希望を貴方に託したいのです。

飯が無くなるのもあっという間だった。程よく満たされた腹を摩る。身体が軽くなった気がする。

「ご馳走様。」

人間が手の平を合わせて言った。ごちそうさま?これは何かのしきたりなのかな。

人間が俺をじっと見てる。俺もやれってこと、だよね?俺も同じような動作をした。

「…あれは食事後のアイサツだ。『ごちそうさまでした』と言って食事を終える。人間のやることだ。」

骨喰が俺の口を拭きながら教えてくれた。挨拶…俺もやる。口には出せないから心の中でごちそうさまでした、と伝えた。

…あ。

人間が目を細めていた。優しい顔、してる。わ、笑った…?なんでだろう、俺何もしてない、よな?…え、もしかして、伝わったとか?そんなわけ…

「…!」

俺が考え込んでいたら人間が俺の分の食器も重ねてさっさと片付け始めた。

待って、俺…

慌てて椅子から立ち上がって隣に立った。さほど気にする様子もなく片付けを続けた。

俺、ちゃんと言いたいよ。このヒトに、お礼だけでも言いたい。

そう願っていても上手くいかなくて。頑張っても喉に声が引っかかる。

ついには終えてしまった。どうしよう、早く。焦れば焦るほど自分で首を絞めているような感覚になる。

人間が冷蔵庫の中を覗き、何かを取り出した。水洗いしてキラリと光ったのは苺だった。なんで、苺なんか…

また先に食べてから一粒俺に寄越した。突然の事に戸惑いながら苺を受け取り、口に含む。俺が飲み込んだのを確認してから苺全部を俺に渡した。


「無理に喋らなくてもいい。」

俺が声を出せないって、やっぱり気づいていた。その上、難なく声が出るようになるまで待ってくれると。この苺も俺を落ち着かせるため…?

「…甘いな。」

「……。」

甘い。骨喰も同じこと考えてる。いつの日か失った声を取り戻して皆に伝えたい。

やっと、光が差し込んできたって。

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