EP.90
地下の牢屋に出た俺達は、そのまま盗賊達を追っていく。城の中には地中に閉じ込められ苦しそうにする家臣達の姿があった。

ジェフは城の皆を気にしながら1人1人に言葉を掛けて前へと進む。
その様子を見て、やっぱりあの男は兄貴なんだなって理解するには十分だった。

もしも本当に宝だけが狙いだったら、人の事なんて気にする訳がない。
兄貴だからこそ城を救う為にここまで来たんだって思える。

牢屋を抜け、反対の動力室へ向かう階段を降りて行く盗賊たち。きっと、あいつらは最深部にある宝物庫を目指しているに違いない。
俺が城に居た時も、殆ど入る事を許されなかった動力室。踏み入れたその場所には、見たこともないモンスターが我が物顔で徘徊していた。

長い間、地下に止まっていたせいで占拠されたんだろう。
行く手を阻む敵をセリスと共に蹴散らしながら、ようやく一番奥にあるフィガロ城の最重要部分であるエンジンが格納されている機関室へと辿り着く。

扉をくぐって中へと入れば、巨大なエンジンを見つめるジェフの後ろ姿があった。
そして見つめる先のエンジンには、無数の触手が蠢くように絡みついていた。

「こいつが…からまっていたせいか……」

ジェフは触手に目を向けながら、盗賊達に向かって先に行けと言い放つ。全員を奥に行かせた後、ジェフはエンジンに絡みつく触手に対して戦闘態勢に入った。

まさか1人で戦うつもりなのかと、見かねた俺とセリスが声を掛けると、振り返った兄貴がこっちに向かって大きく応える。

「何ボケッとつったってる!!セリス!マッシュ!それとルノア!手伝ってくれよ!」

俺とセリス以外の名前が出てきた事に驚いて後ろを振り返れば、そこには本当にあの女がいた。サマサの村での出来事が未だに胸につかえている俺の目の前を、何事も無く通り過ぎていく相手。
そして、当たり前のように兄貴の横に立ち、敵に対して剣を構えていた。

「植物を枯らすのには火と毒が一番効く筈だから」
「ああ、分かった。それから雷だけは止めてくれよ。精密機械の弱点だからな」
「…確かに…。そのような説明が本に書いてあったような気がする」
「納得するのは後で頼む。さあやるぞ、ルノア」
「分かっている」

あまりに自然な2人のやり取りが信じられなくて呆気に取られていると、突如襲い掛かってきた触手。強引に始まった戦闘に意識を集中していると、モンスターを挟んで向かい側にいる兄貴とアイツが話をしながら戦っていた。

「エドガー、手前右の触手には炎が効かないみたい」
「なる程、それぞれ属性が異なるのか」
「けれど、毒属性は全ての触手に効果があったから、きっとあの機械なら」
「それじゃあ遠慮なく使わせてもらう。いいか皆!近寄るなよ」

兄貴が機械を取り出しバイオブラストを照射すれば、毒が蔓延して黄色い触手を蝕むように段々と弱らせていく。

「セリス!この触手には冷気が効く」

言葉と同時に巨大な氷塊が空中に現れ、指し示すようにして触手に落下していった。
的確な判断と冷静な対処。兄貴とあの女の連携は凄くスムーズで、まるで互いの事をしっかりと把握しているようだった。

戦いが続いていく中、一本の触手が異様な動きを見せると、兄貴を狙っているのが見えた。何かが起きる前に片付けてやろうとしたが、こっちが動く前に敵の攻撃が繰り出されてしまった。
間に合わないと思った瞬間、兄貴を攻撃から庇うように飛び出してきたのはあの女だった。触手に体を締め上げられ、身動き一つ取れない相手の名前を呼ぶ兄貴の声が、機関室に響き渡った。

「ルノアッ!!!!!」

兄貴の切羽詰った声とその表情を見たら、たとえ俺の中に蟠りがあったとしても何もしない訳にはいかなかった。装備していたナックルで触手を引き裂くように攻撃すれば、バラバラと植物の蔓が千切れ落ちていく。

