EP.31
平原を東へ進むと木々が生い茂る森に突き当たる。
その森を抜けて山沿いに南へ向かうと、そこにはシャドウさんが言った通り帝国軍が構える陣地があった。
大きな仮設テントが設けられ、土嚢と石で区画された堅牢な作りのその場所を、今から自分たちは抜けるというのだ。帝国兵の数は多く、番犬までいる。
それ以上に目を引いたのは、あちこちに置かれた見たこともない歩行型の巨大兵器だった。

ゆっくりと慎重に身を潜め敵陣を進んでいくと帝国兵の話し声が聞こえてきた。
耳を澄ませ話を聞けば、噂話を持ち出し会話を始める。

「おい、知ってるか?」
「ああ、あの話か?」
「しーッ…。声が大きいぞ。ケフカにでも見付かったら大変だぞ」

辺りを警戒しきょろきょろする兵士二人は、安全だと分かるとまた噂話を続けた。

「どうもあいつはレオ将軍を我が軍から追い出して自分が将軍になろうと、企んでるらしい」
「冗談じゃないよ。あんな奴が将軍になったら実家に帰らしてもらうよ、ホント」
「しーっ!…もしあいつに聞こえたらどうする?牢屋にブチ込まれちまうぞ!」
「…わかった、わかった」

敵内部でも派閥があるのか、ケフカという人物をかなり毛嫌いしているようだ。そんな噂話をしていた兵士達が、急に敬礼をしたのでそのまま様子を窺えば、異色の存在が突如として現れる。

「おい、コラ!お前らキチンと見張ってるか、ん?」
「ははっ。これはこれはケフカ様ではございませぬか」

この道化師の様な風貌の男が兵士達に嫌われた存在のケフカという人物らしい。白粉を塗った肌に目立つ模様と真っ赤な唇、斬新な服の色合いが益々奇異な雰囲気を助長していた。

「ちゃんと見張ってなかったら痛い目にあわしてやるからな!」

そう言い放ち居なくなるケフカに対し、残された兵士は当たり前のように、鼻につく存在を責め始めた。

「…まったく何だろうね。あいつにゃレオ将軍の爪のアカでも飲ましてやりたいよ、ホントに」
「しーっ!だから声がデカいって言ってるだろ!…全く、お前は。いいか?あのケフカの野郎はレオ将軍みたいに人間の出来た方とはちがうんだから注意しないと大変だぞ」
「ああ、全くだ」

文句を言い終えた兵士達が頷きあっていると、服装の違う兵士が現れ、話をしていた2人に激を飛ばした。

「おいっ!そこの2人!これよりドマ城に対し突撃を行う!2人とも隊に加われ。今すぐだ!!」

帝国が各地を侵略しているという話をリターナー本部で聞いたけれど、それが今まさにここで起こっているなんて。現状を知ったとはいえ、心苦しいけれどここに来た目的はナルシェに行くためだった。

けれど、その作戦が決行される事により兵士の動きが活発になり私たちの身動きが取れなくなる。身を潜めて今の状態が落ち着くのを待っていると、伝令として戻ってきた兵士が今の状況を誰かに報告し始める。

「レオ将軍。ドマの者は篭城戦の構えです」
「お得意の戦法でくるか」
「将軍、城を攻める心構えはできています。いつでも命令を下してくだされば…」
「そう焦るな。もし今ドマ城に攻め込んだとしても無駄な犠牲を多く払うだけだ」
「しかし、将軍。帝国の為なら私はいつでも命を落とす覚悟は出来ています」

硬い信念の兵士はレオ将軍という人物に自らの命の進言をする。
しかしそのレオ将軍は穏やかな声でこう話した。

「お前はマランダ出身だな?」
「は?は、はい。しかし何故?」
「国には家族もいるだろう。この私にお前の剣を持って家族の所へ行けというのか?その時私はどんな顔をすればいい?お前は帝国軍の兵士である以前に1人の人間だ。無駄に命を落とすな。ガストラ皇帝もきっとそうお望みだ」
「はい!」

