EP.23
陽の色が濃いオレンジになりはじめた頃、マッシュさんが目元を腕で拭きながら呟く。

「すまん……かっこ悪いとこ見せて」
「そんな事ない。格好悪くなんてない…っ!!」
「・・・・・ユカ」
「大事だからこそだって思うから…そんな風には思いません」
「ありがとな」
「そんな…気にしないで下さい」

口角を少し上げて話すと、相手も同じように小さく笑みを返す。
マッシュさんは力を抜くように足を伸ばしながら座ると、海を眺めたまま聞いてくる。

「これからどうするか決めてんのか?」
「・・・いいえ…その…何も」

こんな事態になるなんて考えてもいなかったから、自分の身の振りなんて思いつきもしない。

「検討もつかないですけど、でも…自分の場所に帰るべきだとは思います。だた、どうすればいいかは全然…」

あまりに漠然としていて、定まっていない考え。
喋った自分に対して溜息を付くとマッシュさんがこう切り出す。

「旅しないか、一緒に」
「…旅ですか?」
「もしかしたらどっかにあるかもしれないだろ?ユカの居た国がこの世界のどこかに」
「ある……のかな」
「同じ所に居ても見つからないなら自分から探しに行くのも一つの手だと思うぜ」

もしもマッシュさんの言うように何も変わらないとしたら。
ここに一人残って生きていたとして、戻れる保障は何処にも無い。
自分の世界の痕跡が感じられない場所にずっと居てもどうにもならないのなら、自分から探しに行くべきなのかもしれない。
だけど……。

「でも私は戦えないから…」
「俺が戦えばいいだろ?」
「そんなの大変過ぎます!」
「いいんだ、大変で。そうじゃなきゃ困るしな」
「どうしてですか?」
「俺にとっては修行。ユカにとっては帰郷。どうだ?なかなかいいだろ?」

名案だと言わんばかりの顔でこっちを見るマッシュさん。
だけど、本当にいいのだろうか。
本当についていっても構わないのだろうか。

「…マッシュさんはこれからエドガーさん達と行動を共にするんですよね?」
「ああ」
「私がいる事を他の皆さんが了承してくれなかったら…」
「大丈夫だ!!俺の兄貴だからな!話せば絶対に分かってくれる!!」
「マッシュさん……」
「だから心配すんなって。それで、どうする?ユカ」

そこまで言ってくれるなら。
こんなにも親身になってくれるのなら、自分の答えは決まっている。

「行きます…!一緒に旅に出ます!」
「よしっ!!じゃあ決まりだな!!!」

2人同時に立ち上がり笑顔で向かい合い、差し出されたマッシュさんの大きな手を握る。
挨拶を交わしながら意気揚々とする自分に対して、何故か眉をひそめてみせた彼。

「…あ〜…あのさ」
「はい、なんですか?」
「前から思ってたんだけどよ、名前の後に“さん”付けるのやめないか?」
「え・・・?」
「それから敬語も」
「いきなりどうしてです?」
「いや、なんか落ち着かねぇんだ」
「でも、マッシュさんは私よりは年上ですし」
「そういうのも苦手なんだよな。上とか下とか」
「う、う〜…ん」
「だって俺達これから一緒に旅する仲間だろ??」
「な・・・かま…」
「だから、そういうのはナシ!!決まり!いいな!」

強制的に決められた関係性は人生で初めてのものだった。

“仲間”

なんていうか。
何というか。
とても不思議で強さすら感じる響きのある繋がり。
これが今後の自分にとって、とても大事なものになっていくんだと知るのはまだ先の事だ。


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