EP.25
テントに差し込んでくる眩しい朝日に起こされ、大きなあくびを盛大にした。
目を擦りながら外に出ると、肌寒い山の空気が眠気を吹き飛ばしていく。

「おはよう。よく寝れたか?ユカ」
「ロックさん、おはようございます。昨日は久しぶりにちゃんと寝れた気がします」
「そっか良かったな!」
「あれ、エドガーさん達は?」
「エドガーなら焚き木を取りに行った。それとマッシュは相当疲れてるのかまだ寝てる」

焚き火をいじりながら彼が袋からパンを取り出す。
朝食の準備の手伝いをして用意が出来たところで、私はティナをロックさんはマッシュを起こしに行った。

「ティナー!朝だよー!起きるよー!」
「―――――…………」
「ティナほら。もう起きないと。ご飯食べよう?」
「・・・・ん…」

まだぼーっとしたままのティナの手を引いてテントから連れ出す。
焚き火の前に座った彼女の髪がまだ結ばれていなかったから、代わりに手櫛で纏めてあげる事にした。
陽の光が当たってキラキラと輝く緑色で少し癖のある柔らかい髪は、ふわふわでとても気持ちが良い。

「綺麗な髪だね」
「…そう…?」
「うん。柔らかくて綿あめみたいかも」
「綿あめって?」
「砂糖で作ったお菓子でね、ふわふわしてるんだ」
「何だか美味しそう。ふわふわ」
「どっかに売ってないかな。あったら一緒に食べたいね」
「うん、食べてみたい私も」
「じゃあ今度探してみよう」
「ええ」

髪を縛りながらそんな会話をしていたら、ロックさんがこっちを見ながら笑っていた。

「何か気の抜ける話してるな、2人ってさ」
「す、すみません…旅の途中なのに」
「全然悪くないって。むしろ気持ちが和むよ。最近大変な事が続いてるしさ」
「ロックさん達も大変なんですね」
「多分これからもっと大変になると思うぜ。なにせ…」
「ッおい、ユカ!!!パン焦げてるぞッ!!!」
「え!?!?!」

突然の大声に驚けば、テントから顔を覗かせたマッシュがこっちに向かって騒いでいた。慌ててロックさんがパンを火から遠ざけるが、熱さからかそのパンを宙に放り投げる。

「「「あ…!!」」」

ティナ以外の三人の顔が空を飛ぶパンに向き、それを一番にキャッチしたのはマッシュだった。

「あぶねー」
「あ、熱くないの??」
「いや別に」
「ほんと?って…あ、熱いよ!!!」

確かめようと触ったパンは今でも十分に熱い。
なのにマッシュは全然平気そうにそのパンを持っていた。
するとロックさんが感心したように言う。

「確かこういうのって面の皮が厚いって言うんだよな」
「・・・え??ロックさん??」
「何かちがくないか?」
「意味が違うよ全然。厚いのは手の皮!!」
「そっか!悪い悪い」

悪びれず笑う顔を見てると、何だか最初の印象とは全く違う一面が見えてくる。それはもちろん悪い方ではなくて、相手と時間を共有したからこそだろうか。

「ロックさんって面白い方ですね」
「そうか?」
「はい」
「俺から見ればユカの方が面白いけどな」
「そうでしょうか…」
「俺も前からそう思ってた」

パンをかじりながら急にマッシュが話に混じりロックさんに賛同する。

「俺達とは話の切り口がちょっと違うよな」
「そうだな」
「しかも見た目の割に妙に落ち着いてるし」
「確かに」
「2人して馬鹿してるような…」
「「してないって」」
「してるよ」
「「だからしてないって」」

言い合いに疲れて負けを認めると、ロックさんが笑いながらこう言った。

「今みたいに話してくれていいから」
「え?」
「変に気を使うのは大変だし、これから一緒に行動するなら仲間だろ」
「ロックさん…」
「ついでにその呼び方も変えてくれよ?」
「うん………ありがとう、ロック」
「どーいたしまして。さ、エドガーも丁度帰ってきた事だし飯食ったら出発だ!」

呼び方が変わるだけで今までと違う結びつきになるこの感覚はこれで三回目。
そんな皆の輪に入って頬張るパンはとっても美味しく感じられた。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -