僕達は仲間を失っているのです。

(燭台切side)


また審神者がここに来たらしい。

「人間が彷徨いているらしい。」

伽羅ちゃんが襖の隙間から廊下を眺めている。

こんな警戒心もなく歩き回ってさ。すぐ死ぬね、その人間。動ける他の皆が殺してくれると思ったのに。

僕らのいる部屋の前に気配を感じた。

正直ありえなかった。ここに来るまでは結構な距離がある。その間には人間だと簡単に死ぬ仕掛けがあったはず。

…たまたまか。

それよりも貞ちゃんを助けないと。絶対に渡さない。触らせない。

伽羅ちゃんと僕が襖の端と端に立って刀に手をかける。開いた途端に同時に刀を振りかざした。

(…は?)

避けた。二振りの刀を。そして躊躇っている間に貞ちゃんを奪い、部屋の外に移動し襖まで閉めてしまった。これも僕らが体制を整える間の出来事だった。偶然としても奇跡としか思えない動作。


「貞ちゃん…!」

貞ちゃんが人の手に渡った。貞ちゃんが奪われた。

「落ち着け。何かしたら斬る。」

今すぐ斬りたい衝動を必死に抑えて従う。触るな。触るな…貞ちゃんが穢れる…

人間は僕に背を向けて殺してくれって言っているようなものだ。

刀を握る力を強め、一息つく。もう耐えきれないと足を開いて腰を低くする。足を踏ん張ろうとした時に目を瞑ってしまうほどの強い光が人間の周りを覆った。

思わず目を閉じて再度開けたら声も出なくなっていた。


「貞ちゃん、が、いる。」

人間の前に立っているのはずっと前に折られた貞ちゃんだ。気がついたときには部屋を飛び出して貞ちゃんの元へと走っていた。

存在を確かめるために強く抱き締める。

「アンタが、俺を…」

人間が貞ちゃんを蘇らせたって言うのか。人間が貞ちゃんを折ったのに。

これだから人間は嫌いなんだ。感情のまま行動して心も読めないなんて。人の子なんていらない。この人間の身体も感情もいらない。俺らは刀の姿のままでよかったんだ。

「これも人間の気まぐれか。」

伽羅ちゃんが人間の顎あたりに刃先を向ける。だけど恐怖を抱くどころか、冷静に伽羅ちゃんを見つめる。この行動がわかっていたかのように。

「動じないんだね。さっきもだけど。」

人間がわかるはずない。人間は僕らを越すことは出来ない。なら、なぜ。こんなに殺気を出している伽羅ちゃんに怯えもしないんだ。

「礼は言う。」

ダメだよ。君が人間の醜さなんてよく分かってるはずだ。気に入らないってだけで折られたんだ。どうせコイツもすぐ死ぬ。人間はそういう奴なんだよ。

「先程の、何故避けた。何故避けられた。」

やはり伽羅ちゃんも気になっていた。一応僕らは第一部隊だったんだ。他の皆よりは格段に強いと思える。それを、易々と。

「たまたまだ。」

答えてはくれなかった。コイツは本当に人間なのか。絶対自分の強さを偽っている。あれは人間の速さではない。そして折れた刀を一瞬で元に戻す審神者なんて見たことない。まず折れたら死んだも当然なのに。

「刀は興味ない。」

そう言って去っていってしまった。僕らは顔を見合って頷いた。

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