EP.85
魔大陸に向けて飛空挺が高度を上げていく。
もうすぐ、戦いが始まろうとしていた―――。

雲を超える高さにまで浮上している魔大陸。
そこに向かうメンバーはロック、エドガー、マッシュの3人に決まった。
きっと今まで主力メンバーだった事が大きくて、ティナとセリスは三闘神の魔導の影響を受けることを懸念し、飛空挺に残る事になった。

他の皆は自分同様、3人が戻ってくることを願いながら、飛空挺で待つことだけしか出来ない。

出発前になるとセリスはロックに話しかけていたし、エドガーはルノアさんと話をしていた。自分もマッシュに“気をつけてね”と言いたい筈なのに、躊躇う心がそれを妨げ続けていた。

ガウやカイエンさんが話しかけてる様子を見て、いつもの雰囲気で輪に入ろうとする。なのにどうしても動けなくて、俯くばかりだった自分の名前を誰かが大きく呼んだ。

「ユカ!」

声につられて顔を上げれば、マッシュが軽く手を上げながら“行ってくる”と言葉を掛けてくる。その後すぐにロックに続いてエドガーとマッシュの3人は飛空挺から魔大陸へと飛び移っていった。

彼の背中が見えなくなった途端、返事を返せなかった事が急に怖くなる。考える間もなく慌てて飛空挺の縁に走り寄り、私は身を乗り出して大きく叫んでいた。

「気をつけてよ!絶対!!絶対だよッ!!!ちゃんと帰ってきて!!必ずだよ!!」

喉が痛くなる程の大声が届いたのか、驚いた顔をしながらマッシュが短く返事を返してくれる。飛空挺が大陸から離れていき、彼の姿が見えなくなっても、それでもずっと見つめていた。

「ユカ殿!!そんな所にいては落ちるでござる!」
「だけど…っ」
「心配せずとも必ず帰ってくる。マッシュ殿が強いのをご存知でござろう?」
「……はい」

飛空挺の甲板で、帝国を討ちに向かった3人が戻ってくるのを待っていると、ティナが急に声を発した。どうしたのかと詳しく聞けば、セリスとルノアさんの姿がどこにもないと話す。慌てて全員で船内を探したけれど、本当に2人の姿は見つからなくて、困惑が広がった。

飛空挺にいないのなら、2人はきっと魔大陸に乗り込んだんだ。
だとしても今の自分達が向かう事は不可能だから、信じて帰りを待つこと意外は出来なかった。


それからどれだけの時間が経っただろう。
本当に長く感じる時間だった。
いつだろういつだろうって、ずっと思っているから余計に思うのかもしれない。

飛空挺よりも上空に浮かんでいる魔大陸を見続けるけど、3人の姿と突然居なくなったセリスとルノアさんの姿はどこにも見えない。
不安になる気持ちを押さえ込もうと、自分の足を抱えながらうずくまる。唇を噛んで堪えるように待ち続けていると、突然セッツァーが飛空挺の舵を大きく左舷へと切った。

「どうしたの!?」
「魔大陸が崩れ始めてる!!!」
「そんな…ッ皆は!!!」
「分からん!!それより回避するぞ!!!」

甲板を覆うように大きな影が映り始める。それが落石だと知ったのは上空を見上げた時だった。ぶつかりそうになる瞬間、セッツァーがギリギリで回避し、飛空挺の船体を巨大な大地が掠めていく。

こんな危険な状態だというのに、大陸にいる皆は一体どうやって逃げてくればいいのだろうか。不安しか浮かんでこない現状にどうにか耐えながら、魔大陸に姿が見えるのをずっと待ち続けていた。

「いたぞ!!!!あいつらだ!!」

セッツァーが大きく声をあげると、大陸の端に集まる5人の姿が見えた。
けれど、5人は何故かこっちに戻ってこようとしない。まるで誰かを待っているかのように、足を止めていた。
その間にも大陸は物凄いスピードで崩れ始めていく。間に合うのだろうかと心配した矢先、陸地の奥から見覚えのある姿が見えた。

「シャドウさん!!!」

上昇する飛空挺にあわせる様に、6人は魔大陸から飛空挺に飛び乗り全員無事に戻ってくることが出来た。
私はマッシュの姿を見て、彼が無事なことに心底安堵する。話しかけようと踏み出したのだが、突然けたたましい音と光が上空から地上に向かって降り注いでいくのが見えた。

「―――!?!?!」

飛空挺から世界を見下ろせば、信じられないような出来事が起きていた。
輝く丸い光が大地に触れた瞬間、地上はひび割れ隆起し、大陸の形が変わるほどの大きな爆発が始まったのだ。

「こんな事って……」
「暴走はとめられなのか…!!」

どうする事も出来ない状態に恐怖するしかなくて、変化していく世界を見ている事しか出来なかった。絶望ともいえる状況の中、空を睨むように見ていたセッツァーが突然全員に向かって一際大きな声を発する。

「掴まってろ!!!!!」

その瞬間、大気が大きく揺れ動き、大地から巻き起こった爆風が飛空挺を襲った。
自分の足元がその衝撃で歪み、体が後ろに傾いていく。巨大な船体を一瞬にして真っ二つにしてしまう程の力に耐えられるわけもなく、自分の体が投げ出されるようにして宙に浮かんでいた。

「ユカッッッツ!!!!」

私の名前を呼びながらマッシュが腕を伸ばしてくれる。
だけど、彼自身も空へと投げ出され、皆が弾かれるようにバラバラになるのが分かった。

あっという間に全員の姿が見えなくなって、無理だと知っていながら自分は腕を伸ばし続けていた。背中に感じる風圧に絶望を感じながら、落ちていく自分がこれからどうなるかなんて嫌でも分かる。

きっと助かることもないだろう。
もう皆と会えないんだろうなって思いながら、死を覚悟して目を閉じたんだ。

さよならとありがとう。

それをずっとずっと繰り返し続けている間に、まばゆい光と共に自分の意識は段々と遠のいていった----。


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bkm
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