EP.83
大地から離れ、浮上した大陸の名は魔大陸。

アルブルグを出発してから今までの事を、ロックとティナが語ってくれる。レオ将軍はケフカに殺され、ケフカは幻獣を魔石化する魔法を使い、多くの幻獣がその餌食となり命を奪われていったのだ。

幻獣と三闘神を奪った敵を打ち倒し、世界崩壊を止めなくてはならない。
大きな戦いを前に入念に準備をしようと話が上がった。

エドガーがルノアさんの為に壊滅した帝国首都の様子を見せようと、少しの間ベクタに停泊する。その後、アルブルグの町の近くで飛空挺を着陸させた。

新しく仲間になったリルムちゃんやストラゴズさん、そしてルノアさん。
色々と話をしたいと思いながら、自分が一番気になっているのはマッシュの事だった。サマサの村から戻ってきて以来、皆と一緒にいる姿を見かけないからだ。

もしかしたら甲板に居るのかもしれない。
だけど、昨晩の出来事を思い出したせいで歩みが止まってしまう。すると突然、背後からいきなり文句が飛んできた。

「ちょっと、そこ避けてよ」
「え…?あ!」
「変なところで考え事してないでよね」
「そうだね、気をつけるよ。ごめんなさい、リルムちゃん」
「そのちゃんってやめて欲しいな。子どもっぽいでしょ?」
「そうかもしれないけど、何歳?」
「10歳よ」

あまりの若々しさに自分と比較してしまったが、確かにその年齢だと“ちゃん”は微妙に感じる年頃かもしれない。それに10歳にしてはとても背が高いし、物言いが大人みたいだった。なのでこれからは気をつけるからと約束を交わした。

「あ、そうだ。あのね、リルム。…少し聞いてもいい?」
「うん、何?」

サマサで起きた事はロックが説明してくれたけれど、マッシュとルノアさんの間にどんな事が起きたのかは言ってなかった。
だから、その時の事をリルムに聞いたのだが、話しの途中で自分は居ても立っても居られなくなり、走って甲板へと駆け上がっていた。

「マッシュ!!!!!」
「なん…---!?」
「マッシュ本当に大丈夫だった!?ねぇ!本当に怪我とかしてない!?!?本当にッ」
「い、いきなりどうしたんだよ」
「だから何もないのかを聞いてるの!!」
「ユカ、落ち着けって」
「だって剣を首筋に突きつけられたんでしょ!!だからッ」
「それは俺じゃない、兄貴の方だ」
「……………………え…」

思いこみなのか、聞き間違いなのか、早とちりなのか。とにかくマッシュに怪我はないんだと知って、安心から溜息が漏れた。

「何で急に俺の心配なんてするんだ?」
「ッ当たり前だよ!だって!!…だ…だっ、て」

言いかけて止まる言葉の続きを一生懸命探して出てきたのは、エドガーが心配するからという他人を利用した誤魔化しだった。

「だよな」
「その…つまりエドガーにそんな事があったから、マッシュは機嫌が悪いんだよね」
「まぁ、そうだな。あんな事があったら誰だって黙ってなんかいられねぇよ…」
「何があったの?教えて」

彼の隣に並んでその時の事を聞いたら、とても複雑な状況なのが分かった。
ルノアさんも彼女なりの理由があって、エドガーはエドガーとしての立場や状況を踏まえての行動だったようだ。
だけど、マッシュはその2人のやり取りがどうにも納得できないようで、気持ちがごちゃごちゃしているみたいに感じた。

「リルムに聞いたけど、ルノアさんは目の前で仲間が魔石化されたんだよね…」
「だとしてもその矛先を兄貴に向ける必要は無かった筈だ」
「でもルノアさんにとって帝国とリターナーの違いは、あやふやなんじゃないかな。仲間だった人達以外は知らない人ばっかりだから…」
「…人間全部が敵だってことになるのか」
「怒りを抑えるのは大変だよ。カイエンさんだってドマであんなに違った」

いつも穏やかで優しい物腰のカイエンさんでも、感情がそれを変えてしまう。きっとあのまま怒りに任せて1人で戦っていたら、どうなっていたか…。

「マッシュがいたから、カイエンさんは自分を止められたんじゃないかな。共に戦う事で無謀になる気持ちをマッシュが止めたんだよ」
「そんな事ないって……」
「私はそう思う。きっと1人だったら大変な事になった気がするから」

だから、ルノアさんの怒りをエドガーが受け止めたんじゃないかなって。マッシュがカイエンさんを止めたように、エドガーがルノアさんの怒りを受け止めてあげたんだ。そうしなきゃ、きっと1人だろうと戦いにいってしまったかもしれない。

「だから、マッシュの怒った気持ちは私が貰う。少しは軽くなるかもしれないし…」

冗談に聞こえるかもしれないけど、それなりに本気で。
いつもの彼がいつもと違う事に、こんなに自分が動揺してる。だから、少しでも元気なマッシュになって欲しくて言った言葉だった。

「何か言いたいことあったら言って!何でも聞くから!」

愚痴をこぼしてくれたらいいなって思って彼の顔を見れば、酷く切ない表情をしていた。重なる視線が外せなくて、自分の心臓が痛みと共に強く脈を打つ。

どうしてそんな顔をするのか、何でそんなに切ない眼差しを向けるのか。見つめられることに耐えられなくなった私は、強引にその視線を自ら逸らして、今を別の話にすり替えた。

「あのね!実は渡そうと思ってたものがあって」

腰に提げたポーチから取り出したのは、ツェンで手に入れた魔石。自分が持っていても役に立たないからと彼に差し出すのに、マッシュは受け取ってくれなかった。

「俺はいいから、ユカが持ってろよ」

彼の手が私の手の平を包むように上から握り締めてくる。温かさが伝わってきて、触れ合っているんだと実感すればする程に胸がどんどん苦しくなっていく。

それなのにマッシュは、追い討ちをかけるような言葉を私に伝えた。

「ナルシェで魔法は出来ないってお前に言っちまったけど、本当はそうじゃないんだ」
「で、でも、戦えない私には出来ない…から」
「出来ないんじゃなくて、して欲しくなかった。魔法が使えるようになったら、きっとお前は無茶するし、戦うなんて言いそうだからよ」
「・・・そんなことは」
「酒場で働けないって言ったのも結局同じでさ…。気のいいお前の事だから、変に絡まれてマランダの時みたいになるんじゃないかって気がしてた」

マッシュの言葉が心に降って来る度に、胸の奥がズキズキと痛み出す。これ以上聞きたくなくて首を横に振るけど、彼は噤むことなく話し続ける。

「出来ないって言っちまったのは、俺がユカにして欲しくなかっただけなんだ」
「……わかったよ…もう」
「言葉足らずだし、勝手なこと言ってごめんな」
「大丈夫……いいから…っ」

喉の奥が熱くて、こみ上げる気持ちが溢れそうになる。

だから、これ以上は話さないで。
見つめないで。
私の名前を……呼んだりしないで。

「俺は」
「マッシュ!準備しないと出発の時間になるよ」

手を離して、彼から遠ざかって、目を逸らしたまま笑って話す。

「私、ティナ達に声掛けてくる!心配だからさ」

下を向いたまま早足で船内に戻る自分は、一体何がしたいんだろう。
心配になって自分から話し掛けにいったくせに、最後は自分勝手に話を終わらせて彼の前から逃げ出した。

だけど、あれ以上マッシュの傍には居られない。
超えてはいけない一歩を、踏み出してしまいそうだから。
逃げ出すしか、出来なかった。


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