「ッ…ゴホ…ッ…すまな、い…」
「兄貴を助けてくれたお返しだ。さっさと終わらせようぜ!」

向かってくる敵を武器と魔法と機械で応戦し、残り一本となった触手。
その敵に兄貴が攻撃をすると、すかさず追い討ちの強力な魔法が降り注いでいった。エンジンに絡み付いていた触手は苦しむように蠢くと、バラバラの破片になって跡形も無く消えていった。

長い戦いの末、俺たちは全員無事に戦いを終えることが出来た。ホッと一息ついてすぐ、兄貴に話しかけようとしたけど、俺よりも先にセリスが声をかけていた。

「しらばっくれて!」
「フィガロが故障したって話を聞いてな」

兄貴はあの盗賊達が城の牢屋から洞窟を使って出てきたことを知って、城へ入り込む為に盗賊を利用していたんだ。あいつらを牢屋に入れていたのが国王の兄貴だってバレれば、大変な事になるから何も語らず1人で動いていたんだろうな。
とはいえ一言でいいから俺達に話してくれればいいのにって思った。

「みずくせえな」

俺の言葉にふっと鼻で笑った兄貴は奥から聞こえて来た声に気付き、全員に隠れるように指示した。
部屋から出てきた海賊達はボスだった兄貴を探した後、死んだと思ったのかそのまま機関室を後にしていく。盗賊が出て行った後、セリスが兄貴に宝の話をするけど全然気にしている様子は無かった。

「宝には何の価値もない。本当の悪はケフカさ。やつらには罪はない」

ケフカに対する思いは俺達と同じ。
だったら答えは決まっている筈だ。

「またハデにやらかそうぜ!アニキ!!」

俺達の声にしっかりと頷いた兄貴は、あの女を呼び寄せると、共に行こうと話をしていた。セリスもさっきの戦闘で助言してくれた事にお礼を伝えていたし、普通に話しかけているのを見て、俺も今までの自分を変えなきゃいけならないって痛感する。
そして何よりも、相手は兄貴の事を敵の攻撃から庇ってくれたんだから。

「今まで…その、悪かった。思い違いしてたんだ、俺」
「・・・・・・・・・」
「これからよろしくな!ルノア」

相手に手を差し出して握手を求めるけど、ルノアは俺を見てるだけで何もしようとしない。そればかりか後ずさり、アニキに耳打ちをしている。

「彼は何をしようとしているんだろう?」
「握手だ。仲良くしていこうっていう意味合いで、普通に手を握り合えばいい」
「なる程」

聞き終えた後、ルノアは俺の手を握りしめる。
思った以上に小さく感じたその手は、やっぱり男と違って柔らかい。
何となくユカを思い出してずっと手を握っていると、アニキがやけに大きい咳払いをしたのに気付いて慌てて手を離した。

その後、エンジンの修理をすると言って兄貴はマントを脱ぐと、ルノアにそれを当たり前のように手渡していた。何だかずっと昔からの知り合いの様な、理解者の様な接し方だなって思ったのは俺だけじゃないようだ。

「何だか……エドガーじゃないみたい」
「だよな。アニキってあんな感じだったか??」
「ううん。今までとちょっと違うわ」

一体どういう事なんだと頭を悩ませていると、ルノアはアニキに色々と質問をしているようだ。エンジンの構造はどうなっているのか、動いたらどこの大陸に出るのか、とか。
その質問に兄貴も結構細かく答えてやっているのが凄く印象的だった。

俺たちがバラバラになった日から一年も会わなきゃ多少は変わるもんかなって、楽しそうに話をしてるアニキを見ながらそんな事を思っていた。

埃とモンスターの残骸にまみれたエンジンの修理を終えて、機関室を後にする俺達。残っている敵を排除しながら地下一階まで戻ってくると、アニキは早速城の移動を指示していた。

大きな音と共に陸上へと上がっていくフィガロ。
俺達は、兄貴とルノアの2人を加えて次の大陸、コーリンゲンへと向かった---。


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