EP.89
蛇のようにうねる道を歩き続けていくと、途中に山に囲まれた巨大な塔が見えてきた。セリスによるとあそこには狂信者っていう、ケフカを讃える奴らが集まっているらしい。

どうしてこんな世界にした奴を、まるで神様みたいに祀るんだって不満に思いながら、山に囲まれた場所にそびえる塔を横目に俺達は北上していった。

ニケアの町に辿り着くと、そこは崩壊前の町がそのまま残っている状態だった。人の数は減ったかもしれないけど、商業気質なのかそれでも他の町よりは活気がある。

やっぱりここに来ても思い出すのは、旅をしていた時の事。ガウがハチャメチャな飯の食い方したり、体調を崩したユカが倒れた場所だ。

セリスがまた俺に、その時の話を聞かせてというから喋ったのに、相手はやっぱり可哀想だって言い出した。

「無理をさせ過ぎるからでしょ!」
「いや…そうだよな。だから俺だって反省したんだぞ」
「ユカも本当によく我慢したわね。女の子の扱いが乱暴すぎる」

男顔負けの戦いをするセリスがまたそんな事を言った。
それに比べればユカは弱々しい方だよなと思う。
でも、負けん気は強いぞって言うと、セリスは尚更呆れた顔をしていた。

この町でも旅の支度をしながら色々な場所で聞き込みをしたけど、仲間の姿は見当たらなかった。その代わり、フィガロ行きの船が出てる情報を手に入れることが出来た。
次の大陸にも視野を広げようと船着場へ向かったが、何やら理由があるようで俺たちは乗船を断られた。

「今この船は、盗賊貸切なんだ」
「盗賊だって?」
「今なら町の酒場にでも集まってるだろうよ」

だったらその盗賊とやらに話をつけて、片道だけでも乗せて貰おうと酒場へ向かうことにした。店に入ると盗賊らしき男たちがくつろいだ様子で酒を飲んでいるのが目に付く。
早速、船の事を聞くために話しかけたら、こいつらはとんでもない事をやらかそうとしているのを知って俺は声を荒げそうになった。
だけど、それをセリスに止められ、どうにか堪えながら黙って話を聞いていた。

「ボスはフィガロに乗り込む気だ。俺達の宝がフィガロの倉庫にしまってあるからな」
「俺達だけが知ってる秘密の洞窟からフィガロ城に乗り込むのさ」
「牢屋が偶然大ミミズの巣に繋がったんだ。そこを通って地上まで出てきた」
「前のボスはあの日に死んじまったよ。今はこの町で出会ったジェフがボスさ」

全員の話を纏めると、こいつらを束ねるジェフっていうボスがいるらしい。俺の大事な故郷でもあるフィガロの宝を狙うなんていい度胸してるじゃねえかよ。
だから、そのボスってのに一回会って船に乗せてもらった後、思いっきりぶん殴ってやろうと思った。

「よし!取り合えずボスを探して直談判するか」
「ええ、そうしましょう。それと、絶対に手は出さないで。話が決裂したらお終いだわ」
「あー……出来るだけな」
「乗れなかったらどうするつもり!…ほんと、ユカもよくマッシュと旅してたわね」
「何がだよ」
「褒めてるのよ、ユカの事をね。それより行きましょう」

不満を抱えながら盗賊のボスを探して町の中を歩き回っていると、いきなりセリスが俺の腕を叩きながらどこかを指差した。
何かと思って見てみれば、長身で髪の長い男の後姿があるだけだった。

「だからどうしたんだよ」
「よく見て!ねぇ…何だかあの雰囲気エドガーに似てない?」
「アニキに??」

うーんと首を傾げていると、セリスはいきなりその男の後ろに立って声を掛けた。

「も、もしかしてエドガーじゃない?」
「何だお前ら?」

ぶっきらぼうな相手の受け応えに、これのどこが兄貴なんだよと思いながら成り行きを窺っていると、セリスを無視してその男は歩き出す。
町で買い物をするその男を追いかけるセリスを少し離れて俺は見守る。時々セリスが話しかけるけど、男はとぼけた返事を返すだけで一向に素性は割れなかった。

「――――………ん?」

そんな時、ふと誰かに見られている感じがして周りを見回したが、不信な人影はない。気のせいかと思ったが、その後も度々見られてる感覚があった。
なるべく気にしないように、それでも注意しながら男を追いかけるセリスを追って後をついていく。

町の中心部を抜けて酒場の前を通った辺りで、突然男の足が止まった。セリスが諦めずに話しかけると、相手はこれからフィガロ行きの船に乗るとだけ話す。

「とぼけないでよエドガー。それとも……記憶を失くしたの?」

尋ねられた相手は、優雅にマントを翻しながら振り返ると、ニヒルな顔付きでセリスに向かって答えてみせた。

「俺は生まれた時から荒くれ者のジェフって名さ、レディ」
「レディなんて言うのは、エドガーさんだけよ」

一瞬ぎくりと肩をあげ、まずいと言わんばかりの顔をしてみせるジェフ。一度咳払いをしたあと、取り繕うようにして放たれた台詞と仕草が、この人物の全てを物語っていた。

「レディに優しくってのは世界の常識なんだよ」

人差し指を立てながら、優しい表情で持論を展開する姿は完全にアニキそのもの。ジェフって名前に変わった俺のアニキは、そのまま船着場へと向かって歩き出していってしまった。

