EP.91
地中内部を北西に移動し、1年ぶりに地上へと浮上したフィガロ。城で休憩をとった後、俺たちはコーリンゲンの村へと向かった。
その道中で、俺は兄貴たちが今まで何をしていたのか聞く事にした。

「アニキもルノアも他の仲間には会わなかったのか?」
「ああ。俺もルノア以外はマッシュとセリスが初めてだ」
「私は、ティナに会うことが出来た」
「モブリズか??」

頷いたルノアは自分が世界を放浪しているとき、初めて訪れたあの村でティナに会ったらしい。ただ、俺達と同様に、あの村を出ることを迷っていたと話す。

「彼女の魔導が日に日に弱くなっていくのが分かった。…そしてティナは戦いではなく子供達に目を向けるようになっていった」

だから、ティナをあの村に残し、自分が代わりに旅立ったという。

「今まで戦いばかりの人生を送っていた彼女は、あの村に残るべきだと思ったから」

ルノアがティナをそんな風に思っていたのを知って、結構優しい奴なんだなと思ったのが正直なところだった。きっと最初に受けた印象が強すぎたせいで、俺はルノアの怒りの部分しか見てなかったんだって感じる。

これからは共に行動していくんだから、きっと仲間として信頼を築ける筈だ。前向きな気持ちでコーリンゲンの村に到着したのだが、目の前の情景にその気持ちが沈む。

壊れた家や枯れ果てた木々があちこちに残っていて、物悲しい雰囲気が漂っていた。芽吹かない花の種を見て、子どもが悲しそうな顔をしていたり、昔の美しかった村を懐かしむ老人の姿もあった。皆が一様に俯いているその村の酒場で、俺達は酒に溺れる1人の男の後ろ姿を発見した。

「セッツァー!」

セリスが嬉しそうに話しかけると、セッツァーは瞬きを何度もしながら驚いた表情を見せていた。そして一緒にケフカを倒しにいこうと話したけれど、その言葉は何故か相手に届かなかった。

やる気を失い、平和の消えた世界が辛いと口にする。そして自分の翼である飛空挺を失った事や夢を無くしたからこそ前に進めないんだと。

俯くセッツァーにそれでもセリスは話し掛け続ける。こんな時だからこそ、夢が必要だって。世界を取り戻すっていう夢がいるんだって。

その言葉を聞いたセッツァーの目が、だんだんと輝き出す。
そして、自分の夢に付き合ってくれと俺達に言った。

「蘇らせる。もう一つの翼を…!」

セッツァーの言葉にその場に居た全員が頷き、立ち上がる。コーリンゲンの村を出て向かった先は、西側にある岩で作られた墓の前だった。
岩の一部にセッツァーが触れると、音を立てて地下へと続く階段が現れた。

まるで城の一部を思わせるような内部をアンデットモンスターと戦いながら進んでいく。その最深部に到着した俺たちは長い長い階段を降りていった。

下へと向かう階段を降りながら、セッツァーが語るのは親友であるダリルの話。
俺達はその言葉を聞きながら、ゆっくりと歩んでいった。

大切な親友、もしかしたらそれ以上の何か。
失ったその飛空挺を整備し、地下深くに眠らせたと話すセッツァー。

ファルコンと呼んだ飛空挺の操縦桿を握ったセッツァーは、感慨深い表情をしながらエンジンを起動させる。
そして地下から一気に海中を超え、地上へと上がり空へ舞い上がっていった。

「今度は俺達の夢を」

そう語ったセッツァーは、風を切る飛空挺と同じように夢を抱いて前へと進んだに違いない。

飛空挺を手に入れた俺たちは、これでようやくガレキの塔にいるケフカを倒しにいける。だけど、その前に仲間をもっと探して、自分達自身も強くならなきゃ三闘神の力を手に入れたケフカにはきっと敵わない。

仲間を集める手がかりを捜すため、良い方法がないか考えていると、一羽の鳥が飛空挺と並走しながら飛んでいた。
皆の視線が向いたとき、急に甲高く鳴いたその鳥は、まるで俺達を何処かへと誘うかのように飛び去っていった。

「セッツァー!追って!」
「どうした?」
「わからない…けど、あの鳥の行く先に仲間が待っていそうで…」

セリスの言葉に頷いたセッツァーは、鳥を追い掛け飛空挺の舵をとった。

仲間がいるかもしれないっていうセリスの直感が本当に当たるかもしれないと思えたのは、鳥が向かった場所がマランダの町だからかもしれない。

飛空挺を下りて聞き込みを開始すると、早々に仲間に関しての有力な証言が聞けた。
腕前のある剣士で、“ござ”だか“おさる”だか変な口癖をもった人物が、この前まで町に居たらしい。

今の話から連想するに、きっとその人物は・・・。

「カイエンじゃねぇか?」
「ああ、その可能性は高そうだ」
「でも、一体何処に行ったのかしら…」

足取りを掴もうと町の住人に聞いたが、これ以上の事は分からなかった。もし、一つだけ可能性があるとすれば、町の一番奥にある家かもしれない。
だけど、そこの住人が不在で、どうする事も出来なかった俺たちは、一度出直すために飛空挺へ戻ることにした。

家の住人が帰ってくるのを待っている間、俺は妙にそわそわして落ち着かなかった。その理由は、飛空挺が手に入った今だからこそ行ける場所があって、だからこそ行きたい場所があるからだ。

マランダからずっと北にあるナルシェの大地。

サウスフィガロでお師匠様が生きていると奥さんから聞いた時以来、ずっと気になっていた。迷っている今の時間すら惜しくて、俺は意を決して話すことを決めた。

「あのさ、皆。お願いがあるんだ」
「どうした?改まって」
「ナルシェにどうしても行きたい」
「ナルシェへ?」
「正確にはナルシェの町より北だけど、もしかするとそこに俺のお師匠様がいるかもしれないんだ」
「しかし、マッシュ……お前の師はあの時に」
「それが、生きてるって聞いたんだ!師匠の奥さんがそう教えてくれた!!」
「本当か!?」
「だからこそ俺は会いに行きたい」

あまりに私的な話だけど、どうしても確かめたかった。
無茶な提案をした俺の肩を叩いた兄貴は、皆に向かって話をする。

「弟の頼みを聞いてやってくれないか」
「勿論よ」
「ああ、いいぜ」
「今は何もできないから、その望みを叶えるべきだと思う」

全員が俺のワガママを快く聞いてくれた。ありがとう、と大きな声でお礼を口にして、俺達は飛空挺の進路をナルシェへと向けた。

その移動中、アニキは俺に1人で会いに行ってこいと話しをしてくれた。

「久しぶりの再会なんだ、ゆっくりしてくるといい」
「いいのか?」
「ルノアも言っていたが、今は動きようがないしな」
「まぁそうだけど」
「積もる話もあるだろう?」
「そうだな!色々話したいこともあるし」
「その間、俺達はナルシェの様子を見てくるさ」
「分かった。ありがとな、アニキ」
「弟の頼みくらい聞いてやるのが兄の務めってもんだろ?」

ふっと笑って答える兄貴はやっぱり優しい兄貴で、時々俺の気持ちのせいで複雑な関係になるけど、困ったときは本当に信頼出来る唯一無二の存在だなと改めて思った。

それからマランダの町を出発して数時間後。ナルシェ近辺に停泊した飛空挺を降りた俺は、明日の朝合流する約束を交わし、お師匠に会う為に、北を目指して1人歩いていった---。


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