オレが助けなければならないのです。

(厚side)


審神者がやってきた。外が何やら騒がしく、足音がこっちに近づいてくるのがわかったのだ。押し入れの中に身を潜める。

一刻も早く審神者を殺したかった。早く殺してこの部屋を出たい。

脳裏に浮かぶここで起こった様々な出来事を目を瞑ってひたすら我慢する。

吐き気がする臭い、目を開けたらもう自ら刀を折ってしまいそうになる。だけど我慢だ。オレが一番動ける。

今もなお閉じ込められている兄弟を助けられるのはオレしかいない。

この部屋に入ってきた途端、気配が動かなくなって空気が一変した。

まさかオレに気づいたか。そんなはずはない、と息を殺す。ピリピリと張り詰めた空気で冷たい汗が背中を伝う。

そんな中審神者は窓や扉を全て開けていく。

漂っていた臭いがなくなっていくのと同時にここに来た数々の審神者の腐りきった霊気が消えていくのがわかった。

息が、しやすい。


「ッは…」

グラッと身体が動いた。しまった。息を小さく吐いた瞬間に腕を掴まれ引きずり降ろされる。

「見つけた。」

顔を上げると無表情だがどこかオレを嘲笑っているようなコイツと目が合った。強い力で振りほどこうとしても動かない。

負ける。折られる。

脆くなった心臓に追い打ちをかけるように殺す、と言った。

それでもコイツは微動だにせずオレを見下す。無駄ということはわかっているが、少しでも隙ができるように睨み続ける。

まだ、オレは負けていない。オレが折られたら、誰があいつらを────


「見逃す。」

「…は、?」

「次やったら命はない。」

そう言ってコイツはオレの腕を離す。

この出来事に唖然として突っ立っているしかなかった。

頭が上手く回らない。オレに背を向けて何かを探している。

オレはアンタを殺そうとしていたんだ。それなのに、なんで。

「鍵。」

オレに身体を向けて鍵を投げてきた。すっぽりと手の中に収まって鍵と審神者を交互に見る。これは何の鍵が。なぜオレに渡したのか。

「…これ、」

審神者が鍵を取り出した所は机の引き出しだった。オレらが手をかざすだけで電流のようなものが流れ触れることも出来ない引き出しを、コイツが音もなく簡単に開けた。

その中に入っていたのがオレに渡す鍵だとしたら。

オレは部屋を飛び出した。痛む足も腕も気にしていられなかった。

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