EP.06
木々が茂ったその場所には思った通りのものがあちらこちらに落ちていた。辺りを窺いながら良さそうな枝を拾い集めていたら、視界の端で何かが動く。

「ん??」

目線を動かしていけば、その場所にいたのはリスに似た何か。
ただ、その動物のサイズがどうにもおかしかった。

「でかくない……?」

今まで見たリスの中で…いや小動物というカテゴリの中で一番のサイズかもしれない。
この土地特有の動物?
だとしても、だ。
大きい。いや、でかい。
太っているという感じではなく、明らかにサイズとして大きい。

かわいい、けど…じっと動かずこっちを見つめる大きな目が怖い。
それに変な威圧感の様なものが取り巻いている気がする。

自分の内側から聞こえてくる警鐘。
そして絶妙な距離感を保つ動物と私。
逃げようか、それとも威嚇しようか。
もしも逃げたら逃げ切れるだろうか。
いやもしかしたら相手がすっごく早いかもしれない。
それにこっちが威嚇したとして、驚いた向こうが恐ろしいものに豹変したらどうする?

「―――………」

結果、動けなくなる。
早く戻らなきゃ火が消えてしまうのに。
だけど、この動物との睨み合いはどうしたらいいのか。
いいや、迷ってる時間なんてない。
やらなければならないんだ。

「…っせーの……」

息を吸い込んで。

「ッわッッ!!!!」

精一杯の大声で相手を威嚇し、怯んだであろうその隙に速攻で家に向かって猛ダッシュした。

成功したと思っていたのに背後から何かが迫る気配を感じる。あまりに怖くなって叫びそうになったが、家の近くまで来ると頼りにしている人達の姿が見えた。

助けて欲しいと伝えたいのに走ってるせいで呼吸もままならず、後ろをついて来る動物から逃げるので精一杯。けれど、その緊迫した状態が功を奏したようで首尾良く相手に伝わっていた。

ゴールテープを切るようにそこに到着すれば、バルガスさんが文句を言い、マッシュさんはここを離れろと指示をする。

「チッ…。まともに火の番も留守番も出来んとはな」
「ユカ!おっしょうさまの後ろに行け!」

言われるがまま避難すると、林から追いかけてきた動物はいつの間にか群れをなしていて、その中には見たこともない変な生き物もいた。

今にも襲い掛かってきそうな群れを目の前にして、連れて来てしまった自分が不安になる。どうしたらいいの、と慌てているとお師匠様は笑って答えた。

「大丈夫じゃ。安心して見てなさい」
「でも…っ」

納得出来ずに言葉を続けようとするけれど、自分の前に立つマッシュさんとバルガスさんの動きを見た瞬間、お師匠様の言った事を理解した。
2人の動きは風を切るように速く、けれど、とてもしなやかな動きだった。繰り出した拳は目で捉える事が出来ない程で、あっという間に2人以外立っているものはなかったのだ。

今まさに目の前で起こった事だというのに理解が出来ない。だけど、マッシュさんとバルガスさんが凄いっていうのはハッキリと分かった。
まるで突然現れた英雄のようで、同じ人間とは思えないくらいとても強くて逞しくて心強くて、走った影響と今見た光景のせいで自分の心臓が煩く騒ぎ続ける。

呆然とする私を見たバルガスさんは“やる事をやれ”と捨て台詞を吐いて離れていき、マッシュさんはそれとは反対に、こっちへ歩きながら優しい言葉を掛けてくれる。

「無事で良かったな」
「は、…はい。本当にそう思います」
「それとさ、ユカ」
「なんですか?」
「さっき林の方で叫んでなかったか?」

確かに一言だけ叫んだ。
何で今更そんな事を確認するのか分からなかったけど、自分のやった事を相手に教えたらマッシュさんは変な顔をしてみせた。

「い、威嚇した…って?」
「そうです」
「どうやって?」
「わっ!!って」
「なに……??」
「だから大きい声で“わっ”て」
「くっ………っだはははッ!!もう駄目だ!無理!」

いきなり大声で腹を抱えながら笑い出すマッシュさん。恥ずかしくなって怒ったけど全く意に返さず笑い続けていた。お師匠様がそれくらいにしなさいと少しだけ宥めるような言葉を掛けてくれたが、その場を治めるでもなく、そのまま家へと入っていってしまった。

残されたのは笑うマッシュさんと顔を顰める自分だけ。
もういいやと不貞腐れて、抱えていた木を全部放り投げるように焚き火にくべた。

「はー…あ、いや、悪ぃ。でもさ、…っくくく、ほんと」
「悪いと思ってないじゃないですか」
「いや、思ってるって!だから、そう…あれだ、あの」
「何です?」
「だから、ほら……っぶははは!やばい、腹がよじれる!」

完全に思い出し笑いしてるだけじゃないか。
反省の色も無く楽しそうに笑う彼。
でもその笑い顔を見てたら、何だか自分まで面白くなってきてしまう。

「もう、知りません」

怒ったように、でも結局はつられるように2人して笑っていた。だけど、あまりに笑いすぎて涙を拭くマッシュさんを見たときは、流石に笑い過ぎだと思った――。


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