「ほら、言ったとおり。エドガーだったでしょ?」
「間違いなくアニキだったな…」

だけど、名前を偽ったりあんな変装までして盗賊のボスを演じるのだから、きっと何か考えがあるんだろう。俺達は静かに後を追って、貸しきりになっている船内へと忍び込んでいった。すると、また何処からともなく視線を感じ、辺りに視線を向けた。

「どうしたの?」
「・・・・いや」

ジェフがフィガロに乗り込むと話した後、船はニケアを出発しサウスフィガロの町に到着した。盗賊達が降りた後、俺達も町の中へと向かってゆっくりと歩みを進める。
どうやらジェフは宿屋の二階にいるようで、とりあえず盗賊達が動くのをこのまま待つことにした。

世界が崩壊して以来、来る事が出来なかったサウスフィガロの町。
だからこそ俺は唯一気になっていた事があった。

それは、この町に住むおっしょうさまの奥さんの事。無事だと思うけど、それでも気になるから俺はセリスに少しだけ時間をくれと頼んでみた。

「勿論よ。行ってあげて」
「悪い。直ぐ戻る!」

セリスと別れて街の東側にあるおっしょうさまの家に向かって一目散に走り出す。息を切らしながら到着した家の前で、少し乱暴にドアをノックした。
中から聞こえてきた声に返事をして家の中に入っていくと、奥さんが椅子から立ち上がり俺の所に歩み寄ってきてくれた。

「マッシュ!…あなたもよく無事で!」
「俺はこんな事で負けやしないから!」

笑って答えると、奥さんもにこりと笑みを返してくれる。そして俺の手を取ると嬉しそうにしながら、夢にも思ってなかった話をしてくれたんだ。

「うちの主人生きていたわ!ナルシェの北で修行するって…」
「そんな…おっしょうさまが……生きて」

奥さんが目に涙を浮かべながら俺に伝えてくれた事実。
亡くなったと思ってたおっしょうさまが生きてるなんて、こんなに嬉しい事が今まであっただろうか。

「俺…ッ絶対に会いに行きます!!!」

頷いてくれた奥さんに別れを告げ、俺はセリスの元へと戻っていく。嬉しさのあまり笑みが浮かぶ程、本当に良かったと思える話だったんだ。

酒場で様子を見ながら聞き込みをしていたセリスは、俺が戻ってくると世界が引き裂かれた日からフィガロ城がなくなったと教えてくれた。

「じゃあ今どこにあるんだ?」
「それが…地中で故障しているらしくて」
「故障!?待てよ、一年もの間、地下に閉じ込められたままだって言うのか!?」
「マッシュ!落ち着いて!だからこそ盗賊達について行くしかないわ」
「分かった。何が何でも絶対について行く!」

意気込みを新たに頷き合い、二階にいるジェフの様子を探りにいく。セリスはもう一度だけ相手に声を掛けるが、結局あしらわれただけで終わった。

盗賊の1人がジェフを呼びに来ると、酒場にいた盗賊もろとも行動を開始した。
俺達はその後を追って町を出ると西側に出来た洞窟へと入る。すると、入り口付近にいかにも怪しい奴が立っていた。

「この先は危険だぜ。俺様が先に行ってモンスターどもを残らず片付けてきてやる。ここで待ってな」

どこかで一度だけコイツと会った事があるような、ないような…。そんな感覚が残っているせいか相手の言葉を素直に信じられる訳もなく、疑いをもって後を追いかけて行けば、普通にモンスターが襲ってきた。

敵の巣食う洞窟を先へと進んでいくと、奥から盗賊達の声が聞こえてくる。身を隠しながら成り行きを窺っていると、1人の盗賊が泉を泳ぐカメをエサで釣って呼んでいるのが見えた。

「よ〜し、よしよし。カメちゃんエサだよ」

すると本当にカメが寄ってきて、差し出したエサを食べ始めた。
その隙に盗賊が移動してきたそのカメを足場に奥に見える穴へと入っていく。他の盗賊達が次々に入っていくのを目にした俺達は、同じようにカメを踏み台にして奥へと進んでいった。

奥に繋がる道を歩いていくと宝箱の蓋が開いていた。勿論盗賊が全部開けていった後で、からっぽの箱だけが並んでいる。
洞窟の入り口で出会ったあの胡散臭いヤツは宝箱が狙いだったようで、俺達を見るとすぐに何処かへと逃げていった。

前方ばかりを気にしていた俺だったが、不意にまた何処かから感じた人の気配。注意して辺りを探るのに、見つけることがどうしても出来なかった。

ジェフというボスに扮したアニキと盗賊達。そして何者かの気配を背中に感じながら洞窟を抜けると、そこは本当にフィガロの城の中と繋がっていた---。


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