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辿り着いた砂漠を後にしてサウスフィガロの洞窟に到着する。
慎重に先へと進んでいくが、出現するモンスターが異なるくらいで内部の構造は以前とあまり変化が無かった。最奥まで辿り着くことはできたが、山脈が無くなっている影響で出口は塞がり外へ出ることは無理なのが分かった。
来た道を戻り町に帰ってきたあと、チョコボ屋があるのを確認して明日二頭借りることを店主に伝えた。

陸路で砂漠まで行けるのならチョコボの方が断然移動速度も上がることをルノアに説明していると乗り方について質問される。店のチョコボを説明に使いながら鐙に足を掛けて乗ったあとは背中にある鞍に座り、しっかりと手綱を持てば言う事を聞いてくれると答えたのだが、彼女が少し考え込んでしまった。
俺が先導するから心配ないと話せば、今度は素直に頷いてくれたようだ。

次の日、チョコボに跨り砂漠へと辿り着いた俺達は、まずは真っ直ぐ北を目指すように縦断していった。時々強く吹き荒れる砂塵に目を覆いながら、フィガロ城がないかどうかしっかりと確認して進んでいったが、一度目の行進では見つけることが出来なかった。
次は横断するように端から端に向かっていったが、それらしき姿は発見できずに終わる。
迷わないように方角を直線的に行くが、どの順路をいってもこの日はフィガロ城を見つけることは叶わなかった。

「無かったな・・・」

町に戻り被っていたフードを取りながら隣にいるルノアに話しかけると、砂漠がこんなにも広大だったことに驚いている様子だった。それと同時に、風と砂が吹く場所で建物一つを探し出すことは大変な事だと素直な気持ちを話していた。

以前のような天候ならば遠くを見通すことも可能だったが、地形が変化し隆起したうえに砂まで飛んでいる状況では難しさが増して当然だ。
それでもフィガロを見つけなければならない事は変わらない。共に戦ってきた仲間達、そしてフィガロ城にいる者達。どちらも自分にとっては大切なものに変わりはない。

部屋に戻って今日の感覚を頼りに大よその地図を自分なりに描いてみた。
セッツァーのようにはいかないが、それでも見当ぐらいは在った方がいいと思ったからだ。俺が机に向かっている間、ルノアは珍しく1人で町中の様子を見てくると外へと出かけていった。

今日のことを思い出しながら地図製作に没頭していると、不意に机に置かれたグラスに驚いて顔を上げれば、そこにいたのは外出した筈の彼女だった。
もう戻ってきたのかと思ったが、俺が熱中しすぎていたようで時計を見れば思いのほか時間が経っていた。

差し出された飲み物を口にしながら休憩していると、ルノアは俺の書いた地図を穴が開くほど見つめながら褒めてくれる。相手の素直な感想を受け取りながら明日も探しに行くことを話せば、彼女も一緒に行くと言ってくれた。

「1人で見るには大変なのが分かったから」

「そうだな。助かるよ」

この日からフィガロ城捜索を開始した俺達だったのだが、それから暫くたっても城を見つけることは出来なかった。荒む砂漠に毎日のように通ったが足取りは一向に掴めないまま時間だけが経過していく。
城が潜航した跡もなければ、何かがここにあったというような手がかりもない状況に段々と焦りが生まれていく。この町にフィガロの人間が来ていないとなれば、あの日から一度もこの土地には城が現れていないということになる。
そうなれば、こちら側の大陸ではなくコーリンゲンにあるのではないかと考えるようになっていった。

機械が故障して直せない状況なら、見つからない理由にも直結する。
だったら、このままこちらで待っているよりも、どうにかして一度コーリンゲンまで足を運んだ方がいい筈だ。

行動するなら早いほうがいいと、港で船を借りる約束を取り付けようと説得を試みたり町の修繕に手を貸したりと、まるで抱えている不安を埋めるかのように俺は今やれることを率先して取り組んで過ごしていた。


そんなある日のこと-----。


今日もいつものように砂漠へ捜索に向かおうとした俺の前にルノアが突然立ち塞がってきたのだ。どうしたんだと問いかければ、恐ろしく怪訝そうな顔つきで話があるから座ってくれと頼まれる。

渋々ながら相手に従い椅子に腰を降ろせば、彼女はいきなり“本当なの?”と意味不明な一言を発してきた。

「…何がだ?」

「それすら本気で言っているの?」

「訳が分からないんだが…」

俺が椅子から立ち上がろうとすると彼女は肘掛に置いていた俺の腕をいきなり上から押さえ込んできたのだ。
不可解な行動に呆気に取られていたら、ルノアの手の平が不意に俺の額に当てられる。そして今度は両方の手で俺の顎の下あたりを包み込むようにして触れてきた。

「腫れてる。熱も高くて辛い筈なのに」

見下ろしてくる相手の紫の瞳が俺を咎めるようにじっと見つめていた。ルノアの手の冷たさが心地いいと感じるということは、今の俺は彼女の診断通りの状況なんだろう。分かっていなかったというよりも、平気だと思っていたというのが正しいかもしれない。
けれど、ルノアの目にはそうは映らなかったようだ。

