EP.30
目を開けた瞬間、空が見えた。
怖い夢を見たときの様な感覚がして、今が現実なのかわからない。

だけど、みるみる思い出す記憶に慌てて起き上がると、すぐ近くにマッシュがいた。
どうやら奇跡的に浅瀬に打ち上げられたようで、お互い無事だったようだ。

ほっと胸を撫で下ろし、これからどうしようかと考えていると、寒気と一緒に大きなくしゃみが飛び出した。

「はぁ…、は…、は…ッくしょんッ!!!!」
「―――な…ッツ!?!?!?」

私のくしゃみに驚き、勢い良く飛び起きたマッシュが、戦闘態勢になりながら慌てて辺りを警戒する。

「な、な、な、何だ!?敵か!?」
「敵は居ないよ」
「そうか…びっくりした」

はぁと安堵の息を吐き出すマッシュ。くしゃみを敵と判断された事は少し釈然としないけど、目を覚ましてくれたのは良かった。

「そうだ、ユカ!あのタコ野郎はどうした!?」
「分からない。水中に潜ったきり出てこなくて」
「くそ、今度あったら覚えとけ!!」
「私はもう会わなくていいかな」

反骨精神を露わにするタフなマッシュに感服してると、その彼が何かに気付いたようにこっちをじっとみる。

「どうかしたの?」
「…あ!?あ、いや…そういえば何でユカがここにいるんだ?確かあの時イカダに…」
「そうだよ、あの時」
「もしかして転んじまって川に落ちたのか??」
「そうそう……。ッそうですよ!!!もういい、勝手に先に行きますから!!」

ふんすかしながらマッシュを置いて歩き出す。濡れた上着を脱いで、怒りと共にぎゅっと絞り上げれば、ボタボタと水が地面に零れ落ちていった。

打ち上げられた場所からさほど離れていない場所に家があるのを発見して、2人でその場所へ立ち寄ることにする。
着いて早々目に入ったのは、家の前に設けられた井戸の前にいる人物だった。

全身黒で覆われた服装。
目元以外は露出していない為に、まったく表情が読み取れなかった。
纏う空気は独特で、近寄りがたい空気を醸し出している。けれど、そんな事もお構いナシに普通に話しかけるマッシュ。

「旅の者か?実は仲間とはぐれてしまったんだ。ナルシェに行きたいのだがどう行けばいいか知らないか?」

すると、その黒装束の男性は律儀にもその質問に答えてくれた。

「東の森を抜けたところに帝国が陣を張っているらしい」
「帝国が!?」

今リターナーが対立している帝国がそこにいる。
そんな話を聞けば嫌でも反応してしまった。

「どうやらドマの城を狙っているような気配だ」
「ドマの城か…。でも俺達は急いでナルシェに行かなければならないんだ」
「ナルシェに行くにはドマを抜けるしか道はない。俺がドマへ案内してやってもいいんだがな」

まさかの申し出に驚きはしたが、土地勘がない自分達では迷う可能性もある上に効率も悪い。だから頼もうとすると、気が変わったらいつでも俺は抜けるからなと先に条件を突きつけられた。
彼の条件を了承しマッシュが頷くと、相手は自らをこう名乗った。

「俺の名はシャドウ。いつでも死神に追われている」

名前と共に語る不吉で予言めいた言葉。
思わず受け入れてしまう雰囲気に少しだけ怖くなる。けれど、彼の隣にいる犬がそんな雰囲気を相殺させている気がした。

近寄ろうとしたけれど、シャドウさんに止められる。この犬はインタセプターという名前らしく、飼い主以外殆ど人に懐かないそうだ。
でも完全に嫌われてはいないようで、距離を詰めても吠えられなかったので安心する。

その後に少し休ませて貰おうと家を尋ねてみると、そこにはおじいさんが一人で暮らしていた。会話をすれば通じるけれど、一人で成立させていまう傾向があるようで、ストーブや芝刈り機の修理の話や時計とベッドの不調、それから子供の事を話していた。

「子供?うー、ワシには子供などおらん!!あー、ゾッとする」

まるで言ったことを無かったかように言葉を重ねながら首を振る素振りを繰り返す。

「どうしたんだろうね…」
「何かあったのかもしれないな」

不調の筈なのに轟々と燃えるストーブの側で、濡れた服を乾かしながら老人の話を聞いていた自分達。少しならいいと了承された滞在を終えて、気になった子供の話を聞こうとしたら、いきなり人が変わったかのように声を荒げてきた。

「いい加減にしないとキサマも獣ヶ原に放り出すぞ!!」

追い出されるようにして部屋から出た途端、家の軒先に突然飛び出してきたのは巨大な黄色い鳥だった。
先ほどの老人といい、黄色い鳥といい驚きの挟み撃ちで叫びそうになる。

「マ、マ、マ、…マッシュ…!!!!」
「どした??」
「あ、あれって…もしかして?」

モンスターかと一瞬思ったその鳥は、なんとチョコボだった。しかもチョコボの道具屋という便利屋だったようで、旅支度も兼ねてアイテムを購入することにした。

マッシュが買い物をしてる間、自分は人生で初めて見る生のチョコボをぐるぐる回りながらじろじろ観察した。
映像で見るよりも本物の方が目がすごく大きい。
羽は柔らかくって触り心地は抜群だった。

「おーい、ユカ。行くぞ」
「はーい」

名残惜しいけれどチョコボに別れを告げ、ドマという場所を目指しシャドウさんと共に三人で南下していった。 


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