敵国とされる軍にも強い絆がある事を垣間見てしまう。自らを投げ打って突撃に向かう一般兵を、こんなにも思う人が敵である筈の帝国にいるなんて考えもしなかった。

複雑な気持ちを抱きながら未だに動けずにいた矢先、帝国のリーダーであるガストラ帝国からの伝書鳥が来たと知らせが届く。

「皇帝がお呼びのようだ。私は先に本国に帰ることにする」

この場所を任せたと兵士に一任させ、早まった真似だけはするなと念を押していた。立ち去る敵国の将軍の背中を見つめながらマッシュが小さく呟いた。

「レオ将軍か……。敵とはいえ、なかなか分別のある男のようだな」

自分が思ったようにマッシュもレオ将軍に何かを感じたようだった。
ようやく落ち着いたのか兵士の気配が少なくなったのを見て移動を試みたが、またもやケフカが現れ私たちの行く手を阻んでくる。

1人で何やらほくそ笑むようにして陣地の端でブツブツと独り言を口にしている。するとその背に向かってレオ将軍が戒めるようにして話し掛けた。

「くれぐれも間違いは起こさぬ事だ」
「お前さんよりもてっとり早くやってやるよ」
「卑劣な真似だけはするなよ。敵兵といえども同じ人間。そこを忘れないでくれ」
「リターナーに属す国などに情けの心はいらんわ!!もっとも最初からそんなもんは持ち合わせてないがなっ!」

レオ将軍が立ち去った後、またもケフカはブツブツと文句を口にしていたようだった。そして1人の兵士とまるで密会でもするかのように辺りを確認すると、恐ろしい言葉が聞えて来た。

「毒は用意できたか?」

今聞こえて来た言葉は本当なのだろうか。
耳を疑う状況だったけれど、事実へと移り変わろうとしていく。

「しかし毒は駄目だとレオ将軍に…」
「奴はもうここにいない。俺が一番偉いんだ!毒をよこせ!」
「しかしドマ城内には我が軍の捕虜もいます。もし彼らが水を…」
「構わん!敵に捕まるようなマヌケは必要ない!!」

止める兵士の言葉も聞かず、ケフカは毒入りの瓶を奪い取る。そして意気揚々と自分達が潜む場所へと向かってきていたのだ。

一体、どうしたら……。

毒がもし使われたら、沢山の人が間違いなく死んでしまう。
だけど、この敵陣の中で乱闘を起こすような事をしたら、無事にこの場所から抜け出せる保証は低くなる。でも、この事実を知っているのに知らないフリをして自分達の事だけを考えることが本当にいいことなのか。

巡り巡る答えの出ない螺旋。
もしも今の自分に力があったとしたら…この最悪の事態を止めるという選択肢が持てたかもしれないのに。考えても無駄な願いが頭を過ぎっている間にもケフカは近づいてくる。

完全に身動きのとれない自分。判断を仰ぐようにマッシュの方を見ると、彼の表情が物凄く険しいものになっていた。お師匠様の時とは違う、けれど同じように何かを思う眼光と強く握りしめられた拳が物語る。

きっとマッシュはこうする筈。
そう感じた直ぐ後に、隠れていた場所から飛び出しケフカの前に立ちはだかった。

「そうはいかないぞッ!!!」
「けっ、うるさい奴め。痛い目に遭わしてやる!」

突如始まった戦闘だったがケフカは攻撃を浴びると、ふざけてるとしか思えない形相であちこち逃げ回る。

「待て!ケフカ!!」
「待て!と言われて、待つ者がいますか!」

怒りがこみ上げるいたちごっこが始まり、それでも食い下がり敵を追い詰めたと思った矢先だった。ケフカは近くにいる兵士を相手として宛がい、そのまま何処かへと姿を消してしまった。

追いかける事の出来なかったこの隙が、直後の悲劇へと繋がっていった…。 


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