「エドガーが自分から言うまでは何もしないつもりだった」

焦る気持ちを理解できるから懸命に行動するのを妨げたくなかったと話す。だけど、ここまできても何も言わないから無理にでも止めたんだと彼女は言った。

「…貴方ならもう少し冷静な判断が出来る筈なのに」

小さな溜息を付いたルノアは俺から手を離すと、一歩後ろに下がりながらどうするつもりなのかと聞いてきた。自分で大丈夫だと思ったからこそ行動しようと考えていたが、相手に病状がバレてしまう位なら自分が想像しているより悪いという事になる。
上手い理由を見つけられず、呟くように“城の者達が心配なんだ”と口にすればルノアは違う言葉でもう一度確認をしてきた。

「『大切なものを守るために互いに“協力”して助け合っていこう』、そう言ったのは貴方」

なのに1人で断行しているのはどうしてなのかと。
別々を望むならそれでも構わない、と付け加えると、それ以降黙ったまま俺の方を見続けていた。無理をしようとしていた俺を気遣ってくれた彼女に対して偽る事無く“済まなかった”と謝れば“分かった”と短く答えてくれた。

近寄ってきたルノアは俺の着ていたマントを外しながら“ゆっくり休んで”と、優しい言葉を掛けてくれる。少し準備をしてくると彼女が部屋から出て行く様子を見た後に、俺は倒れこむようにベッドの上に寝転がった。

「…ッ…はぁ…」

具合が悪いと認識した瞬間、張り詰めていた緊張が無くなり一気に体が重くなるのが分かった。熱や痛みを感じて目元を隠すように仰向けになっていると、程なくして帰ってきたルノアが声を掛けてくる。

「食事は出来そう?」

「ん。・・・ああ」

小さな返事をしながら、ゆっくりと重たい体を起こすと彼女がわざわざ食事を持ってきてくれる。お礼を言って受け取ろうとしたのだが、何故か相手は器を持ったまま俺の寝ているベッドの縁に腰を降ろしてしまった。
そして当たり前のように口元に差し出されたスプーンを見て、熱と相まった俺の脳は状況を理解できずに動かなくなる。

「少しでもいいから食べないと」

「・・・・い、や…その」

「他のものが良かった?」

別の食事を用意しようと立ち上がる相手を引き止めれば、さっきと同じように口元に寄せられるスプーン。どうすべきか迷っている俺に対して彼女はいつもとは違う穏やかな表情で言葉を掛けてくれた。

「辛い時は悩んだり考えたりしないで。何もする必要なんてない」

「・・・・・・・・・」

「だから今はきちんと休んで」

促されるまま口を開いて食事を飲み込めば、喉を通っていく痛みで眉間に皺がよる。こんなに酷かったのかと自分の状況を再認識しながら、彼女の厚意を受けとり最後に苦い薬を飲み終えた。

息をつきながらベッドに横になるとルノアは濡らしたタオルを絞って内側に魔法で微細な氷の結晶を作り出しそれを俺の額に乗せてくれる。心地良い冷たさにありがとうと言葉を伝えれば、気にしなくていいと彼女は首を横に振ってみせた。

そのあとも食器を片付けたりグラスに水を注いで近くに置いたり色々と面倒を看てくれる。慣れた様子が気になり彼女に話しかけてみると、幼い頃に体調を崩すことが多かったせいだと苦い表情を浮かべながら答えてくれた。

「そういう時、私にいつもユラがこうしてくれた」

時折、彼女の口から出てくる人物の名前について考えを巡らせたいのに今の頭ではどうすることも出来ない。ただ、その人物の名前を出すときのルノアの表情はいつも悲しそうになるのだけは理解していた。
相手の横顔を熱に浮かされながら見つめていると、カーテンを閉めていたルノアが俺の名前を呼んだ。

「エドガー。砂漠には私が様子を見に行ってくる」

だから待っていてと言うのだが、俺にとっては逆に心配でならなかった。
自分が無理をしてまで行こうとしたから彼女は1人で向かおうとするんだろう。けれど、ルノアはフィガロを知らないだろうし、何かあったらどうするんだと言ったのだが、相手に問題ないと一言で片付けられてしまった。

「砂漠に建物が突然現れたら、いくら私でも間違える訳はない」

「だが…」

「病気の貴方を連れていく方がよっぽど危険だった」

俺の行動を逆手にとって脅してくる相手は、大切なものを守るための助け合いじゃないのかともう一度問いかけてくる。だから待っていてと出かける支度をするルノアに対して俺は遣る瀬無い思いばかりが募っていく。

フードを手にした彼女が準備を終えて扉に向かって歩いていく姿を目で追っていると、出る間際にこちらに振り返った相手と視線が重なった。
すると出発する筈のルノアが荷物を突然床に置いてこっちに戻ってくるなり、俺のベッドの縁にゆっくりと座った。

「……貴方が眠るまでは、一緒に居よう」

囁くような優しい声音と、気遣ってくれる相手の行動に嬉しい気持ちと情けない気持ちが混同する。面倒をかけてしまっているのに、こうして傍にいてくれる人の温かさに心が満たされ、切ないような悲しいような、上手く言えない気持ちになっていく。

「…すまない」

「謝る必要なんてない。今はただ何も考えずゆっくり寝て」

彼女は俺の手にそっと触れると永続的に続く回復魔法を掛けながら、いつも色々教えてくれるせめてものお礼だと言っていた。重なる肌から伝わってくる人の温もりと安心感に包まれた俺は、程なくして眠りへと誘われるように瞼を閉じていった。


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