつもりもない。無事であることを素直に喜び、出来なかったものには次に全力をつくせばいいと思える。

「さぁ、明日に向けて準備をしよう。話したいこともあるんだ」

気後れしているルノアを食事へ誘い、町の中を2人で歩いていく。
店の中に入り、食事をしながら今後のことについて改めて相談した後、部屋に戻って手製の地図を見ながら詳しい話をしていった。まずはサウスフィガロの港から西の大陸に船で向かい、そこで城があるかどうかを確認する。
故障していれば直したあとに潜航してこちら側の大陸に戻ってくれば今後の移動に困ることもなくなる筈という考えだ。

「私はそれでいいと思う。でも、行き違いになったら?」

捨てきれない曖昧なところを指摘するルノアは、それなら別々に行動したらどうかと提案してきた。彼女がこの場所に留まり砂漠の様子を見ている間、俺はコーリンゲンに船で渡り城を探す。そうすれば城を発見した側が今の現状を伝えることが出来るし、仲間に町で会える可能性も捨てずに済む。

「私が共に行っても修理の手伝いは出来ない。だったら他の事を別に進める方が確立が高いと思って」

「そうだな。二手に分かれた方が利点はあるな」

お互い納得した上で明日からの行動と大よその日程を決めて予定を組んでみることにした。暫くは会えなくなるが、相手が居る場所を把握できているのだから逸れてしまう事はまずないだろう。
だが、念には念をと急の事態があった場合のみメッセージを残すことを互いの間でルールとして決める事にした。

「俺の持っているリボンの内側に紙を入れて相手が気付いてくれそうな所に結ぶ。どうだ?」

「相手が気付いてくれそうというのが少し難しい…」

「それを考えるのも面白いだろ?」

お互いの行動を思慮するという多少癖のある伝達方法だが、俺もルノアも考え方が似ているならそこまで難儀することもないだろう。
自分の髪の毛を縛っていたリボンを一つを解といて相手に手渡せば、失くさないようにと早々に鞄の奥にしまいこむ真面目な姿に笑みが零れたのは言わずにおこう。


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bkm

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